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更新:2007年1月30日 12:50インターネット:連載・コラム

IT先進国・韓国の素顔

韓国人気歌手ユニの自殺とインターネット実名制

 韓国の人気歌手でタレントの「ユニ」の自殺が、韓国のインターネット社会に衝撃を与えている。彼女を自殺へ追い込んだ引き金は一部ネットユーザーが絶えることなくユニ本人のホームページやニュースサイトのコメント欄に書き続けた悪質なコメント。韓国は日本と違って本人確認をしないと利用できないネットサービスがほとんどなのに、言葉の暴力はなぜ止まらないのか。

■自殺後も続いた悪意ある書き込み

 「お前は人造人間だ」「また手術したんだろう」「何がセクシーだ。素っ裸で踊ってみろ」──。彼女が日記や写真を掲載するたび、彼女に関するニュースが新聞やポータルサイトに掲載されるたび、人格を否定するような侮辱的コメントが繰り返し掲示板などに書き込まれた。うつ状態になった彼女は遺書も残さず、家族が教会へ行った日曜日の午前、自分の部屋で首を吊った。今月21日のことだ。しかし、ユニが自殺した後も「整形費用がもったいない」「アルバムの宣伝のために死んだのか」など想像を絶する悪質なコメントが続いている。

 性転換した歌手のハ・リスはユニの自殺をきっかけに自分のホームページに2年以上も悪質なコメントを繰り返し書き込んだユーザーを刑事告発した。告発された男性は「性転換なんて天罰が下る」「家族全員殺してやる」など毎日数十件も書き続けていた。

 驚くのは、このような悪質な書き込みが完全な匿名ではなく行われているということだ。韓国ではポータルサイトもコミュニティーもニュースサイトも、住民登録番号と氏名を照会して実名で会員登録し、ログインしないと何も書き込めない仕組みを導入しているが、それでも堂々と、人間とは思えないことを書き続ける人がいる。

■本人確認制度でも止まらず

ポータルサイト「Naver」の年金関連ニュースにつけられた読者コメント一覧

 問題になっているのは、「デッグル」というコメント欄だ。ブログ、コミュニティー、掲示板、新聞やポータルのニュースなどほとんどのサイトは、記事や書き込みに対して誰でも1行程度の意見を書き込めるようにしてある。例えば「公務員年金改革の動き」などのニュースに対して「税金泥棒、公務員もリストラするべきだ」「会社員より少ない給料で我慢してきたのに年金まで減ってしまうと誰も公務員にならない」といった意見が書き込まれる。ユーザー同士で議論したり、ときには記者も出てきて質問に答えたりするほど「デッグル文化」が定着している。

 デッグルは「オーマイニュース」のような市民記者に続く、もう一つの市民ジャーナリズムとして、世論を反映していると評価されている。デッグルは朝鮮時代、学者達が本の貸し借りをしながら自分の意見を書き込んで次の人に渡したことから生まれた言葉だという。

 ただ、今のデッグルは会員登録時に住民登録番号などで本人確認をするものの、コメント欄に実名が出るわけではない。本人確認の仕組みはもともとネット上の言葉の暴力や人権侵害をなくす効果が期待されていたが、それがうまく効果を上げず、現状では悪意あるコメントが氾濫している。

 討論好きの韓国では軍事政権で抑え込まれていた表現したいという欲求が一気に出てきたため、いまはまだ混乱期で、とにかく書きたい放題になっているのかもしれない。しかし、1日数千万人が訪問するポータルニュースのコメント欄に何の関係もない人から理由もなく悪口を書かれ攻撃され、落ち着いていられる人はいるだろうか。悪質なコメントのせいでひきこもりになったり、睡眠薬なしでは眠れなくなったりする人は少なくない。

 韓国の警察庁の調べによると、悪質な「デッグル」によるサイバー暴力は2002年の3155件から、2006年には7881件と、5年で2.5倍に増加している。検挙率が2002年が2762件、2006年が6338件と高い水準を保っているのが唯一の救いだろうか。

 ポータルニュースのコメント欄が怖いのは、うその書き込みであってもブログやメール、メッセンジャー経由であたかも真実のように一瞬で広がり、検索キーワードランキングの上位を占め、「〜らしい」ではなく「〜だ」になってしまうことだ。

■実名制度の法制化と表現の自由

 今年7月からはさらに規制を強化して、1日の訪問者数が10万人以上のポータルサイトとニュースサイトでは実名を確認してからでないと何も書き込めなくするという法律が施行される。これまで「表現の自由がなくなる」とインターネット実名制導入に反対していたネットユーザーたちも多かったが、ユニの自殺をきっかけに実名制度を法律で早期に義務付けることに賛成する声も高まり始めた。

