更新:2007年6月1日 13:30インターネット:連載・コラム
ガ島流ネット社会学ブログのコメント欄から生まれた労働組合
インターネットと労働組合、この2つはどことなく縁遠かった。インターネットユーザーの中心となる20〜30代前半は、成果主義の導入、非正規雇用の増加など、労働環境の多様化の波に晒される「ロストジェネレーション(失われた世代)」。この世代にとっての労組は、既存の枠組みにとらわれた抵抗勢力としてのイメージが強く、現実に若者の労組離れが進んでいる。そんななか、ブログがきっかけとなり20代が中心となった労働組合が結成され、関係者の注目を集めている。 ■最初はスタッフの情報交換用 先日、新聞記者駆け出しのころ一緒に現場を回っていた全国紙の先輩記者からメールが届いた。フリージャーナリストをしながら労組活動をしていると言い、「ブログがきっかけになり組合が結成された」という。この話は一部のマスメディアで取り上げられ注目していたので、ニュースの当事者が知り合いだったことに驚きつつ、話を聞くことになった。 ブログの名前は「労働相談センター・スタッフ日記」。2005年9月、NPO法人労働相談センターのスタッフの情報交換用として、軽い気持ちで立ち上げられた。労働関係の判決やイベントのほか、映画の感想や近くの川にいた鳥の写真を紹介するなど、日々の出来事も書いていた。知り合いが見る程度でアクセス数は細々としたものだったそうだ。 2006年3月と7月、同センターあてにある企業の労働環境のひどさを記した匿名の手紙が立て続けに届いた。残業の未払いだけでなく、病気や過労死など切実な内容であったが、匿名のため誰が発信者なのか分からない。そこで、このスタッフブログを使って労働環境の実態を連絡してもらうように呼びかけることにした。 まさに手探りのスタートで、3カ月間は何の反応もなく、スタッフも忘れかけていたという。この状況を変えたのがグーグルだった。 ■「検索」から始まった組合結成 2006年11月、くだんの企業に勤める従業員がセンターを訪ねてきた。ネットカフェでグーグルを使い相談先を検索していたところ、スタッフブログを見つけたという。検索エンジンが、悩んだ労働者と労組を結び付けたのだ。
この訪問を受け、センターはその企業の支店にファクスを送るなど本格的な活動をスタート。スタッフブログのアクセス数も増え始め、その企業の社員の間に口コミで広がってコメントが書き込まれるようになった。 スタッフブログのコメント欄には、現役の社員だけでなく元社員や取引先、家族など、さまざまな人が不満や問題点を書き込んだ。盛り上がったコメント欄で、組合の委員長、書記長に名乗りを上げる人が現れ、組合の結成へと結びついた。会社側への要求案の策定、団体交渉の報告などもブログを通じて行われている。 組合結成には、ブログのコメント欄が大きな役割を果たしている。ブログの持つリアルタイム性と双方向性は、コメント欄での議論を盛り上げ「共感」を呼び起こした。また、匿名性があることで、リアルでは声を上げられない人たちも議論に参加することができたようだ。ブログに投げたメッセージが、検索エンジンを通して人に伝わり、さらに別々の場所で悩んでいた人たちを結びつけていった。新しい時代がもたらした労組といえるかもしれない。 ■若い世代にアプローチする力 なぜ、「労組ブログ」が注目されるのか。それは、労組の置かれている状況にある。 厚生労働省の統計「労働組合基礎調査」(2006年度)によると、労働組合の推定組織率は2003年に20%を切り、06年は18.2%となっている。特に若者の労組離れは深刻だ。 人事コンサルタントの城繁幸氏は、ベストセラー「若者はなぜ3年で辞めるのか?」の中で、「組合は会社に輪をかけたような年功序列で経営陣以上に昭和的価値観を持った組織」「派遣や請負などの非正規労働者の増加は両者(経営者と労組)の妥協の産物と言える」などと、既得権の確保に走り、若者にツケを回している労組を厳しく批判している。 この指摘がすべて当たっているわけではないだろうが、若者が持つ労組のイメージはつかむことができる。労組の代表的なプロモーションであるガリ版印刷のビラ、赤い旗をなびかせ、赤い鉢巻を締めた人たちによる街頭デモ、古臭いスローガンは、若者にアピールするものではない。 また、非正社員や正社員、成果主義による賃金の格差により、職場によっては誰がどのような条件で働いているのかも分からなくなりつつある。コミュニケーションの共通基盤が失われつつある労働の現場では、同一の条件にあることを前提にした旧来の労組の声はまるで届かない。 このような状況において、これまでアプローチできなかった若い世代に「届く」ブログというメディアに注目が集まるのは当然なのだろう。 ■ブログの持つメリットとリスク それでは、労組ブログは大きく広がるのだろうか。そのためには、ブログが労組に何をもたらすのかを考える必要がある。 プラス面は、今回のケースのような新たな世代、地域を越えた人たちへのアプローチが可能になったこと、情報の共有化、運営の透明化がある。 ブログは誰もが見ることができるため、マスコミが報道しなければ注目されなかった活動も人の目に触れることになる。「変なことを言えば、まずいことになる」という抑止力が経営側に働く可能性はあり、社会的なプレゼンスを示すことにも繋がるだろう。 ビジネスブログなどと同様にコメント欄の運用は悩ましいところだ。スタッフブログも、アクセス数が増えて注目が集まるに従い、無関係なコメント、名誉毀損を問われかねないコメントが入るようになり、自由投稿から途中で承認制に変更された。 しかし、コメント欄を閉じれば労組結成を演出した「熱」を奪うことになる。匿名によって声を上げることができたというメリットもあるが、無責任な言動はマイナスに作用することもある。また、一部からはコメントがガス抜きになっていて行動に結びつかないと指摘する声もあるという。 今回のケースは、透明なブログの運用、労働者を応援する同センターの姿勢もあって成功したが、どの労組ブログもうまくいくとは限らない。労組ブログにとって最も大きなリスクは、自らの主張は絶対に正しいというスタンスを取ることが多い“労組的体質”なのかもしれない。それでは、自らに都合のよい情報を押し付けようとして「炎上」した企業のプロモーションブログと同じ結末になるだろう。ブログの世界においては、ウソや都合のよい情報の押し付けは通用しない。少なくとも情報を発信することはできても、共感を呼ぶブログは生まれない。 労働相談センター・スタッフ日記 [2007年6月1日] ● 関連リンク● 記事一覧
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