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更新:8月11日 12:10インターネット:最新ニュース

ネット時代の著作権、権利者保護か流通優先か・専門家はこう見た’08夏(1)

 2008年のIT業界は国内外でホットなニュースや懸案が相次いでいる。IT PLUSでは夏恒例の識者アンケートとして、現在ホットな4つのテーマについて連載コラムニストやIT分野を中心とする専門家に意見を聞いた。第1回のテーマは「ネット時代の著作権、権利者保護かコンテンツ流通優先か」。

 今年上半期にIT・コンテンツ業界はもちろん関連省庁の大臣まで巻き込んで論争を呼んだのが、デジタル放送番組のコピー制限を緩和する「ダビング10」だ。著作権団体とメーカーの対立と激論の末、7月から1カ月遅れでスタートしたが、その余波で文化庁の審議会を舞台とした制度見直し論議の再開のメドが立たないなど将来に禍根を残した。

【質問1】 ダビング10を巡る一連の論争では、デジタル・ネット時代の著作権制度のあり方が改めてクローズアップされました。クリエーターへの対価還元の仕組み、違法ダウンロード規制、権利処理を簡略化する「ネット法」の提言などさまざまな論点が出ていますが、ネットの健全な成長のために何を優先して取り組むべきと思いますか(識者名のあいうえお順で掲載、敬称略)。


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デジタル・メディア評論家

麻倉 怜士


ユーザーが喜んでこそのコンテンツ

 まずもって確認しなければならないのは「ユーザーあってのコンテンツ」ということです。

 この間の、ダビング10騒動などでは、その認識の必要性がさらに明確になったと思います。ユーザーが阻害されずに、自由にコンテンツにアクセス、活用でき、個人的にストレスなく楽しめる・・・という環境をいかにつくるのかということが、すべての議論の出発点になります。「ユーザーが喜んで楽しんでこそのコンテンツ」という観点を、著作権者側も持たなければならないと思います。

 それを前提にして、著作権保護やクリエーター還元なとを考えるべきでしょう。その観点に立つとダビング10はユーザーからみて納得できない方式ですので、早晩、EPNに改訂すべきであることが導かれます。

 もちろんコンテンツ再創造のためのリソースは、クリエーター側に還元されるべきです。でもそれは「お金」という形だけなのでしょうかということも、論議されるべきでしょう。

チームラボ社長

猪子 寿之


世界は一つの法で縛れない

 インターネットには国境がない。法には、国境がある。どんな人でも知っていることだ。したがって、規制などを、ある一国が世界中に同等にかけることなど不可能で、議論するだけ時間の無駄だと思う。そんなことよりも、コンテンツは、勝手に流通するという前提のもとで、逆にクリエーターへの対価還元を考えた方が、よほど有意義だ。

 マドンナはレコード会社との契約を解消し、イベント会社との契約に切り替えた。つまり、コンテンツは勝手に流通するという前提のもと、どうすべきかを真剣に考えているのだと思う。

 どうせ世界中を一つの法で縛れないのだから、正しいか正しくないかを議論するよりも、時代が変わることを前提に、どうするべきか考えたい。サーチエンジンのときも、ウィニーのときも、正しいか正しくないかを議論している間に、グーグルやユーチューブは莫大な国益をアメリカにもたらしている。

 日本に未来が全くないのは、この「ネット時代の著作権、権利者保護かコンテンツ流通優先か」という質問が象徴している。質問は、「ネット時代、クリエーターは、どうすべきか?」や、「ネット時代、社会の創造性をどう担保させるか?」という方がよほど前向きだ。

