更新:2007年3月8日 11:00インターネット:連載・コラム
小池良次の米国事情ストリンガー・ソニーCEOの米紙インタビューが投げかけた波紋
3月3日、ウォールストリートジャーナル(WSJ)は「Howard Stringer, Japanese CEO」と題するソニーの記事を週末版の一面トップに掲載した。ソニーはコストカットと米国でのAV機器販売が回復し、昨年の夏まで復活の兆しを示していた。しかし、秋口からパソコンバッテリーの回収トラブルと「プレイステーション3(PS3)」の不調に苦しみ、厳しい決算を発表する一方、ストリンガーCEOの経営手腕を疑問視する動きもあった。今回の報道は日本と米国の間に立つストリンガーCEOの苦しい胸中に追った記事だが、米メディア、特にゲーム業界に大きな波紋を投げかけている。 ■生々しい内部暴露記事 まず、記事の概要をおさらいしよう。 ──アメリカに向かってはコストカットを求め、日本では求めない。ふたつは別世界だ。日本で解雇は難しいが米国では簡単にできる──記事は最初の部分でストリンガーCEOのこうした言葉を紹介し、日米の違いに悩むトップの姿を描いている。中盤ではハードの設計にばかり力を入れ、ソフトウエアを軽視するソニーの社風を変えようとする努力や、ロボット事業(アイボ)からの撤退、そして携帯音楽プレーヤー事業(コネクト)へのスタンスで対立する日米エグゼクティブなどを取り上げている。 後半では、PS3の開発トラブルとソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)前社長の久多良木健氏との確執、パソコン・バッテリーの不良回収問題に奔走する様を描き、最後は日米欧の三重生活を続けるストリンガー氏が、かたくなに日本で居を構えずホテル生活を続けているというところで締めくくっている。 全体としては、日本企業のトップに立った米国エグゼクティブの苦労談となっているが、随所に実名で登場する日本のエグゼクティブとストリンガー氏との対立は生々しい。「不良バッテリー問題を知ったのは部下からの報告ではなく、友人マイケル・デル氏からの電話だった」など、日本の本社で情報隔離に悩む逸話もある。それぞれの部門が独立性をもち、会社全体としてまとまりがなくなったソニーを改革しようと、ストリンガー氏が対立するトップをつぎつぎと更迭するストーリーとも読める。 ■ゲーム業界には大きな波紋
WSJ紙は、こうした社内の暴露記事を得意とするが、日本企業を対象にしたものは珍しい。一部のメディアでは、米国から日本の本社に乗り込んだストリンガー氏に「泣き言を言うな」と厳しい見解を示す反応もあったが、証券業界や一般紙は冷静あるいは無視の態度を取っている。 一方、ゲーム系メディアでは、「久多良木氏の更迭をストリンガー氏が正式にみとめた」と一斉に報道した。PS3の今後を憂うというよりは、ゲーム業界のカリスマとして君臨してきた久多良木氏の失脚に深い関心を示した記事が多い。これでゲーム業界における「久多良木マジック」の神話は崩れたようだ。 この記事で、WSJ紙がどのような読者反応を期待したかはわからない。しかし、執筆した記者の意図は別として、取材に応じたストリンガー氏は、メディアを使って一連の経営判断を弁明したように映る。「孤立無援で社内改革を進めていることを認めてほしい」と訴え、「米国ソニーが再建に貢献しているにもかかわらず、日本本社は改革が進んでいない」と、抵抗する日本側に圧力をかけているようにも読める。 記事では、そう訴えるストリンガー氏が依然、ホテル住まいを続け、日本に腰を据えて経営の采配を振るう姿勢を示さないことを鋭く突いている。ストリンガー氏の意図は別として、WSJ紙はストリンガー氏の一方的な賛美記事にはしていない。 とはいえ、日本本社にとってはイメージダウンとなる記事だろう。英語版ということで、日本国内ではほとんど話題にならないだろうが、米国の経済界が日本ソニーを見る眼が厳しくなることは避けられない。また、ドル箱である米国市場で、こうした記事が出たことに首をかしげざるを得ない。私だけでなく「日本のソニーは本当に米国市場に眼を向けているのか」と疑問を持つ読者も多いことだろう。 ◇◇◇
ストリンガー氏の記事は、様々な示唆を与えてくれる。日本に進出した米国のハイテク企業でも、これに類する問題はよく耳にする。日本市場の売り上げが大きいにもかかわらず「米国本社は日本支社への支援姿勢に乏しい」「日本市場を理解しようとしない」といった不満にはよく出くわす。多国籍化する企業の経営問題として、こうした本社・支社の意思疎通不足は一般的なのだろう。 興味深いのは、本社の経営再建に米国ソニーのトップが選ばれたという点だ。本来であれば、ストリンガー氏のCEO就任で、米国と日本の意思疎通は円滑になるはずだ。しかし、ソニーにおいては日米の対立が逆に拡大されている。ソニーの憂うつは、これからも続くのだろうか。 [2007年3月8日] ● 関連リンク● 記事一覧
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