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更新:2009年10月1日 11:50モバイル:連載・コラム

石川温のケータイ業界事情

携帯向け動画「BeeTV」はテレビに続くメディアに育つか

 エイベックス・エンタテインメントとNTTドコモが今年5月に始めた携帯電話向け動画配信サービス「BeeTV」が好調だ。月額315円の有料サービスでありながら、9月11日現在で75万人を突破している。果たして、BeeTVにはどんな戦略があるのか。

 NTTドコモはパケット定額制や高速データ通信規格のHSDPA網などリッチコンテンツを配信する環境が整ってきた2年ほど前から、動画配信を強化し始めた。「ドコモ動画」と名づけたメニューや「YouTube」などの動画サイトを含めると、全ドコモユーザーのうち1300万人が何らかの動画サービスを視聴していたが、一般に広く認知されるような状況ではなかった。 

 しかし、5月にサービスを開始したBeeTVは約半年で75万会員と順調なペースでユーザーを獲得してきている。その理由について、NTTドコモの前田義晃コンシューマサービス部ネットサービス企画担当部長は、「2つの要素が大きかった」と振り返る。

■携帯に最適化した番組作り

 まず、1つめが「携帯電話に特化した番組作り」だ。

 BeeTVで配信している番組の大半は、BeeTVのために独自制作している。ドラマなどでは携帯電話の小さな画面を意識したカット割りが行われ、本編の長さも数分で収まるものばかりだ。

 「過去の動画サービスはテレビや映画向けのコンテンツを単純にケータイに切り出した二次利用的なものが多く、ケータイにわかりやすくフォーカスしたものではなかった。音楽なら着メロのように、動画も携帯電話というプラットフォームに合わせて使い勝手や利用価値を提供しなくてはならない。当たり前のことに最初は気づいていなかった」(前田氏)

 もう1つが「メジャー感」だ。

 BeeTVでは、フジテレビジョンや日本テレビ放送網、TBSテレビといった各民放テレビ局がドラマなどの番組制作を担当するとともに、様々な芸能プロダクションが参加している。そのため出演者も豪華で、番組のクオリティーも総じて高い。

 「BeeTVの制作スタッフ、キャストはテレビで見られるのと同じメジャー感がある。エイベックスは、ユーザーにとって魅力的なエンターテインメントをつくるのがうまい会社。世の中にインパクトを与えるコンテンツを作ってきた実績がある。(影響力は)ユーザーだけでなく、作り出す人たちにも強烈なメッセージになった」(前田氏)

■最大規模のプロモーション

 NTTドコモは、これまでも日本テレビや角川書店などと提携し、携帯電話だけで見られる映像コンテンツを配信してきた。しかし、実験的な要素も強く、メジャーな存在になることはなかった。BeeTVでは、初めからテレビ局や芸能プロダクションと組むことで、テレビ番組に近い存在感を出すことに成功している。

 また、エイベックスとの共同事業だが、音楽コンテンツを前面に出したわけではない。最近でこそマドンナや安室奈美恵などのコンテンツもCMに登場するが、初めはドラマやバラエティーなど音楽以外のジャンルを積極的に訴求した。

 スタートダッシュで大量の契約者を獲得した背景には、NTTドコモの大々的なプロモーションがあったことも忘れてはならない。テレビCMだけでなく、雑誌や交通広告など様々なメディアでBeeTVの名前を聞いたり見たりしたユーザーも多いのではないか。

 「プロモーションをやるなら、徹底的にやらなくてはという意識はあった。それだけの素材を持っているので、世の中に広くあまねくリーチしてユーザーを獲得していきたい。これまでもコンテンツプロバイダーや提携企業と一緒にいろいろなことをしてきたが、プロモーションの規模でいえば最大級だろう」(前田氏)

