更新:4月28日 10:55インターネット:最新ニュース
「コンテンツは無料」の時代にいかに稼ぐかを考える
日本では話題になっていないが、最近米国で2つの面白い動きがあった。1つは、世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)であるMySpace(マイスペース)が大手レコード会社と共同で音楽配信サービスを始めたことであり、もう1つはロングテール理論で一躍有名になったクリス・アンダーセン(雑誌Wiredの編集人)が「Free: Why $0.00 is the future of business」という論文を発表したことである。この2つは、日本のネットビジネスに重要な示唆を含んでおり、見過ごしてはならない。(岸博幸の「メディア業界」改造計画) ■MySpace Musicの衝撃 世界最大のSNSであるMySpaceは今月3日、大手レコード会社3社(ソニーBMG、ユニバーサル・ミュージック、ワーナー・ミュージック)と組んで新たな音楽サービス「MySpace Music」を始めると発表した。いわば音楽のワンストップ・ショップを実現しようというものであり、DRM(著作権管理技術)なしのMP3での楽曲ダウンロード、着メロ、アーティストグッズやコンサートチケットなどを販売するほか、広告モデルも採用し、無料で楽曲やビデオクリップを提供するとのことである。 MySpaceの売りの一つは音楽である。1億1000万のアクティブユーザーのうち3000万が音楽ファンであり、500万ものバンドがMySpace上にホームページを持っている。従って、今回の取り組みはMySpaceにとっては自然の流れであるが、レコード会社にとっては音楽のビジネスモデル進化のための実験場という意味合いを持つことになる。
実際、ネットの普及に伴って音楽CDの売り上げが毎年10%以上も急減するなか、米国のレコード会社はビジネスと収入の多様化に取り組んでいる。例えば、広告モデルにより無料で楽曲を提供するネットベンチャー(Imeem、iLikeなど)との関係を強化しつつ、定額制で音楽聞き放題のRhapsodyや、今秋ノキアが発売する予定の「音楽聞き放題端末」(端末料金の一部がレコード会社の収入)とも提携するなど、様々なビジネスモデルの実験を始めているのである。 ちなみに米国では、レコード会社以外の会社と契約するアーティストも増えるなか、「音楽自体は関連ビジネス(コンサート、グッズ、ファンクラブなど)で収益を得るための広告でしかない」「ネット上の違法コピーはテレビやラジオで音楽が無料で流れるのと同じプロモーションと考えるべきだ」「ネット上では音楽自体は収益源ではなくコストセンターと位置づけるべきだ」といった極論も一部には存在する。ネットの破壊力はすさまじく、音楽業界はビジネスモデルを根本から変えようと試行錯誤しているのである。 ■「無料ビジネス」論の問題提起
一方で2月、ロングテール理論で一躍有名となったクリス・アンダーセンが、米国Wired誌に「Free! Why $0.00 Is the Future of Business」という論文を発表した。今年刊行される予定である同氏の著書の予告編であるが、そこでの主張は概要以下のとおりである。 ・ 技術進歩により、情報の処理・保管・伝送にかかるコストは限りなくゼロに近づき、人間が行う作業もソフトウエア化された瞬間にコストが限りなくゼロに近づく 米国では既にこの主張に対して様々な識者から異論が提示されている。実際に極論であるが、いくつかの重要な示唆も含まれている。 まず、情報に関する限界コストがどんどん低減する(ゼロになることはないだろうが)ことが既存産業に破壊的な影響をもたらすという事実認識が正しいことは、音楽産業の例からも明らかである。個人的には、それに加えてデジタル化で情報の複製と共有が容易になり、情報の価値が軽くなってしまった(平たく言えばタダが当たり前になった)ことも大きいと考えている。これら2つの地殻変動を避けられない以上、情報を商品とするコンテンツ、メディアなどの産業は、ビジネスモデルをドラスティックに変えない限り繁栄を続けられないことは明確である。 ■「完全無料ビジネス」は存在しない
一方で、「人間が行っていた作業もソフトウエア化される」という記述からも明らかなように、この議論には効率を優先する米国的な価値観が色濃く反映されている。それを明示的に突きつけられた以上、それがネット上での普遍的な価値観となるのか、もっと人間的(もしかしたらアジア的?)な価値観をネットの世界に持ち込むことで新たなビジネスモデルを創造できないのかを、真剣に模索する必要があるのではないだろうか。 いずれにしても、論文の題名はセンセーショナルであるが、完全無料のビジネスなど存在しない。コアビジネスの価値がデジタル化とネットワーク化で大きく低下したときに、その周辺や延長のビジネスでも稼ぐことにより「合わせ技一本」で収益を生み出すべきという、ある意味当たり前だけどなかなか実践できない真理を主張していると理解すべきではないだろうか。 ■微調整では乗り切れないネットという津波 これまでの説明から明らかなように、MySpace Musicとアンダーセン論文は我々に対して同じ問題提起をしている。日本のコンテンツ産業やメディア産業はビジネスモデルの抜本的な転換という構造改革に取り組まなくてはならないのである。現状のような、過去から連綿と続くビジネスモデルの微調整的な対応だけでは、ネットという破壊的な津波は乗り切れない。実際に日本の通信・放送の融合は米国の2周後れと言える状況にある。 そして、成長戦略が政権の重要課題である以上、政府もそうした産業側の構造改革を後押しする政策を講じるべきである。コンテンツ産業は成す術もなく市場の縮小に甘んじている。マスメディアはローカルメディアを筆頭に広告主から見放されつつある。広告産業は既得権益の維持に汲々としている。最も成長性の高いはずのこれらクリエイティブ産業の情けない実態を、関係者はもっと直視しなくてはならない。 ● 関連リンク● 記事一覧
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