 ただ、問題はどうやって実名かどうかを確認するのかということだ。世論調査では、「インターネットの実名制徹底で悪質な書き込みは減るだろうか」という質問に、79%が「効果ある」と答えているが、法律では実名制の具体的な方法までは明記していないため根本的な解決策となるかは疑問が残る。 

 ポータルサイトなどが現在行っている本人確認の仕組みは、会員登録は実名でするが、コメント欄にはIDやニックネームが表示され、しかも1つの住民登録番号で複数のIDを作れるようになっている。サイト運営側はIDから本人を特定できるが、一般のユーザー同士では匿名と変わらない。「サイワールド」のように本人の実名でしか書き込めないSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)ですら、堂々と悪口を書き込む人がいることを考えると、たとえ本人確認が法的に適用されても、どこまで効果を期待できるだろうか。

 韓国ポータル市場の7割を占め、訪問者数1位の「Naver」の場合、ニュースコーナーだけで1日18万件以上のコメントが書き込まれる。悪質な書き込みに関する届出センターを運営し、200人のモニターが24時間監視。度を超えた書き込みは本人に警告したり削除したりするなど、あの手この手を尽くしているが、一向に減らない。

 住民登録番号を盗用して会員登録すると1000万ウォン(約130万円)以下の罰金または3年以下の懲役になるが、それでも自分の個人情報を守るために他人の番号を盗むという行為があとを絶たない。自分の住民登録番号がどのサイトの会員登録に使われたのかを確認できる有料サイトも登場したほどだ。

 一部サイトでは携帯電話に暗証番号を送信し、それをもう一度ウェブの画面に入力しないと会員登録できないよう二重に本人確認するなど、住民登録番号だけに頼らない本人確認方法を導入するところも増えてきた。

■ネットも生活の延長で考えよう

 悪質な書き込みをして告発された人を逮捕してみると、ほとんどが内気で小心で「まさかこの人が?」と驚いてしまうという。なかには大学教授、医者、企業の役員といった社会的に地位の高い人もいて、言うべきことを言っただけだと開き直る人すらいるらしい。こういう人たちはインターネットでデマや悪口を堂々と書き込むことで「私は偉い人なんだ、強い人なんだ」と思い込んでしまうそうだ。

 日本でも市民参加型メディアが登場し始め、ネットユーザーの参加で成り立つサイトも増えてきたなかで、顔が見えないのをいいことに根拠のないことを平気で書き込む人がいるが、それは匿名の問題というよりモラルの問題なのではないだろうか。最近は小学生の悪質な書き込みも増えている。学校ではパソコンの使い方よりネチケットが大事だとして、ネットで個人情報を教えない、書き込むときは何度も考えてから、などのルールを教え始めている。

 法律で規制し、とことん処罰するのも抑止効果になるだろうが、実名制度で見張られているというのも心地良いものではない。プライバシー保護、通信の秘密や自由も憲法で保障されている。

 悪質コメントの書き込みを反省するユーザー達が「もう二度とそのようなことはしない」と懺悔するためのサイトも生まれた。ネットの便利さだけが強調され過ぎてしまったために、ネットも生活の延長で、人とのコミュニケーションをより豊かにしてくれるものだということを忘れてはならない。

[2007年1月30日]

-筆者紹介-

趙 章恩(チョウ・チャンウン)

JIBC会長・IT評論家・Webプロデューサー

略歴

 1974年韓国ソウル生まれ。日本で高校まで過ごし、韓国へ。梨花女子大学を卒
業後、韓国大手企業の日本担当部署に務める。現在、韓国のIT企業の海外進出サポート、Webサイト企画から構築までを指揮するプロデューサーを務める。また、韓国で唯一、日本とのインターネットビジネス交流を図る非営利団体JIBC(http://www.kjibc.org)の会長、韓国政府機関、公社のWebサイト海外プロモーション顧問として、海外向け韓国市場調査などのリサーチを行うJNJネットワークのシニアコンサルタントも務める。日韓で雑誌や日刊紙、TV、ラジオなどでIT評論家としても活躍中。
 著書として『韓国インターネットの技を盗め』(アスキー出版)、韓国で話題を巻き起こした『日本インターネットの収益モデルを脱がせ!』(ドナン出版)がある。
メール・アドレス<kjibc@kjibc.org

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