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更新:2007年1月9日 12:50インターネット:連載・コラム

中国IT最前線(肖 宇生)

次世代DVD戦争に殴り込み・中国独自規格に勝ち目はあるか

 米ラスベガスで開催中の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)2007」では、次世代DVD規格の覇権を巡って今年も「ブルーレイ・ディスク」と「HD・DVD」が火花を散らしている。しかし、一般にはあまり知られていないがその裏で、中国独自の次世代DVD規格であるEVD(Enhanced Versatile Disc)陣営も、将来の国際規格を狙って中国市場での足場固めを進めている。巨大な中国市場をバックにしてEVDは次世代DVD規格の一角に食い込めるのだろうか。

■苦難続きのEVD

 EVDが2005年2月に中国の国家規格として認定されるまでの道のりは平坦ではなかった。1998年から開発がスタート、2001年にコア技術を確立し、2003年に最初の製品リリースにこぎ着けた。ところがメーカー、コンテンツ企業双方の協力を取り付けることができず、商品化は空振りに終わってしまった。

EVDプレーヤーの販売は思わしくない=中国・広州の販売店〔AP Photo〕

 一方で、DVDプレーヤー市場で中国メーカーの苦境は続いていた。ただでさえ激しい価格下落に苦しめられているうえ、海外企業に支払う1台あたりのライセンス料が2002年の5ドルから現在は20ドルにまで上昇。ライセンス料だけで製造コストの半分ほどを占めるようになり、中国のDVDプレーヤー産業は破滅状態に近づいた。

 こういった背景から、中国政府はEVDの規格化のバックアップを継続し、メーカーも半信半疑ながら徐々にEVD陣営に近づいてきた。そして、2006年10月にメーカーや家電量販店が一堂に「中国EVD産業連盟」を創立。12月にはEVD産業発展の道筋を示すガイドライン「北京宣言」を発表した。これでやっとEVDは産業化のスタートラインに立てたわけだ。

■世界標準が中国に上陸する前に

 ようやく業界内の体制が整ったEVD陣営は、世界公認規格のブルーレイ・ディスクとHD・DVDに対抗するため、中国市場での足場固めに懸命だ。前述の「北京宣言」では、北京オリンピックの年である2008年には中国メーカーは既存のDVDプレーヤーの生産から撤退し、EVDか、DVDと互換性のあるEVD対応プレーヤーだけを生産するとし、中国市場の制圧を目指す方針を明確にした。

 同時に20社のメーカーが最新の「EVD2」に対応した52機種をそろえ、チップセットを含むコア技術の国産化のアピールに余念がない。発売価格も現行のDVDプレーヤーと同レベルの700元(約1万円)程度に設定し、ブルーレイ・ディスクやHD・DVDと比べた価格優位を強調している。

 産業連盟は中国最大手の家電量販店である「国美電器」を巻き込んで、販売チャネルも確保した。全国の映画館には、低価格を武器に、古い設備からEVDへの転換を積極的に働きかけている。また、普及を促すために、EVD2の特徴であるネットワーク機能を生かし、公共の場所に「EVDステーション」を設置し、USBメモリーなどの携帯型記憶装置に映像をダウンロードできるサービスも展開している。

 しばらく沈黙を余儀なくされてきたEVD陣営だが、いま、その鼻息は荒い。すべてはブルーレイ・ディスクやHD・DVDが中国に上陸する前にEVDの地位を確固たるものにするためだ。

■陣営内の「同床異夢」

 ただ、できたばかりのEVD産業連盟の内部は一枚岩ではない。連盟のリーダー格である大手投資会社「今典集団」の張宝全会長はEVD産業のロードマップを高らかに宣言したが、メーカー側の胸の内は複雑なようだ。海外メーカーへの高額なライセンス料から逃れたい気持ちは当然強い。しかしEVDに対しての信認はまだ薄いのだ。

 EVDは市場投入から3年が経つが、中国のDVD市場でのシェアはいまだに1%に過ぎず、既存のDVDに太刀打ちできないでいる。デジタルテレビやハイビジョンテレビの普及に伴い、通常のDVDの5倍の解像度を持つEVDが有利になる可能性はある。しかし、現行のDVDに勝ったとしても、次には次世代DVDが待ち受けている。EVD陣営内部でもEVDの前途には疑心暗鬼なのだ。

 すでに何社かのメーカーは、北京宣言が掲げる「2008年の既存DVDプレーヤー生産からの撤退」の拒否を明言している。販売チャネルの担い手である家電量販店も2つに分かれている。最大手の「国美電器」はEVD支持を表明しているが、2番手の「蘇寧電器」は真っ向からEVDを否定している。中国企業でさえばらばらであるようでは、いくら政府が後押ししてもEVDの行方は前途多難といわざるを得ない。

■ハリウッドを味方に付けられるか

 EVDが次世代DVDの国際規格と対等に戦っていくためには、まず中国市場での成功が不可欠だ。製造コストが低いため、既存のDVDとはいい勝負ができると思われるが、ブルーレイ・ディスクやHD・DVD陣営と比較すると技術やマーケティング面での劣勢が否めない。

 EVDは製造コストをほかの次世代DVDの5分の1以下に抑えたり、海賊版の防止機能にも強みがあるといわれているが、肝心の記憶容量では既存のDVDと大差がなく、大きく水を開けられている。そして、一番重要なのはハリウッドのメジャーコンテンツ企業の賛同を取り付けられていないことだ。中国の映像市場を牛耳っている大手コンテンツ企業を味方につけないと、せっかくのEVDも絵に描いた餅だ。

 次世代DVDの当面の主戦場は日本や欧米市場だろう。世界のメーカー各社もしばらく中国に力を入れる余裕がないと思われるが、中国のハイビジョンテレビ市場は2007年に800万台との予測も出ており、2008年には中国の中央テレビが北京オリンピックの番組放送をハイビジョンで行うことをすでに決めている。2008年は中国のハイビジョンテレビの本格普及の年になる可能性が大きい。

 もちろん、そのときブルーレイ・ディスクやHD・DVD陣営も中国市場を見逃すはずはない。それまでの「空白期間」を利用して、技術上の弱点を改善し、ハリウッドなどの大手コンテンツ企業を取り込めない限り、EVDの成功もあり得ない。もちろん、国際規格への道も閉ざされるだろう。EVD陣営に残された時間は多くない。

[2007年1月9日]

-筆者紹介-

肖 宇生(しょう うせい)

日本総合研究所 総合研究部門 主任研究員

略歴

 1991年中国の大学を中退、来日。92年大阪大学経済学部に入学、96年卒業後に金融機関を経て99年一橋大学大学院経済学研究科に入学、修士号を取得。2001年大手電機メーカーで中国向けの携帯ビジネスに携わる。2003年に野村総合研究所に入社し、中国に進出する日系企業を対象にしたコンサルティング業務に従事。日興アントファクトリーに移り、海外市場向けのベンチャーキャピタル投資に携わった後、2009年に日本総合研究所に入社、中国市場における経営コンサルティングサービスを担当。

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