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更新:8月5日 10:30インターネット:最新ニュース

IPO氷河期でも米VCに選ばれる企業――ウェブ2.0はどこへ行く(上)

 まだまだ酷暑の続く日本の皆様には申しわけないが、シリコンバレーは鮮やかな青空の下、日差しは強く眩しいのだが通り抜ける風は冷たくドライで「気分爽快」の一言に尽きる(数週間前に日本から戻ったので余計にそう感じるのだろうが)。いまさら言うまでもないことだが、この自然のマジックがシリコンバレーの地域的競争優位性(Regional competitiveness)の大きい要素の一つであることは、ここに一度来た人なら誰でもわかるだろう。(中町昭人)

■今後数年は苦しい米経済

 つい先日、マイクロソフトからの度重なる買収の提案を何とかしのぎ切ったヤフーのM&A担当のシニア社内弁護士と食事をする機会があったが、本当に「ホッ」としてハッピーな表情が印象的だった。以前の輝きを失ったとしてもヤフーはシリコンバレーの貴重な象徴の一つであり、それがマイクロソフトの軍門に下ることは、筆者も含めシリコンバレーの人間にとってはすんなり受け入れがたいものがあるのだ(「バレー魂」とでも言うべきか?)。

ウォルマートでレシートを見つめる女性。食料品や燃料で値上がりが起きている〔AP Photo〕

 しかしながら、足元の経済環境はシリコンバレーか米国全体かを問わず非常に厳しいし、この苦境は当面続くものと思われる。サブプライムローンによる押し上げなどもあり、過去4−5年に渡って続いた不動産バブルによって積み上がった不良資産・債権の規模はあまりに巨大で、その大半が処理・解消されるまでには、かつて日本が経験したレベルと同等かそれを上回る「痛み・苦しみ」を伴うはずである。

 それに最近の原油をはじめとした資源価格の急激な高騰が追い討ちをかけている。米国経済はいわゆる景気後退局面にも関わらず物価が上昇する「スタグフレーション」段階に入ったと見られる。問題はそのスタグフレーションがどの程度悪化し長期化するかであって、今後の米金融当局による政策の舵取りは一層の困難を極めると予想される。シリコンバレーの6月の失業率は6.1%と5月から0.5%急上昇した。

■狭まる出口

 ベンチャー企業にとって重要な出口(EXIT)の手段である株式・資本市場も、こういったマクロ経済の要因を如実に反映して、資源メジャーなどのごく一部の企業を除き、ほとんどの会社の株価は低迷しており非常に厳しい環境にある。

 既に大々的に報道されたことだが、今年の第2四半期には約30年ぶりに米国でベンチャー企業による株式公開(IPO)がゼロとなり、全米ベンチャーキャピタル協会(National Venture Capital Association、NVCA)をして「a crisis in capital markets」(資本市場の危機)と言わしめた。またもう一つの重要な出口の手段のM&A市場も、バリュエーションなどの面でベンチャー企業に厳しい環境であることに変わりはない。

 00年半ばの「ドットコム・バブル」の崩壊以降、02年のサーベンス・オクスレー(SOX)法の導入なども経て、ベンチャー企業がナスダックなどの米株式市場でIPOするためのハードルは00年以前と比べて格段に高くなった。

 現在は、IPOの時点で年間売上高が1億5000万ドルから2億ドルで、売上高の年間上昇率が25%から50%であり、安定した利益と高い利益率が見込まれることなどが成功するIPOの基本的な条件だとも言われている。これらの条件を全てクリアーできるベンチャー企業はごく一握りである。

 また、ドットコム・バブル発生の原因の一つとされた証券アナリストの利益相反を断ち切るために、投資銀行や証券会社がベンチャー企業のIPOの引き受けを行った場合には、その投資銀行・証券会社に所属する証券アナリストはそのベンチャー企業についてリサーチ・リポートを作成しても報酬を受け取ることができないよう規制された。それがIPO後のベンチャー企業をカバーする証券アナリストの激減という結果を生み、翻ってベンチャー株式市場全体のさらなる相場の低迷につながっているとも言われている。

■投資意欲は衰えていない

 このような厳しい経済環境の中でも、ベンチャーキャピタル(VC)によるスタートアップ企業への投資意欲(およびそれらのVCに出資する投資家の投資意欲)が今のところそれほどの衰えを見せていないことには勇気付けられる。以下は約2週間前にNVCAなどから発表されたこの第2四半期のベンチャー投資の実績のサマリーである。

 ・投資の案件数は990件、投資総額は74億ドルで、これは07年の第2四半期の投資総額である75億ドルとほぼ横ばいであった。ただし、第2四半期がわずかでも前年割れするのは01年以来の7年ぶりのことである

 ・シード(種、事業計画のみ)やアーリーステージ(立ち上げ初期段階)の投資の割合が減り、レイターステージ(軌道に乗った段階)の投資の割合が増えた

 ・クリーンテック(代替エネルギー)関連の投資が約9億ドルに達し、四半期ベースでの史上最高額を記録した(前年同期は約5億5000万ドル)

 ・ウェブ2.0系や「クラウド・コンピューティング」などのインフラ系も含めたインターネット関連の投資も前年同期よりも約5億ドル多い15億ドル強に達した

 ・これに対して、ライフサイエンス分野への投資額はかなりの減少となった。具体的には、バイオテック分野への投資額が前年同期の12億ドル強から10億ドル強に、医療機器分野への投資額が前年同期の10億ドル強から8.3億ドルに、それぞれ減少した。

 この統計からは、現状の低調なIPO市場を前提に、投資のリターンとしては少なくても、より早く出口に到達できる可能性の高いレイターステージの投資にVCの資金が集中する傾向にあることが分かる。

 また、インターネット関連の投資は全体としては引き続き好調であるものの、その中でも過去数年間は非常にホットな分野であったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)については、一時の勢いが相当衰えてきたとも言われている。

 次回は、このSNSを含めたいわゆるウェブ2.0系のベンチャー企業一般に対する最近の市場やVCによる評価の変化、今後予想されるトレンドや期待されるビジネスモデルについて概説したい。さらに筆者のクライアントも含め、最近のシリコンバレーでの日本企業による新しいチャレンジについてお伝えしよう。

[2008年8月5日]

-筆者紹介-

中町 昭人(なかまち あきひと)

弁護士(日本、米国カリフォルニア州・ニューヨーク州)、Kirkland & Ellis LLP・パートナー、国際知財・アライアンス戦略アドバイザー

略歴

 全米トップ10に入るローファームでパートナーを務める唯一の在米日本人弁護士。知的財産関連の契約取引・訴訟・仲裁、戦略的アライアンス、ジョイントベンチャー、ベンチャー・ファイナンシング、M&Aなどを専門分野としている。日米間にまたがる国際的案件に豊富な経験を有し、経験豊富な米国人弁護士相手の交渉でも一歩も引けを取らない。南北カリフォルニアで築いた幅広い人脈を生かしつつ、現地企業との各種の提携方法を模索する日本企業やアメリカでの起業を考える日本人起業家に対し、リーガル・ビジネス双方の観点から、クライアントの米国ビジネスを成功に導く「ビジネス・ナビゲーター」として戦略的なアドバイスを行っている。

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