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更新:9月9日 12:54インターネット:最新ニュース

スター経営者が去るグーグル中国、次の試練

 中国IT業界屈指のスター経営者、グーグル中国法人(グーグルチャイナ)CEOである李開復氏の退社が9月3日発表された。中国の理系大学生の「偶像」であり、中国事業立ち上げの功労者である李氏が去った後、グーグルチャイナに何が待ち受けるのか。(肖宇生)

 李氏は米カーネギーメロン大で博士号を取得してから、アップルやシリコングラフィックス(SGI)、マイクロソフトなど世界的IT企業で主に開発責任者として活躍してきた。そして、マイクロソフト中国研究センター長在任中の2005年、グーグルから現地法人立ち上げのために引き抜かれた。

■人気絶大な「ゴッドファーザー」

 この引き抜きに対し、マイクロソフトは1年間の同業他社転職禁止を取り決めた雇用契約条項に違反するとしてグーグルと李氏を提訴。グーグルも応戦し、法廷闘争まで繰り広げた。

 曲折を経てグーグルに移籍した李氏は、グーグルチャイナ立ち上げ後、中国検索最大手の百度を追撃すべく体制を整えつつ、対外発信も積極的に行った。特に理系大学生の間では「ゴッドファーザー」として尊敬され、絶大な人気を誇り、中国におけるグーグルのブランド構築に大いに貢献したといえよう。

 天下のグーグルが中国の現状に合わせてようやく現地化した商品開発に乗り出した矢先だけに、李氏の退社が世間の憶測を呼ぶのは無理もない。李氏本人の次のキャリアへの思いが直接の理由だろうが、グーグルチャイナにとっても1つの時代の終わりであることは間違いない。

■経営者としての採点は?

 グーグルチャイナの設立から約4年、李氏の退社により主要な創業メンバーはすべて去ったことになる。

 05年当時の中国市場におけるグーグルのプレゼンスは、ライバル百度と比べて微々たるものだった。中国でネットビジネスを展開する際に必須である政府発行のICPライセンスさえなく、まさにゼロからのスタートだった。

 穏やかな性格で人望厚い李氏は、その影響力を最大限に駆使してまずグーグルのブランド認知や人材の確保から着手した。その結果、高学歴層を中心に徐々に市場シェアを高め、同時に中国の大学から一流の人材を引き寄せるようになった。

 現在グーグルチャイナに在籍する約700人の開発陣は、李氏が残した最大の財産といっても過言ではないだろう。07年からは百度に対抗してMP3形式の音楽ファイル検索を始めるなどサービスの現地化を進め、09年度第1四半期の検索シェアはついに30%の大台を突破した。

 もちろん、百度の60%超に比べれば大きく水をあけられた状態だが、ヤフーやイーベイ、AOLなど米ネットメジャーの中国での惨状を見れば、4年間でこれだけのシェアを獲得した李氏には十分な合格点が与えられるだろう。

李氏の後任として販売・事業運営を担当する劉允氏(左)〔AP Photo〕

■百度の最強の武器

 とはいえ、グーグルがこの数年で中国に莫大な資金を注いだのも事実である。その費用対効果はどうかといえば、微妙なところだ。なぜならグーグルのシェアはほとんどヤフーなどから奪い取ったものであり、百度を脅かすところまできていない。これについては李氏もグーグル本社も歯がゆいところだろう。

 自由かつアカデミックな企業文化や技術力を前面に押し出したビジネスモデルで中国でも成功したグーグルだが、それだけでは限界がある。百度の最も強力な武器は、地味で垢抜けないが全国の隅から隅までを足でカバーする営業部隊や代理店だ。これが検索サービスの柱である広告収入に直結している。

 こういうところでグーグルはまだ、世界最大手の矜持を捨て切れていないが、変化は出始めている。昨年招聘した前SKテレコムチャイナCEOの劉允氏が李氏の後任になるのもその兆しだ。

 劉氏は大学教授風の李氏とは大きく異なり、根っからの営業マン。R&D担当の後任も別に決まっており集団統治で李氏が去った後のグーグルチャイナを率いることになる。今後、百度流の地を這う経営スタイルにさらに舵を切っていくのかどうかが注目される。

■横綱対決、課題はどこに

 李氏の退社はグーグルチャイナの次の時代の始まりでもある。中国検索市場では、グーグルチャイナが百度の土俵にようやく乗った段階に過ぎない。百度はいまだに無傷のままで、グーグルの百度化、百度のグーグル化など、お互いの得意領域に攻め込む本当の戦いはこれから始まる。

 マーケティング、新サービス、モバイル市場の開拓などが舞台となるが、不安要素はそれぞれにある。百度は検索エンジンを軸としたビジネスモデルから電子商取引などに進出を図り、同じネット大手のアリババと真正面からぶつかっている。経営資源の分散や多方面で競争相手と同時に戦わなければならないことが課題だ。

 一方のグーグルチャイナでは、李氏の後任が今まで以上に米本社との調整機能を求められることになるだろう。中国では現地化を進めない限り勝ち目はないが、中国化すればするほどグローバルな経営方針とのあつれきが増えていく。

 いずれにせよ、中国検索市場は二人の横綱ががっぷり組んだ格好で、激戦区として当面目が離せなくなりそうだ。

[2009年9月9日]

-筆者紹介-

肖 宇生(しょう うせい)

日本総合研究所 総合研究部門 主任研究員

略歴

 1991年中国の大学を中退、来日。92年大阪大学経済学部に入学、96年卒業後に金融機関を経て99年一橋大学大学院経済学研究科に入学、修士号を取得。2001年大手電機メーカーで中国向けの携帯ビジネスに携わる。2003年に野村総合研究所に入社し、中国に進出する日系企業を対象にしたコンサルティング業務に従事。日興アントファクトリーに移り、海外市場向けのベンチャーキャピタル投資に携わった後、2009年に日本総合研究所に入社、中国市場における経営コンサルティングサービスを担当。

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