更新:11月27日 10:34インターネット:最新ニュース
「スパコン凍結」批判でかすむ事業仕分けの「そもそも論」
政府の行政刷新会議による「事業仕分け」で予算が廃止または縮減と判定された科学技術の振興策がネットでも議論になっている。特に、次世代スーパーコンピューター(スパコン)が事実上の凍結とされたインパクトは大きく、研究者だけでなくマスメディア、閣僚にも「復活論」が出ている。だが、仕分け人のコメントやネットでの議論を見ると単に復活するだけでよいのだろうかと思えてくる。「スパコン凍結=科学技術の危機」という分かりやすく情緒的な報道によって、事業仕分けの目的の1つ「そもそも論」が忘れられているのではないか。(藤代裕之) ■批判に火を付けたスパコン予算凍結 「日本の科学技術は終わった」。スパコンの予算凍結判定は、事業仕分けへの批判が噴出するきっかけとなった。13、17日の仕分け作業では、文部科学省が所管するスパコン、スプリング8(大型放射光施設)、理系支援員等配置事業、若手や女性研究者支援などの予算が次々と廃止や縮減と判断された。 インターネットは歴史的に理系研究者との親和性が高いこともあり、ミニブログ「Twitter(ツイッター)」では文部科学省関連予算の仕分けが行われた第3ワーキンググループのタグ(#shiwake3)が用意され、さまざまな意見が書き込まれた。科学技術の政策について議論するタグ(#f_o_s)もつくられ、議論が続いている。NPO法人サイエンス・コミュニケーションの理事でブログ「科学政策ニュースクリップ」を運営する榎木英介氏は、ブログに緊急メッセージを掲載し、研究者の声を民主党などに届けるよう行動を呼びかけた。
研究者の団体や学会も緊急声明を発表し、24日には旧帝大と早・慶の学長9人が、25日には江崎玲於奈氏や利根川進氏らノーベル賞受賞者が緊急会見を行った。一部のマスメディアも批判的なトーンで報道しており、菅直人副総理・国家戦略相や仙谷由人行政刷新相も復活に含みを持たせた発言を行っているようだ。 確かにスパコンは、最先端で世界と競い合っているというイメージがあり、日本の科学技術のシンボルとして分かりやすい。産経新聞はノーベル化学賞受賞者の野依良治氏の「(スパコンなしで)科学技術創造立国はありえない」との談話を掲載しているが、仕分けの評価コメントやネットでの意見を見ていると、そう単純な話ではなさそうだ。 ■「必要論」だけではないスパコンの議論 仕分け作業では、事業の目的や内容、コストが書かれた施策・事業シートと資料を基に担当官庁から説明が行われ、予算担当部局から論点説明シートが提示される。 文部科学省に公開されている資料(http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sassin/1286925.htm)によると、スパコンの2010年度概算要求額は267億円、期待される成果として、高速・高精度シミュ レーションによる科学技術の飛躍的進展(例として省エネ半導体、創薬)、最先端IT技術の獲得、気候変動問題解決への貢献などが挙げられ、経済効果は約3.4兆円と試算している。一方、論点シートは、これまで545億円を投入しさらに完成まで700億円かかる国費投入の効果や利益の検証、共同開発3社(富士通、NEC、日立製作所)のうち2社(NEC、日立)が撤退したことによる目標達成の困難さなどを指摘した。
行政刷新会議のホームページ(http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/shiryo.html)に公表されている仕分け人のコメントは11個。「10ぺタスパコンを開発することが自己目的化している」「スパコンの国家戦略を再構築すべき。現状はスパコンの巨艦巨砲主義に陥っていないか。競争のルールが変わってきている可能性はないか」「なぜNECが撤退したのかなどの理由を調査。世界一を目指す必要はない」などがあり、結果が「予算計上の見送りに限りなく近い縮減」(廃止1、見送り6、縮減6)となった。なお、仕分け人には、円周率の研究で知られる数学者の金田康正・東大大学院教授や惑星科学者の松井孝典・東大名誉教授らも含まれている。 ネットでの意見を読むと、スパコン必要論とは別に、「特注品では技術が市販品に反映できない」「製造コストが高く利用料が高額になり使われないのではないか」「別の方法があるのではないか」といった意見もある。利根川進氏ですら緊急会見で「世界一を目指しても世界一にはなれない。目指せば2位か3位になれるということを人々は理解すべきだ」と言っている。これで「世界1位を目指すことが目的」といった説明をされても納得することは難しい。 ■事業のねじれを見直す事業仕分け 事業仕分けとは何か。構想日本のホームページに掲載された定義によると次のようになっている。 国や自治体が行なっている事業を、 そもそも論は、審議会や国会(議会)が機能していれば必要ないはずだ。だが、一度始まった公共事業は止まることなく、さらに無目的に拡大してきた。その大きな原因は、政治家と官僚の癒着や利害が絡み合ったなかでの結論先送りなどにある。予算の使い方に無関心だった有権者にも責任はある。民衆裁判といった批判や仕分け人の態度や質問内容についての課題もあるが、外部の目と公開がこれまでのしがらみを脱する大きな要素となっている。 テレビでは仕分け人と官僚の対決といった絵になるシーンにフォーカスが当たっているが、参考になるやり取りも多い。例えば、宇宙飛行士である毛利衛氏が館長として自らパネルを示して説明した日本科学未来館の運営について。「毛利さん奮闘及ばず」という切り口で伝えたマスメディアもあったが、仕分け人が注目したのは未来館の運営を行うことで収入を得ている科学技術広報財団との関係だ。 評価コメントには「財団を中抜きにすればコスト減できる」「財団への業務委託を止める。毛利さんの活躍に期待します」とあり、毛利氏も評価後に未来館のホームページに「これを期に、一体的な組織として活動できるよう努力してまいります」とコメントを出している。事業仕分けがなければ、このような問題は表に出ることはなかっただろう。 ■議論を続けることが科学立国への近道 仕分けを見ていると、スパコンに限らず目的を失ったもの、これまでの制度が古びているにもかかわらずプロジェクトで対応したり、失敗を取り繕ったりするために旅館を建て増したように複雑にねじれてしまったもの、コストや手法に無駄がありながら特殊法人の存続のために止められないものといった事業が多数あることが分かる。 これを解決するためには単に予算を復活するだけでは難しく、事業仕分けの指摘を受けて政府が予算を見直し、問題があれば制度を変えていく必要がある。そのまま予算を復活させた末にこれまでのシステムが温存されるというのでは、何のための事業仕分けだったのか分からない。 批判的な指摘でも、科学技術そのものへの投資を否定はしておらず、現状の進め方へ疑問を呈しているものが多い。緊急会見で江崎玲於奈氏は「いままでサイエンスは問題なく優遇されていた。我々に考えるチャンスを与えてくれた」とコメントしていた。一過性の問題で終わらすことなく、議論を続けることが科学立国を実現する近道ではないだろうか。 [2009年11月27日] ● 関連記事● 関連リンク● 記事一覧
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