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更新:6月26日 09:00インターネット:最新ニュース

日本で実名制は受け入れられるか・ビジネスSNSのLinkedIn(3)

 米国を中心に利用が広がるビジネスSNS「LinkedIn(リンクトイン)」。日本でも今後サービス展開が予定されているが、人材市場やコミュニケーション文化の違いから普及にはいくつかの壁がありそうだ。なかでも、日本のネット社会における実名制への抵抗感がもたらす影響は大きい。(折田明子・中央大学助教)

■実名を隠す日本のビジネスSNS

 米国でユーザーが熱心にLinkedIn上の経歴をアップデートし人脈を作るのは、リクルーティングを意識した側面も強い。一方日本では、実名を伏せてプライベートな日記を更新する向きはあるものの、実名かつ所属する組織を明らかにしながら、経歴や人脈を公開することへの抵抗感は少なくない。

 業界による差異はあるが、プロフィルがヘッドハントに活用されているLinkedInに登録すること自体が、転職活動の一環と思われてしまうがゆえに、登録を躊躇する可能性もあるだろう。企業に勤める人だけではない。筆者が話を聞いたフリーランスの男性は、仕事において人脈が果たす役割は大きいものの、自分の取引相手が別の取引相手にも明らかになってしまうことや、「○○さんの知り合い」という先入観がプラスにもマイナスにも働く可能性があるとして、LinkedInを使うとしても自分の人脈は公開しないだろうと言う。

 実際、日本にも「ビジネスSNS」というサービスがいくつも登場しているが、LinkedInとの最大の違いは、実名の取り扱いだ。「人脈BANK(リクルート)」「ビジネススペース@nifty」といった大手のサービスのほか、「キャリコネ」や「Bizzo」など、ビジネスユーザー向けに工夫を凝らしたサービスも多い。筆者も一通りこれらのサービスに登録してみたが、ほとんどのサービスでは、実名のほかにニックネームを登録させている。

LinkedInでは知り合いのリストに実名が並ぶ

 例えば実名と「ビジネスネーム」というニックネームを登録できるサイトでは、実名を非公開にし、ニックネームだけを公開する状態に設定できる。その結果、面白いことに出身大学や勤務先はきちっと書かれており、顔写真まで貼られているのだが、新着会員には「氏名非公開」がずらっと並ぶ。そのため、ネットワークを広げようにも、久々に連絡する人や、名刺交換をしたばかりの人を探し出すことができないのだ。

 人脈のネットワークが構成されない限り、こうしたビジネスSNSの効果は半減したままだ。LinkedInが活用される大きな理由は、LinkedIn内にオンライン履歴書を提供することだけでなく、オンライン履歴書を持つ者同士を多種の信頼関係に基づく人脈で結び、かつ見える形にしたことにある。共通の知人そして、面識のない人にコンタクトするときに誰を介したらいいのかが一目で分かるというメリットは、実名登録なしには実現しない。そしてこうしたメリットがあるからこそ、実名の登録が促進されている。

 2006年にインターネットコムとgooリサーチが行った調査では、日本では62.3%の人が自分の身近な人を検索しておきながら、自分の名前が誰かに検索されていたら「気分が悪い」が47.3%という結果がある。実名が検索されることへの抵抗感は強い。

■プライベートとビジネスの切り分けが必要

 2007年のインターネット白書によれば、ネット上のコミュニティー(SNS、ブログ、クチコミサイトなど)への書き込みに「すべて匿名で参加している」と答えた人の割合は60.9%にのぼる一方、実名と匿名を使い分けていると答えた割合は18.9%にとどまった。一方で、全ユーザーの7割がこれらのコミュニティー機能を利用しており、ネット上でのコミュニケーション自体は活発である。筆者は、この状況がむしろ実名の公開を妨げていると考えている。

 クチコミサイトへの書き込みや、プライベートを綴ったブログ。友人同士の掲示板のやりとり。こうした蓄積が多いほど、実名に結び付けられたときの影響は大きいからだ。週末に買ったカメラのレビュー記事や、昨晩の夕食のメニューまで、ビジネス相手に検索されてはたまらない。SNSの日記では公開範囲を決めることができるが、ネットでは誰に読まれるかわからない以上、実名を隠し、分かる人にだけ分かる名前で書くことは合理的な判断とも言えるだろう。

 では、ビジネス相手に知っておいてほしい情報や、ビジネス相手について知りたい情報はどうだろうか。明日会う相手についての情報や、今一緒に仕事をしている人の経歴を知りたいとき。その人がどういう人脈を持っているかを知りたいとき。共通の知人が見つかったり、思いがけず出身校が同じだったりすると、ぐっと相手との距離が縮まるという経験は、少なくないだろう。転職かヘッドハントかという大げさなことでなくとも、自分の経歴をまとめ、人脈を整理しておくということは、どんな働き方をするにせよ無駄なことではない。

 ネットではこれまでどおり匿名(ニックネーム)でブログやクチコミを書き、LinkedInというサービスでは実名を使う――。こんな使い分けができるならば、ビジネス利用の実名検索と、プライベート利用の匿名コミュニケーションは両立できるのではないだろうか。

Plaxoは日記や写真投稿などの機能が充実

 米国発の大手SNSであるFacebookやPlaxoといったサービスは既に日本語化されており、ビジネスネットワーキングとしての利用も見込まれている。どちらも国内の大手SNSとは異なり、実名表示を基本としているが、Facebookは頻度の高いアクセスやコミュニケーションによって楽しむものとして設計されているし、Plaxoは自分のためのスケジュールや連絡先管理が発端で、最近は動画や写真、レビューなどの機能を追加している。

 LinkedInが日記や趣味的な要素を排除してビジネスに特化していることは、こうした流れとは逆行している。しかしこの特徴によって、匿名志向の強い日本でも、ビジネスとプライベート、実名と匿名という住み分けが受け入れられるのではないかと期待している。

[2008年6月25日]

-筆者紹介-

折田 明子(おりた あきこ)

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール) 助教

略歴

 1998年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2000年同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。外資系IT企業勤務を経て、同大学特別研究助手としてe-Japan戦略のスタッフをつとめた。その後、インターネット上で見知らぬ者同士が助け合い、情報交換する現象に関心を持ち、2007年博士(政策・メディア)を取得。2008年4月より現職。現在は、インターネット上の匿名性、ネットコミュニティーに関する研究に従事。

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