 NTTドコモでは、広告だけでなくドコモショップでも勧誘活動に力を入れ、ユーザーを増やしつつある。

■まず女性をターゲットに

「BeeTV」のメニュー画面

 そこで気になるのは、「BeeTVは誰が見ているのか」という点だ。エイベックスによると、「視聴者は20〜30代が約7割を占めるが、提供するコンテンツによっても変動する傾向がある。男女比は、ドラマは女性の人気が高く約6割。しかし今後、10代や40代以上の年齢層や男性層に向けたコンテンツを投入することで、割合は変わってくるのではないか」という。

 BeeTVは、ブームを作り出すために戦略的にまず女性を取り込むような番組編成を行ってきたという。実はNTTドコモの契約者は男性6割に対して女性が4割。つまり、BeeTVは男女比が逆ということになる。「通常、新サービスは男性が飛びつく傾向が強い。立ち上がり期から男女比が逆転しているのは珍しいケース」(前田氏)という。

 利用状況を分析すると、BeeTVを見始めたことでパケット定額制の上限に到達したユーザーも増えつつあるという。ただ、大部分はもともと定額の上限まで使っていたようで、BeeTVによってNTTドコモのパケット収入が劇的に上がったというわけではなさそうだ。

■「印税」方式の分配モデル

 BeeTVは、キャストや制作陣をみてもわかるように、コンテンツにかなりの制作コストをかけている。当然、携帯電話向け配信だけの収益構造ではない。

 配信した番組はDVD化や別チャネルでの利用など、マルチユース展開を考えている。実際、サービス開始初期に配信されたドラマ3本はレンタルDVD化され、そのうち2本は幻冬舎によって書籍化もされている。

 また、BeeTVでは、コンテンツ制作側にもメリットがあるビジネスモデルを構築した。動画配信の世界に「印税」という考え方を持ち込んだのだ。

 月会費300円(税別)のうち、まずキャリア手数料36円(12%)を引く。残額264円から総売り上げの11%を上限とし、各番組の視聴占有率に応じて番組に印税を分配。さらにここから主要キャストやスタッフに割り当てていく。DVD化などの二次利用も同様だ。

■容量制限が制約に

 順調に見えるBeeTVだが、ユーザーからすると「画質」が気になることがある。iモードの動画には「10MB」という容量制限があり、1〜3分程度のバラエティー番組だと鮮明で美しい映像が視聴できるのだが、5〜6分以上のドラマとなると若干、鮮明でなくなってしまう。この問題についてはどう考えているのか。

 「確かに現状検討しているところではある。容量制限を広げたいとは思うが、すでにドコモ内では(他の動画サイトや一般サイトを含めて)1300万人が動画を視聴している。FOMAネットワークの利用状況を見ても半分強がiモーションで占められている。今後、状況を見極めて判断していきたい」(前田氏)

 2010年から始まる次世代規格のLTEが音声端末にも搭載されるようになれば、解決できるだろうが、それまではもうしばらく辛抱が必要かもしれない。

■年内に150万契約が目標

 BeeTVの当面の課題はユーザーのさらなる拡大だ。損益分岐点は150万契約と見積もっている。

 「年内に目指している150万契約はかなり高い目標ではあるが、それ以上に集めていかないといけない。テレビが立ち上がった時、映画に携わっていた人が参入したことで、今のような巨大メディアに育った。テレビの次にケータイという流れが出てくれば、大きなビジネスになる。BeeTVはそこに先鞭をつけたい」(前田氏)

 BeeTVの登場によって、ケータイ向けの動画サービス全体が注目され、活気が生まれ始めている。テレビ局が広告収入で苦戦するなか、新たなビジネスチャンスをもたらす場としても期待されそうだ。

[2009年10月1日]

-筆者紹介-

石川 温(いしかわ つつむ)

 

略歴

 日経ホーム出版社に入社し、月刊誌「日経Trendy」編集記者に。ケータイ業界を中心にヒット商品、クルマ、ホテルなどを担当。2003年にジャーナリストとして独立した後、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広くケータイに関する記事を執筆。テレビなどにも多数出演。近著に「グーグルvsアップル ケータイ世界大戦 AndroidとiPhoneはどこまで常識を破壊するのか」(技術評論社)、「ケータイ業界52人が語る「戦略」の裏側」(毎日コミュニケーションズ)がある。

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