更新:5月27日 08:51インターネット:最新ニュース
とばっちりを受けたJASRAC・立ち入り検査の真意はどこに?
4月23日、日本の音楽著作権管理大手、日本音楽著作権協会(JASRAC)に対し、公正取引委員会が独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査を行った。何が問題だったのか、振り返ってみたい。(コンテンツビジネスの真相 津田大介) ■包括契約とは何か JASRACは作詞家や作曲家に代わって音楽の著作権使用料を徴収する管理業務を行っているが、今回問題になったのは放送事業者とJASRACが結んでいる包括許諾の徴収契約。この契約形態がJASRAC以外の事業者による著作権管理事業の妨げになっており、独占禁止法違反にあたる疑いがあるということで立ち入り検査を受けた。 JASRACは当初「立ち入り検査には全面的に協力し、今後の対応については検査の結果を踏まえて適切に対応してまいりたいと考えています」というコメントを発表した。しかしその後今月14日に開いた定例記者会見において加藤衛理事長は、公取委が立ち入り検査した理由について、公取委から具体的な問題点の説明がなかったことを明らかにした。ただ、この件に関する報道や加藤理事長の話を総合すれば、今のところ、公取委が立ち入り検査を行ったもっとも大きな理由は、「包括契約」そのものにあるということは間違いなさそうだ。 包括契約とは一体どのような仕組みなのか。簡単にいえば、「JASRACが著作権を管理しているすべての曲を自由に放送で使ってよい」と一括で事前に認める契約だ。誰の曲が何回放送中に使われたのかという実際のデータとは無関係に、各放送局の事業収入の1.5%を著作権使用料として徴収する仕組みになっている。これはつまり、放送局にとっては定額料金を支払うことで、JASRACの管理楽曲が「かけ放題」になるということでもある。 ■JASRAC以外は「追加コスト」 JASRACは1939年の創設以来、60年以上にわたって音楽著作権の管理を1社で独占してきた。この背景には「著作権に関する仲介業務に関する法律」(仲介業務法)と呼ばれる法律があり、国が音楽著作権管理事業をJASRAC1社「だけ」に認めていたのだ。しかし、2001年に「著作権等管理事業法」という法律が新たに施行されたことで1社独占状態が解消され、ほかの業者も音楽著作権の管理業務に参入できるようになった。新たに設立された管理事業者は、JASRACとは異なる音楽著作物の利用ルールを作り、利用者に対して請求を行い始めた。 これによって現場の「業務」に大きな変更が生じたのが放送局である。従来はJASRACが管理業務を独占していたことで、放送局はJASRACに定額料金を支払っていれば「かけ放題」を維持できていた。しかし、JASRAC以外の事業者ができたことで、それらの事業者が管理する楽曲を放送で流した場合、「追加」のコストとして著作権料を支払わなければならなくなったのだ。 新たな法律の意図に反して、結果として放送局はJASRAC以外の事業者の楽曲使用を避けることとなった。というのも、JASRAC以外の新規管理事業者の楽曲は包括契約ではなく、かけた楽曲を1曲ずつ個別に放送局が事業者に報告しなければならない個別徴収契約になっていることが多いからだ。放送事業者にとっては「追加の費用がかかるくらいならJASRACが著作権を管理する楽曲だけ使うようにしよう」ということになる。 JASRACは60年以上著作権管理事業を独占してきた底力があるため、現在でも著作権管理事業において99%以上という圧倒的なシェアを誇っている。つまり、日本のほとんどの楽曲はいまだにJASRACが管理しているという状況がある以上、放送事業者はJASRAC以外の管理事業者の楽曲をあえて利用しなくても現実的に困ることはない。結果として、JASRAC以外の事業者が著作権を管理する楽曲は放送事業者に使われなくなる。放送局によっては「この曲はJASRAC管理じゃないのでかけないように」という通達が出回っているという話も聞く。 ■業界では以前から問題に 2001年の新法施行で、音楽著作権管理業務は「自由競争」の時代に突入した。旧態依然としたJASRACの体制に不満を持つ関係者も少なくなく、施行直後はJASRACから新規事業者に自分の楽曲の管理委託を移す作詞作曲家も現れた。しかし「徴収力」という点で見れば、500人近い職員を抱える巨大組織であるJASRACと新興事業者の差は歴然。加えて、放送事業者と包括契約によって結ばれた蜜月関係が強固だったため、一度JASRAC以外の管理事業者に信託した作詞作曲家も、その事業者から楽曲を引き上げてJASRACに戻したり、管理を委託しなくなったりといった事態が生じた。 国の保護によって60年培われてきたJASRACの牙城を崩すことは容易なことではない。市場で圧倒的な力を持つ組織が包括許諾契約を行えば、結果としてある種の参入障壁ができてしまう。公取委はこれを問題と捉えて、立ち入り調査に踏み切ったのだ。
「JASRACの独占状態を公取委が問題視している」という噂は、数年前から音楽業界内外でささやかれていた。これまで多くの新規事業者が登場したが、現在広く会員を募る形で存続しているのは、博報堂や豊田通商などの出資を受け設立されたイーライセンスと、音楽プロダクションや音楽出版社を中心に設立されたジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)の2社のみ。このうち、JRCは音楽著作権は管理しているものの、放送に関する権利は扱っていない。つまり、現状放送局で「JASRAC以外の管理事業者の楽曲」として敬遠されているのは、ほとんどがイーライセンスのものであるともいえる。今回公取委が動いた背景には、イーライセンスからの強い働きかけが公取委に対してあったのだと思われる。 そこで鍵となってくるのが包括契約だ。今回は包括契約そのものが問題視されているが、包括契約そのものは国際的にも広く定着した一般的な契約モデルだ。最近では放送だけでなく、インターネットの動画投稿サイトなどにも包括契約が用いられることが多く、JASRACはニワンゴの「ニコニコ動画」、ソニーの「eyeVio」など5社の動画投稿サイトとの間で、投稿される動画の音楽著作権に対して包括契約を結んでいる(JRC、イーライセンスも同様の包括契約をYouTubeと結んでいる)。包括契約には音楽の利用者にとって、面倒なことを気にせず楽曲を自由に使えるという大きなメリットがあるのだ。 ■不明瞭なクリエーターへの還元 ● 関連記事● 関連リンク● 記事一覧
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