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更新:2008年4月30日 12:02インターネット:連載・コラム

中国IT最前線(肖 宇生)

携帯の新ガリバー・チャイナモバイルの世界戦略

 ソフトバンクと英ボーダフォン、チャイナモバイル(中国移動)の3社は4月24日、携帯向けソフト開発の合弁会社を共同で設立すると発表した。この顔ぶれで注目したいのは、もちろんチャイナモバイル。いまやユーザー数、時価総額ともボーダフォンを超える世界最大手となり、携帯ソフト開発を巡るパワーゲームでも先進国のキャリアが無視できない存在となったことを示すからだ。

■中国・世界で最大手

 中国の通信キャリアはこのほど相次いで2008年第1四半期の決算を発表した。チャイナモバイルは売上高が930.24億元(約1兆3950円)、純利益が241.02億元(3615億円)で、前年同期比でそれぞれ19.7%、37.2%伸び、ライバルを圧倒している。市場シェアは7割で、累計ユーザー数は4億に迫る勢い。同期の新規ユーザー契約純増数も2280万人と、移動通信2番手のチャイナユニコムの450万人を大きく引き離している。

 時価総額においてはさらにその強さが際立っている。直近の株価で見たチャイナモバイルの時価総額は36兆3875億円であり、チャイナユニコムの3兆145億円、固定通信最大手のチャイナテレコムの9655億円と比べるまでもなく、固定通信も含めた中国4大キャリアの中で一人勝ちの状況が続いている。

 海外企業との比較でも、チャイナモバイルの時価総額はボーダフォン(17兆円)の2倍強、NTTドコモ(6兆7700億円)の6倍弱もあるのだ。中国携帯電話の普及率はいまだ5割を切っており、市場の成長余地は大きい。国内市場で圧倒的な強さを誇っているチャイナモバイルの株価にも成長への期待が反映されている。そしてそのずば抜けた時価総額を活用し、海外でのM&A(合併・買収)を積極的に展開しており、ビジネス構造がさらに強固になる好循環を生み出しているのだ。

■新卒のあこがれの的

チャイナモバイルは人材獲得競争でも最強

 以前のコラムで、中央政府直轄の大型国営企業である「央企」について言及したが、チャイナモバイルはその筆頭格で、「央企」の中の「央企」といっても過言ではない。もちろん、人材市場でのステータスも頭一つ抜き出ている。

 その人気は昔から中国人学生のあこがれであった欧米の外資系企業以上だ。いまの中国の新卒にとって、チャイナモバイルに就職するのは至難の業だといわれるほどだ。

 幹部候補生の新卒募集は北京大学や清華大学といったエリート校、そして通信の主管官庁である信息産業部系の北京、南京の郵電大学など最高峰の5―6校にほぼ絞られている。しかも修士が最低要件とも言われている。多くの部門で英語力のハードルも高く、中国の英語検定6級(日本の英検準1級か1級に相当する最高レベル)が求められている。まさにエリート中のエリートしか入れない狭き門だ。

 卒業生を引き付ける最大の魅力は、ダントツの給与水準にある。正確な数字は公表されていないが、一般的にチャイナモバイルの給料はほかの「央企」の4―5倍と言われている。一般的な「央企」の給料はほかの企業の4―5倍という構図になっているので、その突出ぶりがうかがえる。

 あるとき、チャイナモバイル社の給与明細リストというものがネット上に流れ、本物かウソかと大きな反響を呼んだことがある。一般的な中国人からみれば、それほどかけ離れた数字だったからだ。

 3Gの解禁を間近に控え、チャイナモバイルの新卒採用はこれまでの年2000人から、07年度は一気に5000人に増えた。早い時期から名門校の人材の青田買いを進めており、その規模の大きさから早くも人材市場のかく乱要素とされている。

■海外進出は新興国市場にとどまらず

 チャイナモバイルは国内市場に飽き足らず、早い時期から海外進出を企んでいた。2006年にはルクセンブルクを本拠とする多国籍通信キャリアのミリコム・インターナショナル・セルラーの買収をしかけ、成立直前で敗れたが、その後もその主要ターゲットである新興国市場の企業買収を狙い続けてきた。

