更新:2007年10月15日 11:32インターネット:連載・コラム
岸博幸の「メディア業界」改造計画「お布施」「企業スポンサー」欧米音楽ビジネスモデルの変化が示すもの
偶然ではあるが今月、2つの世界的に有名なロックバンドが、音楽業界の伝統的なビジネスモデルを逸脱したやり方で新しいアルバムを発売する。しかも、この2者が取った手法は、アプローチの仕方が全く正反対となっている。ほかのメジャーアーティストもこうした動きに追随しようとしており、必ずやほかのコンテンツやメディアにも波及するであろう。そのとき、日本のコンテンツ・メディア業界は大丈夫であろうか。 ■「ネット上のお布施」モデル その一つは英国のレディオヘッド(Radiohead)というバンドである。アーティストがアルバムを発売する場合、通常はCDでもダウンロードでも当然値段が付けられていて、ユーザーはその値段を払って購入する。しかし、レディオヘッドは、10月10日に発売した新しいアルバムのダウンロードの値段を設定せず、ユーザーが自分で決められるというアプローチを取った(CDでの販売については、ボックスセットで40ポンドと値段が設定されている)。ユーザーが自分で払いたいと思った金額を払えばいいので、1ポンドでも100ポンドでも、同じ音楽を購入できるのである。 欧米の美術館には、ニューヨークのメトロポリタン美術館に代表されるように、入館料の目安はあるが個々の入場者が払う額は自分で決められるという例が散見される。お金のない学生は1ドルでもいいし、お金持ちで美術が好きな人は100ドルを払うかもしれない。今回のレディオヘッドのやり方は、これとほぼ同じであり、日本で近い例を考えると「お布施」が最もぴったり来るであろうか。 ■スポンサー・モデル
もう一つは米国の国民的な人気バンドのイーグルス(Eagles)である。ただ、イーグルスの試みはレディオヘッドと正反対だ。イーグルスの新しいアルバムは10月30日に発売されるが、米国内では、CDとダウンロードの双方とも、米国最大の小売りチェーンであるウォルマート・ストアーズが独占的に発売する。ちなみに、値段は、CDで11.88ドル、デジタルダウンロードで10.88ドルである。 普通、欲しいCDはどこのCDショップでも売っているし、ダウンロードも様々なサイトからできる。イーグルスは、そうしたやり方に背を向けてウォルマートとスポンサー契約を結び、(イーグルスの公式サイト以外では)ウォルマートのみがアルバムを独占的に売ることになったのである。 こうした販売方法を取るに至った理由は明らかにされていないが、容易に推測できるのは、CD売り上げの急激な減少によりアーティスト自身の収入も下落するなかで、企業からのスポンサー収入を頼りにした、という側面もあるだろう(ちなみに、ウォルマートは米国の音楽業界で評判の悪い小売りであることを考えると、ある意味で英断である)。 いまやウォルマートは米国の音楽小売り市場で最大のシェアを誇る。設定された価格は通常のアルバムより安めであり、きっと店内の音楽コーナーで一番良いところに陳列されるであろうが、それだけで通常の売り方より多額のアルバム収入が保証されるとは思えない。スポンサー料が多額だからこそ、イーグルスにとってメリットのある契約になったのではないだろうか。
■着々と進む音楽のビジネスモデルの多様化 このように、レディオヘッドとイーグルスは、新しいアルバムを売る方法として全く対極に位置するアプローチを採用した。前者は、ネットを通じて一般大衆の良心を頼り、後者は特定企業のスポンサーの力を頼った。重要なのは、どちらが正しいかを占うのではなく、どちらも正解であると考えることではないか。ネットの普及と違法コピーの横行により、アーティストの収入が激減するなかで、それを補う手段は一つではないはずだからである。
実は音楽業界では今年に入ってから、メジャーなアーティストほど、こうした新しい取り組みに挑戦している。3月には、元ビートルズのポール・マッカートニーが、スターバックスが立ち上げた新たな音楽レーベルと契約した。スターバックスと音楽のコラボレーションによる相乗効果を期待してのことだろう。また、7月にプリンスが新しいアルバムを発表した際、英国で、小売店の猛反発を無視して「デイリーメール」というタブロイド紙の日曜版に無料でCDを同封した。 さらに、先週末米国で報道されたが、マドンナが近いうちに所属するレコード会社を離れ、ライブ・ネーションというコンサート・プロモーターと、コンサート以外にアルバム、グッズなども含む広範囲なパートナーシップ契約を1億2000万ドルで結ぶようである。加えて言えば、オアシス、ジャミロクワイ、マッドネスといったメジャーアーティストもレディオヘッドと同じアプローチを取るのでは、とも噂されている。 ■音楽の変化はコンテンツ・メディアの変化の先駆け このような現象をどう理解すべきか。私は以下のように捉えている。音楽は、市場規模の小ささやデジタルデータの容量の軽さ、さらにはユーザーにとっての身近さから、コンテンツやメディアの中で、ネットやデジタルなどの環境変化の影響が最も早く現れる分野である。その音楽のビジネスモデルがこのように様々な方向に進化・多様化し始めたということは、いずれ映像コンテンツやメディアも同じ体験をせざるを得ないのである。 つまり、音楽産業でのビジネスモデルの進化・多様化は、コンテンツ・メディア産業全般にとって対岸の火事ではなく、自分たちがいずれたどるであろう未来を示す先駆けなのである。音楽業界での動きをふまえ、自らのビジネスモデルを変革させていかない限り、コンテンツやメディアはいま以上の繁栄を享受できないのではないか。 特に日本のメディアやコンテンツは、様々な要因から、欧米以上に守られた業界であった。しかし、技術進歩、規制緩和やグローバル化の波のなかで、過去のように守られ続けることはあり得ない。欧米の音楽業界での動きを注視しつつ、近い将来に備えた準備を始める時期に来ているのではないだろうか。 ● 関連リンク● 記事一覧
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