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更新:1月6日 10:10インターネット:最新ニュース

インタビュー2009(2)チームラボ猪子寿之社長「情報価値のルールが変わった」

 2009年のインターネット業界、メディアはどんな方向に変化していくのか。推奨エンジンの開発やウェブサイト制作、アートなどの自社事業を手がける一方、産経デジタル取締役も務めるなど、ネットおよびメディア業界で幅広く活躍するチームラボの猪子寿之社長に聞いた。

――ここ数年のウェブ業界の流行だった「Web 2.0」が下火になってきました。これからの動きでどんな点に注目しているしょうか。

 過去の時代はマスコミという選ばれた人しか情報発信できなかった。それが、だれでも発信できるようになったのが、Web2.0だったと思う。Web2.0と呼ばれる動きのなかで、ブログやSNSを使ってみんなが情報発信するようになり、既存のメディアでは対応しきれなかった多様性を享受できるようになった。

 中身はみんなが作るようになった。だからこれからは中身だけじゃなくて、情報が集まってきたりアクセスしたりする動線が大事になると思う。ウェブサイトのリンクも、みんながクリックしてたどっていくと、つながる先がどんどん動的に変化していくようなイメージ。今でいうと、それをわかりやすく実現しているのはランキングかな。

 みんなの利用によって変わっていく。キーワード検索だって優先順位がどんどん変わっていっていい。だからウェブサイトにあらかじめ用意してあるサイトマップなんてものは意味がなくなるし、いらなくなると思う。リンク構造がどんどん変わっていくのだから。

――そうした変化に率先して対応する必要があるのは、どんな企業でしょうか。

 特に消費者向け商品を手がけているところは急いで取り組まないといけない。企業のサイトはすでに膨大な情報を発信している。一方、ユーザーの嗜好も多様化しサイトを訪問する目的は様々だ。検索エンジンや外部のリンクを通じて流入するにしても、サイトがとても大きく求める情報にたどり着けなくなっている。

 これを解決するには、推奨エンジンなどを使ってユーザーの嗜好に合わせたリンク構造を自動的に生成するような仕組みが必要になる。そもそも商品が多様になっているので、推奨エンジンなどの技術がなくては成り立たない。例えば、米デルのパソコンは、その組み合わせパターンが合計で数十垓(がい。京の一万倍)にもなるという。

――ネットメディアは比較的堅調ですが、新聞やテレビなどの大手マスコミは業績面で苦戦しています。メディアを取り巻く環境にどういう変化が起きているのでしょうか。

 情報価値のルールがインターネットの普及とともに変わった。情報発信するコストは限りなくゼロに近づき、チャネル数は無限になった。インターネットの世界は多様な価値観にあふれている。マスコミが情報をばら撒いて、誰もが何となく知っているという状態には価値がなくなってきていると思う。

 例えば、音声合成ソフトの「初音ミク」について街中で1000人に聞いたら、少なくとも1人は「すごい好き」と答えると思う。でも同じように1000人に「和田アキ子」がすごく好きかと聞いても、1人もいない気がする。そうすると比較でいえば初音ミクのほうが1000倍どころか無限大に価値があることになる。

 和田アキ子はもちろんテレビによく出ているから知っている人は初音ミクよりずっと多いのだけれど、個々の人にとっての価値という意味では上回っていると思う。実際、「和田アキ子」というキーワードで動画サイトの「YouTube」を検索すると、「初音ミク」に比べてすごい少ない。アップロードという手間をかけてでも、初音ミクの動画を誰かに見てもらいたいという人が断然多いからだろう。みんながただ知っているということより、誰かに渇望されるということがこの世界では重要なのだと思う。

 インターネット放送の「Gyao」がかつて有名アナウンサーの久米宏を起用した番組をやっていたけれど、すごい違和感があった。ルールが変わったのに、従来のマスメディアのやり方を持ってきてしまった。無限の選択肢があって好きな番組を見られることがスゴイのに、誰かにとっての渇望にならない人を使ってしまった。Gyaoが軌道に乗らないのは結局、インフラをインターネットにしただけで、マスコミのやり方を変えていないからだと思う。

