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更新:8月9日 11:30インターネット:最新ニュース

【コラム】中国に浸透する「Web2.0」的ネット社会(上)

 中国でいま最先端の流行語は何かと尋ねれば、多くの人が「Web2.0」と答えるのではないだろうか。ビジネスのみならず、社会的、文化的にも、昨年後半あたりからこの言葉は急速に一般にも浸透してきた。中国の人々の心に閉じられていたものが、Web2.0の特徴である「ユーザー中心型」「双方向の情報発信」によるネットの世界で一気に解き放たれ、様々な社会現象を引き起こすまでになっている。まさに「Web2.0百家争鳴」の時代に突入しているのだ。(肖 宇生)

 ビジネス面でも、アメリカのベンチャーキャピタルは中国で競うように千万ドル単位の資金を投入。ネタ探しに余念がない。Web1.0の代表であるポータルサイトでさえ、次々とブログやポットキャスト、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)に代表されるようなWeb2.0のサービスに参入してきた。しかし、華やかさを伴う広がりを見せてきた反面、ネットゆえの秩序なき混乱や、Web2.0と銘打った企業の苦戦など、負の側面も浮き彫りになってきた。社会・文化的な側面とビジネス面の2回分けて「中国のWeb2.0時代」を考察する。

■1人の無名の女性から始まったブログの勃興

 中国のホワイトカラーの中で最も流行している趣味といえば、自分のブログサイトを作ることだ。2005年末時点の中国のブログユーザーは推定500万―1000万人といわれている。中国ネット人口の10人から20人に1人がブログを開いている計算で、その数はいまだ急激に増え続けている。ブログが本格的に一般に認知されたのは2003年末だからその驚異的な成長ぶりは驚くしかない。

人気ブログサイトの一つ「中国博客網」

 中国でブログの普及に火をつけたのは、たった1人の無名の女性だった。その女性はブログで恋愛や性生活など極めてプライベートなことを、しかも大胆な表現でつづった。そのリアルさや大胆さに引かれて瞬時にアクセスが集中。一時的にサイトのサーバーがダウンしてしまったほどだ。

 まさに中国のインターネットの歴史に刻まれる一大事件だった。その後も彼女のあまりに大胆な表現方法やブログそのもののあり方をめぐり、中国社会を真っ二つに分けた論争が繰り広げられた。いまWeb2.0時代の到来を叫んでいるITのエリート達は、当時を振り返って苦笑いするしかないだろう。なぜなら、ITに無縁な存在の彼女は一夜にして風雲児になり、よくも悪くもブログの普及に火をつけたからだ。

■全メディアを巻き込んだ「ブログブーム」

 すっかり日常生活に溶け込んできたブログだが、さまざまな社会現象を引き起こしてきた。その代表例は「ブログ名人」と「名人ブログ」だ。一見似ている両者だが、有名になる経緯や読者層が大きく異なる。

 ブログ名人とは、もともと無名の人物が自分のブログを通じて「ブログアイドル」に成り上がったという人物を指す。もちろん、独特な視点やユニークな文章力で読書を引き付ける「才能」の持ち主もいれば、ブログの火付け役である女性のようにもっぱら既存の社会秩序や価値観に逆らう行為によって、大衆の好奇心や「反逆心理」をうまく利用し、自分自身の「虚像」を作り上げてブログアイドルの地位を手に入れるものもいる。社会の注目度からいえば、もちろん後者の方は影響が大きいから、常に物議をかもす。

 一方、名人ブログはもともと各分野で活躍している一線級の有名人が書いているブログ。日本と同様、ポータルサイトがブログ専門サイトに「負けてたまるか」といわんばかりに有名人を招いてブログを開設することから始まった。

 「名人ブログ」の一番のヒット作は、有名映画監督で女優の徐静蕾さんのブログだ。彼女はブログを開いて1年も経たないうちに、4500万のアクセスを集めた。実に記録的な数字だ。既存のポータルサイトとベンチャー企業のブログへの取り組みの違いは興味深い。

 ネット上で人気を博しているブログのスター達の影響力は、ネットのみにとどまらない。新聞インタビュー、テレビ番組、トークショーなどにも引っ張りだこだ。出版社もブームに乗り遅れまいと参戦してきた。一時、有名ブロガーの本は売れに売れた。通常5万冊売れればベストセラーといわれるが、軽く数十万冊売れるから出版社もなりふり構っていられない。その異常な熱中ぶりを冷静に見る動きもあるだろうが、ほとんどのメディアを巻き込み、ブログはまさに最盛期となっているのだ。

■権威なき時代――無名編集者と有名監督の対決

 ブログブームが絶頂期に達する一方、サイトの更新情報を配信する「RSS」機能を活用したポットキャストやビデオポットキャストも新しいスターを作り出した。世界的な映画監督である陳凱歌氏が昨年公開した「Promise―無極」のいくつかのシーンを、1人の若者が加工・編集してコメディー映画を制作、ネットで発表した。これもネット上に瞬時に広がり、圧倒的な支持を集めた。しかし、それを見た陳監督は激怒し、著作権侵害で訴訟も辞さないと強い姿勢をみせた。

 これに対して作者の若者はもちろん反論し、社会全体を巻き込んだ著作権論争に発展したが、判断の分かれる分野だけに勝敗は簡単にはつかない。一方は中国が世界に誇る名監督、もう一方はそれまで全く無名の若者だ。この対決の構図自体、普通に考えればありえないことだが、どうやら若者が優勢のようだ。知名度、作品の質、社会的な信頼度、どれをとっても相手を圧倒するはずの陳監督は、その権威からくる「傲慢さ」が前面に出た格好となり、ネット文化という形の見えない絶大なパワーの前に敗れ去ったといえる。

■Web2.0はネット文化のルネサンスになれるか?

 いまの中国はネット上のコミュニティーが様々な形で盛り上がりを見せている。歴史的に中国人は、ある統一した規範に基づいて行動してきた。正確には「それしかできなかった」のだ。ネットの普及で情報の流通が格段に増えたとはいえ、数年前の「Web1.0」時代にはポータルサイトなどが一方的に発信する情報を受け入れるしかなかった。

 しかしここにきて、人々の心にたまっていた「もの」は一気に噴出する形でWeb2.0時代を支えている。ただし、その解き放たれたものは「玉石混交」の状態であることも否めない。

 しかし、むしろ「玉」より「石」の持つ可能性の方がより大きいのではないかという気がしてならない。誰でも、どこでも情報を発信できる中国のWeb2.0時代は、自律的で健全なネット社会を作り上げるメガニズムを生み出せるのか。単なる「狂騒」に終わるのか、それとも中国のネット文化の「ルネサンス」に脱皮するのか。情報発信の質が、その鍵を握っている。

-筆者紹介-

肖 宇生(しょう うせい)

野村総合研究所流通アジアプロジェクト室

略歴

 1991年中国の大学を中退、来日。92年大阪大学経済学部に入学、96年卒業後に金融機関を経て99年一橋大学大学院経済学研究科に入学、修士号を取得。2001年大手電機メーカーで中国向けの携帯ビジネスに携わる。2003年に野村総合研究所に入社し、中国に進出する日系企業を対象にITコンサルティング、システム設計などを手掛ける。

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