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更新:2月15日 10:00インターネット:最新ニュース

携帯フィルタリング「強制反対派」に支持が集まらない理由

 学校裏サイトを舞台にしたいじめ、携帯サイトを通じ未成年者が事件やトラブルに巻き込まれるといった携帯電話を巡る問題が相次ぐなか、総務省の通達で未成年者の携帯にフィルタリングが原則適用されるようになった。内閣府の調査では「フィルタリングが必要」が76.3%、ヤフーニュースが実施したネット投票でも「導入に賛成」が8割に達している。「携帯産業の成長が阻害されるのでは」「言論の自由を国が規制すべきではない」というネット業界や専門家の声への支持が広がらない理由は、ネット業界の姿勢にも一因がある。(ガ島流ネット社会学)

■政治問題化するフィルタリング議論

 総務省の要請で携帯キャリアは未成年者へのフィルタリングサービス原則適用を順次始めているが、その是非についてはいまだに波紋が収まらない。10〜20代を中心に人気の携帯SNS「モバゲータウン」を運営するディー・エヌ・エーの時価総額は「1週間のうちに1500億円毀損した」(シンポジウムでの南場智子社長の発言)。フィルタリングには閲覧を公式サイトに限定する「ホワイトリスト」方式と有害情報サイトだけを遮断する「ブラックリスト」があるが、携帯キャリアの一部がホワイトリスト方式を採用し、総務省が「過剰規制」に待ったをかけるなどのゆり戻しも起きている。

第3四半期の業績と携帯フィルタリングへの対策などについて会見するDeNAの南場智子社長=1月30日

 ブログや掲示板には「規制は時代遅れ」「何が有害なのか線引きがあいまい」「新しいメディアが広まるときは不安に思うものだ」などさまざまな意見が飛び交っている。

 専門家やネット業界も動いている。慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構(DMC機構)による「インターネット上の安全・安心に関する緊急フォーラム――未成年者向け携帯フィルタリングサービス原則化の是非を問う」や、情報通信政策研究会議(ICPC)・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)による「緊急シンポジウム 違法・有害コンテンツ規制の論点整理」などが開かれ活発な議論が行われている。

 DMC機構のシンポジウムでは、フィルタリング要請が「総務大臣主導」で行われたとの報告があった。民主党は「違法・有害サイト対策プロジェクトチーム」事務局長の高井美穂衆議院議員がプロバイダーなどに有害情報の閲覧防止措置義務を課する私案を発表するなど、フィルタリングは急速に「政治問題化」しつつある。

■フィルタリング導入を後押しするもの

 フィルタリングを後押ししているのは「携帯やネットは不安」という素朴な声だ。出会い系サイトに関連した児童の被害者は年間約1000人。2007年度の上半期は604人で女子児童が99%を占め、被害児童の95%以上が出会い系サイトへのアクセスに携帯電話を利用していたという(警察庁「出会い系サイト等に係る児童の被害防止の在り方について(PDF)」より)。これらの状況から、総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」では、PTA関係者が「大臣要請に安心している」とフィルタリング歓迎の意向を示している。

 内閣府の「インターネット上の安全確保に関する調査」でもこの傾向は顕著で、インターネット利用に不安があるのは45.4%。「警察によるインターネット上の監視の充実・強化」を51%が望み、「フィルタリングが必要と思う」は76.3%を占める。

 しかし内閣府の調査をよく見ると、出会い系サイトを「よく知っている」「少し知っている」と答えた人のうち「見たことはない」との回答が79.3%もある。それどころか、インターネットを「ほとんど利用していない」「まったく利用していない」を合計すると55.3%もある。

 これに対して「恣意的なアンケートだ」「ネットのことが分からない人が……」と批判することは可能だが、それではフィルタリング規制の声は弱まらないだろう。内閣府の調査から読み解くべきことは、実際にはネットや携帯サイトを利用したことはないが「ネットは不安」「出会い系が危険」という漠然としたイメージを持つ人々が多く、それがフィルタリングの導入を後押ししているという構図だ。

