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更新:2007年5月9日 11:30デジタル家電&エンタメ:連載・コラム

麻倉怜士のニュースEYE

次々世代型ディスプレー競争の幕開け〜FED編

 有機ELと並ぶもうひとつの次々世代型ディスプレーとして、FEDが産声を上げそうだ。今まで電界放出ディスプレーとしてはSEDがダントツに先を走っていたのだが、ここにきて訴訟問題を抱えパネル生産のメドをどう付けるかで足踏みしているように見える。その間隙を縫い、ソニーの関連会社のエフ・イー・テクノロジーズが発表に踏み切り、大いに話題を呼んだ。

 ディスプレーの歴史を紐解いてみると、新たなディスプレーデバイスは急に出現するものではなく、それ相応の開発期間がかかっていることが分かる。液晶は1880年代にプラハで原理が発明され、1960年代にアメリカでディスプレーとしての応用研究が進んだ。70年代以降、日本のメーカーによって電卓や腕時計の表示デバイスとして成長し、それが21世紀になり、テレビデバイスとして花開いた。つまり発明から普及まで100年以上、経過しているのである。

 プラズマにしても1960年代にアメリカのイリノイ大学で原理が発明され、それがパソコン用のデバイスとして採用されたのが80年代の後半のこと。東芝の初代ダイナブックに搭載されたのが嚆矢だ。92年に富士通が21インチのディスプレーを開発し、2000年以降にテレビデバイスとして定着するという経過をたどっている。

 この2つのディスプレーデバイスの開発史からいえることは、新しいデバイスが開発され、実用化され、さらに成長軌道に乗るためには、かなり長い時間が必要であるということだ。今年になって有機ELとFEDが華々しく登場し、商品化の話題が出たということは、逆に言うと長い開発期間を経て、今いよいよ揺りかごから出はじめ、よちよち歩きをしはじめる時期に差し掛かったという歴史的な位置づけができるのである。 

 ソニーはトリニトロンブラウン管の次は有機ELもしくはFEDだとして、90年代の後半からどちらの開発も進めていたが、すべてを手がけるのではなく、商品化が近い技術を育てるということで有機ELを選択した。FEDはそのときに開発中止の運びになったのだが、カーブドアウトという新しい投資の手法を活用して社外の独立会社として研究開発を進める道が与えられた。

 テクノロジー・カーブアウト投資事業有限責任組合という投資ファンドがこの有望な技術の受け皿として新しい会社を作り、そこで事業化の検討を推進するという申し入れをした。これにソニーが同意して出資し、かつファンドも出資するという形でエフ・イー・テクノロジーズがつくられたのである。

 ソニーの岐阜工場には20インチ用の試作ラインがあり、そこでそのまま研究開発を続け、事業化のメドが立ったら、なんらかの形で展開していくとのことだ。私が見るところ、FEDの画質も新世代のデバイスとして素晴らしい。

■ブラウン管の正統な後継者たるFED

展示会「Display 2007」に出展された19.2型のFED(下段)

 私は前回のコラムで有機ELは画質的には液晶をリファインしたと書いたが、その例えにならえばFEDはまさしくブラウン管の後継になる映像である。去年のCEATECで公開されたSEDはシャープで鮮明な映像をみせたが、今回のFEDの試作機は非常に暖かくまろやかで、刺激的なところが少なく、それでいてフォーカスがとれていた。ブラウン管的なよさを残しながら、画素型のフォーカスのよさをミックスした品位の高い映像であった。

 この映像が最適なのは放送局のマスターモニターであろう。それは、従来のソニーのブラウン管マスターモニターの最高峰、BVMに非常に近い。これまでブラウン管のマスターモニターの映像を見てきたビデオエンジニアがなんの違和感もなく、スイッチできるだろう。

 今回のFEDは試作機段階だが、映像技術を確立したならば現実の商品としてものにしてもらいたい。手ごろなターゲットはソニーの放送機器事業部門が手がけるマスターモニターだろう。今BVMをはじめとするブラウン管のマスターモニターは製造が中止になっており、そうなると現場が選ぶ小さいディスプレーは液晶しかなくなる。