情報セキュリティ大学院大学教授 兼 横浜市CIO補佐監

内田 勝也


あまりにも不便

 現在の国内の状況を考えると、コンテンツ流通を第一に考えて欲しい。あまりにも色々不便でありすぎる。新しい時代には新しい方法での解決方法を考える時期ではないのか。

デジタルメディア コンサルタント

江口 靖二


「馬車や飛脚を守れ」と同じ

 わたしは突き詰めて言えばネットというよりもデジタル時代には従来のような著作権は氏名表示権以外には存在し得ないと思っています。自動車の時代に馬車や飛脚を守れという主張にしか聞こえない。さらに著作権者を守るのではなく産業や企業を守る話になっていますよね。

経済評論家、公認会計士

勝間 和代


過度の保護で流通を阻害

 どちらかひとつ、という優先はなく権利者と流通のバランスを取りながら発展させるべきでしょう。ただ、日本は他国に比べて過度に保護することで流通が阻害されている面がある。事後の紛争処理のシステムを強化した上で、流通しやすいように保護を緩和する必要があるのではないでしょうか。コンテンツ再利用の環境を、著作権を保護しながらも、整えるべきでしょう。

富士通経営執行役 米州副総代表

加藤 幹之


フェアユース規定を進めるべき

 現在、日本の関係者の間で著作権のフェアユース規定の議論が活発になっている。例えば、知的財産権本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」の会合でも、現在の日本の著作権保護の例外として、一般的な権利制限規定を作る方向で議論が行われている。

 フェアユースの規定ができることによって、「保護すべきか?」「流通優先か?」についてよりバランスの取れた法律判断ができることが期待される。これが実現すれば「著作権で縛られるから(アメリカでできるような)新規の画期的なビジネスができない」というような言い訳は通用しなくなろう。日本ももっと(ビジネス)リスクを負って、新しいビジネスを創出する試みが必要だ。

早稲田大学大学院国際情報通信研究科客員助教授

境 真良


「調整基金」のような仕組みを構想すべき

 一般消費者がその都度権利者と交渉することなく、最小限の負担でコンテンツを利用できること(小規模な二次的創作とその公開を含む)。さらに、コンテンツの供給者が利用量(回数かもしれないし、複製量かもしれないが)に応じた収益を得られること。この2つを同時に実現することが重要で、そのためには単に著作権を強める、弱める、というだけでなく、「三方一両得」的に実現するための「調整基金」のような仕組みを構想するべきではないだろうか。

芸団協実演家著作隣接権センター(CPRA)運営委員

椎名 和夫


著作権は「ネットで儲ける」ための阻害要因なのか

 いまの議論では、「ネットの健全な成長」というよりは、「ネットで儲ける」ための議論が先行していて、わかりやすい阻害要因として著作権がやり玉に挙がっています。「ネットで儲ける」ことの阻害要因は、むしろ他にさまざまあるわけですが、それらをクリアしようとすると、さまざまに輻輳したビジネスモデル間の調整が必要であり、自らのリスクを最小限にとどめるために、とりあえず差しさわりの少ない著作権を標的にしている観があります。

 ネットをうまく使いこなしていくためには、少なくともそういうお手軽な風潮から脱却して一歩先に進むことが必要だと思います。

日興アントファクトリー海外投資グループ・プリンシパル

肖 宇生


ユーザー無視では新たな結論出ない

 そもそもこの論争自体が日本の独特な現象だと感じる。既得権者(テレビ局)の利益保護のための、ユーザー無視の論争だ。背後には日本のコンテンツビジネスにおける圧倒的なテレビ局依存の産業構造があり、その前提でいくら議論しても既存の枠組みを超える結論は出てこないだろう。

 活発なコンテンツ流通の実現は、まだまだ先になる気がする。なぜなら、いまの議論はDVDを記録媒体にする前提で行われているからだ。DVDがメディアとしての役割を維持するのは、恐らくこの先そんなに長くないだろう。

 デジタル・ネット時代の著作権制度を議論する前に、既存の枠組みを捨ててデジタル時代に合わせた斬新な著作権の定義を行うべきだと思う。それは大前提であり、優先して取り組むべきだと思う。


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