 だとすれば、言論の自由、業界の成長という「正論」を主張するのではなく、「ネットへの不安」を取り除いたほうがよいが、ネット業界にはその視点が足りないようだ。

■ネット企業の努力は十分か

モバゲータウンを紹介するPC向けウェブサイト

 例えばディー・エヌ・エーのモバゲータウンは、44%のユーザーが10代(06年には7割が10代だった)で、18歳未満が3割もいる。一方、売上高は07年10−12月期で83億7800万円と前年同期比で約2.3倍となっており、モバゲータウンを中心に急成長している。24時間365日の監視体制、監視員の300人への拡充、メールアドレスの直接交換禁止などの健全化対策を矢継ぎ早に打ち出しているが、ブログではずいぶん以前からモバゲータウンの問題点が話題となっていた。

 Student magazineは、2006年12月に「モバゲーへの警鐘」、07年2月に「『モバゲーすげえ!』ムードに水を差してみたよ」と続けてエントリーを書き、未熟な情報リテラシーによって事件が起きる可能性を指摘している。仮想通貨「モバゴールド」についても「子供に教育もせずに『変なお金』みたいなのを持たせることでどんなことが起きるか、よーく考えてください!」と書いている。

 急成長に安全対策が追いつかなかったという側面もあるだろうが、これらの声に早くから耳を傾け、社として若年層のリテラシー支援にも取り組んでいることを積極的にアピールしていれば印象はずいぶん異なったものになったはずだ。

■規制の網が広がる懸念

 モバゲータウンだけでなく、ミクシィも同様の問題を抱える。ミクシィを舞台に女性のプライバシー侵害が起きた際に企業側の対応が不十分だったことが、広報専門誌「PRIR」(発行・宣伝会議)の2007年2月号に「SNS業界の雄、ミクシィに求められる説明責任」との記事で紹介されている。広報担当者のコメントとして「土曜に来社し、社長との面会を希望した記者に不在と伝えると『取材拒否をした』と書き立てられた」という事例や、広報担当者の人数が少ないことを理由に回答の遅れを正当化するようなコメントが掲載されているが、このようなスタンスは上場企業として社会的責任に欠けるのではないか。

 ネット企業はベンチャーが多いこともあり、上場しても社会への配慮が手薄になりがちだ。特に広報は華やかなイメージで捉えられるが、企業が大きくなればクライシスマネジメントやリスクマネジメントといった泥臭い側面も重要になってくる。

 インターネットや携帯は社会的なインフラとなり、その影響は大きい。しかし社会のルールを決定しているのは、ネットへの理解が少ない層であることも事実だ。ネットの不安を取り除くためのこういった層に向けたアプローチ、政府・政治家へのロビー活動、マスメディアの問題点を押さえながら戦略的な取り組みを行うフェーズに突入している。

 携帯フィルタリングはその認識の欠如が生んだ一つの現象に過ぎない。このままネット業界が姿勢を変えなければ、フィルタリングを突破口に様々な規制の網がかけられていく可能性もあるだろう。

-筆者紹介-

藤代 裕之(ふじしろ ひろゆき)

ブロガー@ガ島通信

略歴

 1973年徳島県生まれ。立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。広島大学文学部哲学科卒業後、徳島新聞社に入社。社会部で司法・警察、地方部で地方自治などを取材。文化部では、中高生向け紙面のリニューアルを担当し「若者の新聞離れ」対策に取り組む。徳島大学付属病院医療情報部助手を経て、マイネット・ジャパンアドバイザーなど。
2004年9月にブログ「ガ島通信」をスタート。メディアやジャーナリズムに関する議論から身辺雑記まで、幅広い内容を発信中。「ブログ・ジャーナリズム」(野良舎)、「メディア・イノベーションの衝撃」(日本評論社)。北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)サイエンスライティング担当。

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