 実際問題、ソニーの放送部門はIPS液晶を使った23インチのマスターモニターを発表しているが、やはり、エフ・イー・テクノロジーズのFEDを使ったブラウン管の正統な後継となる画素型マスターモニターが理想ではないだろうか。

 さらにいうならば、かつてソニーが手がけていたマニアのあこがれである「プロフィール」ブランドを冠したFEDワイドテレビも期待したい。100万でも200万でも買いたいという人はいるだろう。私の映像の規範はいまだにブラウン管であり、ブラウン管を基調にしながら、ブラウン管で得られないハイフォーカスが得られるというのが理想のディスプレーだ。そういう意味でFEDは理想のディスプレーの一端を垣間見せてくれる。

 今回のものは20型ということで若干小さめだが、ぜひ大きいラインも作ってほしい。エフ・イー・テクノロジーズは独立会社なのだから、そのためには資金が必要だ。有望な技術に積極的に投資をしようという投資家の拡大を望む。投資をして未来の高画質の夢を一緒に見ようではないか。

 こう書いてくると気になるのはSEDである。今、訴訟問題をかかえなかなか前進できないが、ここはぜひ、法廷交渉の達人としてのキヤノンに期待するとして、問題が解決したら早期の商品化を願いたい。SEDでは55型クラスのスーパーハイクオリティモニターが実現可能だ。

■アナログ停波の2011年を目標に新旧ディスプレーが激突

CEATECジャパン2006で発表された55型フルハイビジョンSED

 こうなると次世代のディスプレーだけで、ほとんどすべてのディスプレーニーズがまかなえる。2型から10型までのモバイル有機ELテレビ、11型から26型までのパーソナルルームでのインドア有機ELテレビ、FEDテレビ、さらに、30型台のリビングルームのメーンとなるFEDテレビ、40から60型であればSED、それから上は、とりあえずはプラズマと液晶にがんばってもらう。そういう棲み分けがおきると、日本のディスプレー産業も面白くなろう。

 今回は次々世代ディスプレーの話ということで、液晶やプラズマの今様には触れていないが、ディスプレーはサバイバル意欲が高い分野だ。それは植物みたいなもので、どんなときにも、どんなところでも自分の領域を広げ、拡大する強烈な種の保存本能のようなものが働く。新しいライバルが出現すると、他のディスプレーデバイスも生存本能を発揮し、改良がより進む。液晶は斜めから見ると薄くなったり、動画がぶれたりしているが、その問題を解決し、エクスキューズをせずに済むよう、各社が必死に努力している。液晶に対してアドバンテージを持つFEDやSEDが出てきたら、それらがアピールするメリットを取り入れることでサバイブする方向が見える。

 ということで今年から来年までは液晶やプラズマが成長するであろうが、今年、有機ELが登場し、来年以降、FEDが実用化されれば局面は変わる。2011年のアナログ停波をひとつの目標として旧型ディスプレーと新型ディスプレーが大きな戦いを繰り広げるのであろう。

 ディスプレーの進化は永遠である。テレビの寿命は6〜8年であり、今、液晶テレビを買う人は2012年以降には買い換える。そのときには、ポスト液晶を狙うのがエキサイティングだ。

[2007年5月9日]

-筆者紹介-

麻倉 怜士(あさくら れいじ)

日本画質学会副会長
デジタル・メディア評論家

略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社を経て、プレジデント社入社。 雑誌『プレジデント』副編集長、雑誌『ノートブックパソコン研究』編集長を経て、1991年に、オーディオ・ビジュアル/デジタル・メディア評論家として独立。
 日本画質学会副会長。自宅に150インチのシアターを設置しハード、ソフトの研究を行っている。デジタルAV機器、ネットワークの動向に詳しい。
 最新著作『オーディオの作法』(ソフトバンク新書)は「音楽を楽しむために良い音とつき合う方法」を64の作法にまとめたオーディオ実践書。音楽が好きで、オーディオに興味を持ちたい人に向け、分かりやすく解説している。
 著書は他に『絶対ハイビジョン主義 これからが楽しいテレビ生活』(アスキー・メディアワークス)、『やっぱり楽しいオーディオ生活』(アスキー新書)、『松下電器のBlu-rayDisc大戦略』(日経BP社)、『イロハソニー ブラビアイロノヒミツ』(日経BP企画)などがある。

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