 そして2007年2月にパキスタンの中堅キャリアであるパクテルを買収し、初めて本格的な海外進出を果たした。今年度も同社に8億ドルを追加投資し、ネットワークの拡張を急いでいる。

 累計ユーザー数は同国最大手のモビリンクに大きく水をあけられているが、今年1―2月の純増数は214万人でパキスタン市場全体の半分以上を占め、モビリンクの同135万人を大きく上回るなど、投資効果が少しずつ表れている。4月にはチャイナモバイル初の海外サービスブランドである「Zong」を発表し、今後パキスタン以外の地域展開にも統一ブランドとして打ち出していくと見られている。

 昨年から米国を震源地としたサブプライム問題により世界の株式市場が下落し続けるなか、チャイナモバイルにとっては重点投資地域のアジアや中南米、アフリカなどで企業買収を進める格好の機会となっている。新興国市場を足がかりに、欧米などの先進国市場でもボーダフォンなど大手キャリアと提携しながら徐々に浸透を狙っている。チャイナモバイルの海外進出はもはや欧米や日本市場にとっても他人事ではない。

■3G解禁・業界再編をどう迎えるか

 いまのところ盤石に見えるチャイナモバイルの快進撃だが、近い将来に不安定要素が全くないわけでもない。それは3Gの解禁や、その前に行われると見られている通信キャリア業界の再編だ。

 中国では移動と固定通信キャリアの業界再編が何年も前から噂されているが、いよいよ現実味を帯びてきた。多くの見方としては移動通信2番手のチャイナユニコムが持つCDMAとGSMのネットワークをそれぞれ固定通信最大手のチャイナテレコムと固定通信2番手のチャイナネットコムと合併。3Gの解禁に伴いそれぞれCDMA2000とWCDMAを担うことになるのではと言われている。

 そして、チャイナモバイルは今のところ中国独自規格であるTD−SCDMAを推進する重責を背負っている。2G時代においてライバルとなるはずのチャイナユニコムは全く相手にならなかったが、業界再編で業務の集中と選択を行い財務体質もより強固になるため、ある程度チャイナモバイルにプレシャーをかけることができるだろうと思われる。現時点ではチャイナモバイルの優位は揺がないが、競争環境が激化するのは間違いない。

 そして3G解禁後だが、これまでチャイナモバイルはTD−SCDMAを担いつつも、WCDMAにも莫大な先行投資を行ってきた。TD−SCDMA一本でいくのか、それとも2方式とも展開するのか。その方向性はいまだ見えていない。

 音声通話中心のGSMネットワークはそのまま残るはずなので、データ通信中心の3GにおいてはTD−SCDMAに集中し、さらに次の世代である3.5Gや4Gをにらんだ取り組みを推進した方が効率的だと筆者は考えるが、果たしてチャイナモバイルはどのような決断を下すのか。その決断はチャイナモバイルの今後に大きな影響を与えるだろう。

 世界のメジャー企業と堂々と渡り合うまでに成長してきたチャイナモバイルだが、3Gが始まるこれからの数年間はその成長の山場となる。そしてその経営判断は、世界中の通信関連企業にも大きく影響を与えるだろう。

-筆者紹介-

肖 宇生(しょう うせい)

日本総合研究所 総合研究部門 主任研究員

略歴

 1991年中国の大学を中退、来日。92年大阪大学経済学部に入学、96年卒業後に金融機関を経て99年一橋大学大学院経済学研究科に入学、修士号を取得。2001年大手電機メーカーで中国向けの携帯ビジネスに携わる。2003年に野村総合研究所に入社し、中国に進出する日系企業を対象にしたコンサルティング業務に従事。日興アントファクトリーに移り、海外市場向けのベンチャーキャピタル投資に携わった後、2009年に日本総合研究所に入社、中国市場における経営コンサルティングサービスを担当。

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