更新:1月11日 11:15デジタル家電&エンタメ:最新ニュース
ゲーム開発を効率化する「コンテンツパイプライン」・GDC08を読む
2月18日から22日に米サンフランシスコで開催される世界最大のゲーム開発者向けコンファレンス「ゲーム開発者会議(GDC)08」の概要が明らかになりつつある。発表になっている400あまりの講演のタイトルから伺える今年の論点は、「新ハードに向けたコンテンツパイプラインの設計の方法論」と、「AIとデータの自動生成の新しい技術の応用」、「ユーザー・クリエイト・コンテンツ・サービスを含んだ新しいサービス」といったところに集約化できそうだ。今回はそのなかでも、日本の製造業的な考え方が欧米で定着し、独自発展していった結果ともいえるコンテンツパイプラインについて紹介しよう。 GDC08では、「プレイステーション3(PS3)」向けの「アンチャーテッド エル・ドラドの秘宝」や、新ハード向けの本格的な「スターウォーズ」のタイトルである「STAR WARS: THE FORCE UNLEASHED」(ルーカスアーツ)などを題材に議論される予定だ。 ■日本の製造業の考え方をゲーム産業にも応用 直近の年末商戦で、特に欧米でリリースされ大ヒットしたタイトルには共通の特徴がある。どのタイトルも、PS3版と「Xbox360」版の両方の発売日が同じか、それほど大きな日程のずれがないように設定され、北米版と欧州版が同時発売になっているケースが多い点だ。 ゲームソフト開発会社にとっては、新ハード向けタイトルの開発費が高騰し、開発チームが100人を超えるのが当たり前となっている状態で、一番の収益を上げられる年末商戦のタイミングで適切にリリースすることができるかということが重要だ。しかも、世界同時展開を行って、収益の可能性を最大化しなければならない。 そのためには、開発プロセスを透明化して、不確実要素を減少させ、できるだけリスクを小さくするということが必要になっている。しかも、単にスケジュール通りにリリースするだけではなく、ゲームとしてのクオリティーも確保しなければならない。そのために、数年前から北米の開発現場を中心に定着してきた考え方が「コンテンツパイプライン」の発想なのである。 これは、元々は日本型の効率的生産を行う製造業モデルの「ジャスト・イン・タイム」方式の考えが90年代にIT産業でも利用されるようになり、さらに2000年代に入ってゲーム産業にも考え方が定着し、方法論が独自に発展してきたものである。 この方法論では、製品の個々の製造工程で、次の工程に必要な材料の量の変化に着目する。そしてそれぞれの工程での材料の量が、注文と納期に的確に対応できるように開発工程の「全体最適化」をする。 ただ、すでに日本の製造業の方法論から出ているという考えは失われており、逆にそれだけ十分に欧米で定着し、独自のものとして発展を続けている。 ■データの付加価値を切り離し、移動だけに着目する
ゲーム開発は製造業の作業工程と違い、人間とコンピューターとソフトウエアを使って、それぞれの工程の作業を行うので、目に見えるような形で生産されていくわけではない。しかし、それぞれの開発工程で、どのソフトウエアを使って何のデータファイルを生産しているのかを明確化することで、全体の流れを明らかにする。 目標となる発売日にあわせて、ジャスト・イン・タイムで開発を完了することが目的であるため、作成しているものは抽象的なデータであっても、発想の基本として製造業的な考え方を十分に応用できるのである。個々のプログラマー、グラフィッカーなどが生産したデータが最終的にどのデータファイルにまとめられるかを明確化すると、あるデータが次の開発工程にどんな影響を与えるのかを定量化できる。 これがコンテンツパイプラインである。「パイプライン」という言い方は、パイプラインを流れるように、それぞれのデータを決められたルートに適切に流していくというイメージから出ている。 コンテンツパイプラインを決めるということは、それぞれの担当者の作業内容や責任の内容の「ワークフロー(作業手順)」も決めることを意味する。ただ、データの移動(パイプライン)と人の作業や権限(ワークフロー)を別に考える。そして、個々のデータの生産時間が明確になると、そのデータを待つ次の工程の人が特定されるため、ただの待ち時間になっている人を減らすことができる。そのために、開発工程でかかる無駄な時間を減らし、全体的な効率化を図れる。 また、純粋なデータの生産量を追うことで、開発チームの生産性を測ることができる。コンテンツパイプラインで決められた時期に、客観的に決められたデータが出揃っているのかを見ることで、予定されていた生産性をチームが果たしているのかが明確になるからだ。 もちろん、ゲームである以上、データの流れをきちんと管理するだけでクオリティーを保証できるわけではない。クオリティーを引き上げる工程は、コンテンツパイプラインの外側で別に管理するのが一般的だ。 よく取られる方法は、チームの外部にゲームのクオリティー評価をする専門チームを置き、そのチームが修正の提案を行う。データの生産の時間を管理しておくことで、クオリティーの引き上げに使える時間も、逆算してあらかじめ決めておくことができる。 欧米のゲーム会社では特に最近、プロトタイプ版から本格的な開発に移行する際に、このコンテンツパイプラインをしっかりと設計することを重視する。 コンテンツパイプラインの設計時には、ゲームの土台となるエンジン技術で何が表現でき、どの技術が必要であるのかを明確にしておき、プリプロダクションの段階ですべての技術課題を完了させておく。一度、大規模チームが動き出したら、プロジェクト途中で開発工程全体を修正するということは基本的に行われない。その修正はリスク要因になるからだ。 ■続編を前提とした開発
この方法論の一般化は、続編やシリーズものを作り出しやすい傾向を生む。一度確立されたパイプラインのチームを、そのまま続編プロジェクトに移行させると効率が高いからだ。ゲームの質についても、一定水準を達成できる実績を積み重ねており、この方法論の有効性を実証してきている。企業にとっては売り上げも予測しやすく、メリットが大きい。 追加する形で、新しい技術を導入することも行いやすい。パイプラインの個々の要素を見直していくことで、どこを改善していけばいいのかが明確化しやすいからだ。 パイプラインの方法論は、エレクトロニック・アーツ(EA)のスポーツタイトルである「FIFA」や「Madden」で、00年代初頭に確立された。その後アクションゲームにも応用は広がり、UBIが「スプリンターセル」シリーズや「レインボーシックス」シリーズで、毎年ほぼ決まった時期に続編をリリースするという形で成功を収めている。2年を単位として、続編を出す企業も増えている。 新規タイトルとしてヒットした、「アサシンクリード」(UBI)やRPGの「Mass Effect」(マイクロソフト・バイオウェア)も、3部作でリリースすることがすでに明らかにされており、続編化が前提になっている。 日本では、一部のチームで成功しているものの、一般化される形で定着はしてない。ただ成功しているタイトルはあり、「ウィニングイレブン」(コナミ)や「真・三國無双」シリーズ(コーエー)といったところがある。 一方で、続編が主体となるこうした傾向は、日本でPS2時代に起きた市場の成熟化を、急速に欧米市場でも引き起こし、ゲーム離れを生みだすのではないかという批判も北米で起きている。 ゲーム開発者会議(GDC)08 日本語ページ [2008年1月11日] ● 関連リンク● 記事一覧
|
|