更新:11月24日 10:38インターネット:最新ニュース
電子書籍端末「キンドル」が示す新たな融合
日本でも米アマゾン・ドット・コムの電子書籍端末「Kindle(キンドル)」が入手可能となったが、実際に使ってみて改めて衝撃を受けた。キンドルは、ビジネスモデルの進化の方向性について様々なことを示唆している。特に重要なのは、プラットフォーム・レイヤーと端末レイヤーの融合である。(岸博幸) ■インフラ・レイヤーを透明化 キンドルは本当に使いやすい。プラットフォームとして便利であるのみならず、端末の軽さや操作性、デザインの良さも秀逸である。つまり、プラットフォーム・レイヤーと端末レイヤーの双方の観点で競争力を備えているのである。 一方で、利用者なら誰でも気づくことだが、キンドルでは通信コストを心配する必要がない。例えば米国の新聞を定期購読すると新聞のデータを毎日ダウンロードするのだが、通常の携帯などと違ってパケット代や通信料といったものをまったく意識しなくてすむ。 これは通信料が定期購読料に事実上含まれているからだろう。つまり、ネット上のビジネス構造におけるインフラ・レイヤーが、ユーザーからは見えないバックヤードに後退してしまったのである。
これら2つの事実を重ね合わせると、キンドルはネット上のビジネス構造に即して言えば、プラットフォーム・レイヤーと端末レイヤーの融合を実現したに他ならないといえるだろう。その結果として、インフラ・レイヤーが限りなく透明化してしまったのである。 このキンドルの戦略はビジネス的に非常に正しい。プラットフォーム・レイヤーでは、米グーグルやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で市場シェアを伸ばした強力な競争相手がひしめいている。そのレイヤー単独で競争しても勝ち目はないであろう。そこで、プラットフォームに端末を融合させることで、新たなバリューを構築しているのである。 このように考えると、実はアップルの「iPhone」や任天堂の「Wii」などのヒット商品も、方向性としては同じようにプラットフォームと端末を融合させている。しかし、キンドルはインフラ・レイヤーを透明化させてしまった点で、さらに進化した方向性を示しているのではないだろうか。 私は、キンドルはビジネスの側と政策の側の双方に、重要な教訓を示していると考えている。 ■キンドルが示す3つの教訓 第一の教訓は、新たな融合は横のレイヤーで始まっているということである。未だに「通信と放送の融合」を針小棒大に騒ぐ人が散見される。確かに時代遅れの制度を直すという点では意味があるが、しかし、逆に言えばそれ以上の意味はない。そんな縦割りの世界の融合よりも、グローバル・ビジネスの最前線で重要なのは横のレイヤーの融合であるということを、多くの関係者が認識すべきではないだろうか。 第二の教訓は、通信事業者は早く周辺レイヤーに事業展開していかないと、いよいよ厳しくなるということである。キンドルのようなビジネスモデルが増えたら、インフラ・レイヤーはますます透明化するし、収益を上げにくくなる。人口減少で市場が縮小するしかない日本では、特にそうである。この残酷なリアリティーを認識したうえで、早く適切な事業戦略を構築すべきではないだろうか。 第三の、そして最大の教訓は、ネット関連のビジネスではやはりプラットフォーム・レイヤーがもっとも重要であり、かつ、グーグルなどのプラットフォームで市場シェアを持つプレーヤーと競争するためには、垂直統合のビジネスモデルを志向せざるを得ないということである。 かつてネットが普及し始めたころ、米国でも「content is king」と言われていた。ネット上のレイヤー構造の中で、付加価値の源泉は上位にシフトしていくと考えられたのである。しかし今どき、そんなことを言う人は誰もいない。 むしろ「search is king」「platform is king」と言われている。ネットも所詮は情報・コンテンツの流通経路であり、アナログの新聞やテレビと同様、流通独占を獲得したプレーヤーがもっとも儲かるのである。そして、ネット上での流通の肝はプラットフォーム・レイヤーなのである。 官僚や学識経験者の中にはよく「日本のコンテンツ産業は競争力がある」といった発言をする人がいるが、それだけでは何の意味もないことを理解すべきである。確かにコンテンツ自体の競争力はまだある。しかし、それだけではビジネスで勝てないことは、昨今のアニメ産業の崩壊状態からも明らかである。 ■日本にもチャンス 一方、キンドルが実現した姿は、正確には「コンテンツ+プラットフォーム+端末」という垂直統合モデルである。プラットフォームと端末を融合させたうえで、そこに乗っかるコンテンツはいいものであって当たり前なのである。よくないコンテンツは相手にもされないだけである。 こうした事実から、政策とビジネスの双方の関係者が、(1)コンテンツはよくて当たり前、(2)これからは、ネット以外も含むコンテンツの出口戦略が重要、(3)そこでは、キンドルのような垂直統合モデルが強みを発揮する――という教訓を学ぶべきではないだろうか。 逆に言えば、キンドルは日本のチャンスも示していると個人的に考えている。端末レイヤーに属する日本の家電メーカーは、落ちぶれつつあるとはいえ、まだ十分な国際競争力を有している。かつ、日本はコンテンツでも強みを持つ。従って、プラットフォーム・レイヤーが弱くても、日本の強みを集結した海外展開可能な新たな垂直統合モデルを構築できる可能性はあるはずである。 繰り返しになるが、通信と放送の融合は所詮国内市場の話である。しかし、人口減少で市場が縮小するしかない日本では、それを進めるだけではまったく意味がない。 ビジネスの最前線で進みつつある現実は、横のレイヤーの融合を通じた新たな垂直統合モデルである。官民の双方がそうした認識を持って、日本としての新たなバリューを海外に提示できるように一致団結すべきだろう。 [2009年11月24日] ● 関連記事● 関連リンク● 記事一覧
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