 肌感覚として感じるのは、大学に入った1996年に下宿した部屋はテレビがなかったのだけれど、当時は周囲の友人から変人扱いされた。どうやって情報収集してるんだと。テレビを持っていることがパンツをはいているのと同じぐらい当たり前のことだった。

 でも2〜3年前からか、テレビを持ってないと周囲に言っても「あ、そう」という感じで特に驚かれなくなった。人々のマインドシェアは下がっているし、ますます下がっていくと思う。

 結局、テレビ局に入るような人は非常に優秀だから、余計に今のような状況になっていると思う。視聴率が高い方へ高い方へと、どんどん最適化される。例えば、他の局でクイズ番組がヒットしたとなれば、素早くそれを真似した新しい番組を投入する。何となくみんなが見るけど渇望するような番組はなくなったと思う。

――テレビだけでなく、新聞も赤字決算になっている企業があります。新聞購読の代わりにインターネットでニュース記事を有料配信して収益を得るという考え方もありますが、どう思いますか。

 情報に課金するのはかなり難しいと思う。それはニュース記事に価値がないと言っているわけではない。例えば、グーグルの検索は誰もが価値があると思っているだろう。でも無料で提供されている。そもそもテレビだって無料だし、音楽やソフトウエアも著作権以外の部分で稼ごうという動きになっている。

 ただ、インターネットになることで流通コストは大幅に減る。産業規模としては小さくなっても、コストも少なくなるから儲からないわけではないと思う。

――情報流通がインターネットの登場で変わり、社会も変化しています。企業が対応していくためにはどんな組織形態が必要だと思いますか。

 社会が変わっているのだから、企業も変わっていかないといけない。今は必要とされる専門性がすごく上がってきた。例えば、IT関係のエンジニアもかなり細分化されている。システムのインフラやインターフェースデザイン、アプリケーション、アルゴリズムなどの技能が必要で、これらを全部わかっているという人はいないと思う。

 昔ながらの営業部では部長が一番スキルが高かったけれど、そういう時代ではなくて、専門性が高い人がフラットに集まって何かを解決するやり方になると思う。だから部という概念はいらなくて、プロジェクトがベースになる。チームラボも基本的にプロジェクトベースで動いていて、プロジェクト次第で席もどんどん替わる。週に2〜3回席替えするし、1日に2回やるなんてこともある。

 専門性が高い人が集まって仕事をしなければならないことは、iPhoneを考えればわかると思う。iPhoneのデザイン的な要素の大部分を占めるのは、画面のソフトウエアだ。外形のデザインとソフトウエアの境界、クリエイティブとテクノロジーの境界線が曖昧になっている。専門性が高い人がフラットに集まって、一緒に進めていかない限りできないと思う。

チームラボはアートにも取り組んでいる。2008年12月にパリ ルーブルの装飾美術館に展示したLEDディスプレーを使った美術作品

 振り返ってみると、90年代はマイクロソフトの時代で、ソフトとハードが水平分業した業界構造のなかでソフトに集中して勝った。アップルのスティーブ・ジョブズはマッキントッシュでハードとソフトの一体販売をしていて負けたけれど、iPhoneでやっていることは変わっていない。同じことをやっているのに今勝っているのは時代がそういう風に変わってきたからだ。

 選択と集中なんてことをマッキンゼーなどのコンサルタントは言ってきたが、たとえ全部は難しくても専門性の高い人を抱え込んでいく必要はあると思う。それに、同じものなら美しい方がいいわけで、クリエイティビティーの重要性も増していく。

――このところ派遣社員の契約打ち切りが話題になっています。どういう雇用形態がよいのでしょうか。

 みんなフリーで、傭兵のようにあっちに行ったりこっちに行ったりしたらあまりにも不安定で、思考が短期的になる。日本型の長期雇用は、企業が長期的視点を持つうえでよいと思う。

 ただし、企業のコアにならない部分まで専門性の高い人を抱え込むのは難しい。そういう部分は、長期的な関係を築くことのできるパートナー企業と連携するのがいい。ある程度長く働いていない場合は、言葉の行間にある部分まですべてきちんと埋めなければならない。それでは効率が悪い。

[2009年1月6日/IT PLUS]

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