更新:7月24日 09:47インターネット:最新ニュース
朝日新聞のCNET Japan買収は成功するか 変化するニュースメディアの生態系
朝日新聞社がニュースサイト「CNET Japan」などの事業を、米メディア大手CBSのウェブ事業部門CBS Interactiveの日本法人であるシーネットネットワークスジャパン(東京・千代田)から買収し、9月から事業を引き継ぐことになった。メディアの買収や再編は欧米ではよくあるが日本では珍しい。紙メディアを代表する新聞社がインターネットユーザーになじみが深いニュースサイトをどのように運営していくのか、注目が集まっている。(藤代裕之) ■日本でもメディアのM&A時代が到来? メディア企業やサイトのM&Aは日本では少ないが、欧米ではダウ・ジョーンズ(DJ)やロイターのような名門メディアも対象となってきた。逆に、ニューヨーク・タイムズがCGM系サイトの「About.com(アバウト・ドット・コム)」を傘下に収めるなど、新聞や雑誌の発行企業がネットサービスを取り込むかたちでのメディア融合も進んでいる。日本で起きにくかったのは、上場しているメディアグループが少ないなどの事情があったためだ。
朝日新聞が買収を決断したのは、デジタル重視の経営戦略へと舵を大きく切ったことが背景にある。6月にはテレビ朝日、KDDIの3社で情報配信のプラットフォーム「EZニュースEX」を立ち上げ、7月には携帯端末向けコンテンツ管理システム(CMS)の外販も開始した。動画サイト「YouTube」やミニブログ「Twitter」との連携も、全国紙の中では先駆けて取り組んでいる。 今回、朝日新聞はCNET Japanというサイトごと読者を「買う」選択をしたことになる。ネットメディアは乱立気味で、自社サイトで新たなサービスやコーナーを立ち上げて読者を増やすことが困難になっているだけに、時間をかけずに自社にない資産を得るという判断だったのだろう。ネットサービス運営者にとっても、既存メディアへの売却という「出口」が生まれたことはプラスで、サイト間の再編が進むきっかけになる可能性もある。 ただ、よい側面ばかりではない。データを見ると「弱者連合」の様相も見え隠れする。 ■勢いに陰りがみえるCNET Japan CNET Japanはこのコラムで取り上げた「ITmedia」や「インプレス」と並ぶ代表的なIT系ニュースサイトだ。もともとの親会社は欧米アジアなど世界十数カ国に展開する米CNET Networksで、1997年に日本語版がスタートし、2003年からシーネットネットワークスジャパンが運営している。そのCNET Networksを08年6月に買収したCBS Interactiveが日本事業を朝日新聞に売却し、朝日新聞が新たに立ち上げる子会社で運営を引き継ぐことになる。 媒体資料によると、CNET Japanは月間ページビュー(PV)が2032万、ユニークユーザーが月間252万、「ZDNet Japan」はそれぞれ988万、226万となっている。ITmediaの月間1億PV、ユニークユーザー1200万人に比べると規模は見劣りする。 CNET Japanは、シリコンバレーの情報などをいち早く日本に紹介し、Googleの躍進やWeb2.0が注目されたころはカンファレンスを盛んに開いてネットの話題の中心となっていたが、最近は競合に比べ勢いが失われていた。また、小さなメディアを多数そろえる戦略を取ったITmediaに対して、CNETJapanはモバイルやゲームといった「チャンネル」はあるものの、ターゲットとなるユーザーをはっきりと分けられていない印象だ。また、関係者によると収益の中心は従来型の広告モデルで、登録会員の属性情報を利用した広告を含むプロファイル型ビジネスでは出遅れているという。 競争が激化するネットニュースサイトの中で存在感が低下し、収益源の複線化も思うように進まないことから、ネット上では数カ月前から「売却先を探している」といった情報が流れていた。 ■ネットと新聞のジレンマ 一方、朝日新聞社が運営する老舗ニュースサイト「asahi.com(アサヒ・コム)」も苦しい。 95年と、「Yahoo! JAPAN」よりも早くスタートし、記事データベースの提供やRSSによる記事全文配信などで、長く新聞社サイトの先頭を走ってきた。だが、産経新聞社が07年にマイクロソフトの「MSN」と組み、新聞よりネットを優先して記事を配信する「ウェブ・ファースト」を宣言。毎日新聞社は「Yahoo!ニュース」と関係を深め、読売新聞社は女性の口コミサイト「発言小町」でCGMを取り入れるなど他社が積極的な動きを見せるなかで、目立った展開はなかった。 調査会社ネットレイティングスが今年2月にまとめたレポートでは、新聞社系サイトの月間利用者トップは毎日新聞の「毎日jp」で947万人。アサヒ・コムは545万人の5位と存在感が薄まっている。 その理由はアサヒ・コムの運営体制にある。ネット業界をよく知る他社出身の「外人部隊」も運営に関わっているが、部門のトップは朝日新聞社員が務める。その人物のネットのリテラシーや関心度によってサイトの方向性やコンテンツが大きく左右した。積極的なネット展開をしているかと思えば、突然慎重になるなど方針は揺れ動いてきた。 アサヒ・コムの編集部員がネットに受けそうな話題を独自に取り上げる「コミミ口コミ」は08年に更新が止まった。鉄道やネット系のイベント情報など新聞社らしからぬコンテンツに対し、上層部からストップがかかったという。一方、速報などは強化しているが、ネットユーザーからはインパクトある施策として捉えられていないようだ。 扱うのが同じテキストや写真とはいえ、紙とネットでは読まれ方が違う。求められる書き方やタイトルの付け方も異なり、紙の「常識」は通用しない。当然だが、違いはコンテンツだけでなく、サービスや技術、ビジネスモデルにも及ぶ。ネットを知らない新聞社員が「本気」になればなるほど、ネットの現場からすれば「迷惑」になりかねないジレンマがある。 ■ユーザーの補完関係を生かせるか 今のところ朝日新聞は、CNET Japanの編集部には本体から編集部員を送り込まないとしており、編集方針を尊重する姿勢を見せている。とはいえグループとしてコンテンツの連携を進めていくうえでは、それがベストとはいえなくなる可能性もある。 朝日新聞は事業継承時のコメントで「自社運営しているニュースサイト『asahi.com』やビートルズ世代向け情報サイト『どらく』などとの連携を図り、ウェブ事業を強化して参ります」としている。 読者層はCNET JapanとZDNet Japan はITに詳しい30代が中心、アサヒ・コムは40代以上が中心で「紙」の朝日新聞の読者が半数を占めるという。ユーザー層でみれば、両サイトの補完関係は成り立っている。朝日というブランドの軸を通しつつ、それぞれのユーザーに「刺さる」メディアを作ることができるのか。マスメディア的な発想で、「押さえられる面=ユーザー」が広がったと考えるだけでは、せっかく獲得したサイトとユーザーを生かしきれないだろう。 [2009年7月24日] ● 関連記事● 関連リンク● 記事一覧
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