更新:6月6日 11:46デジタル家電&エンタメ:最新ニュース
日本式開発は時代遅れなのか・ミドルウエアの導入から見えるゲーム開発の課題
全世界で200以上のタイトルに採用された実績を持つゲームエンジン「ゲームブリオ」の最新版「2.5」がこのほど発表された。日本での本格展開も目指しているが、これまでの採用実績はわずか1タイトル。このゲームエンジンがなぜ普及しないのかということを考えると、日本のゲーム産業特有の問題点が浮かび上がってくる。(新清士のゲームスクランブル) ■モジュール型開発の普及で誕生したミドルウエア企業 ゲームの開発効率を高めることは、ゲーム会社にとって切実な問題だ。ハードウエアの処理能力はどの新型ゲーム機も格段に向上しており、表現力が増している。その分、自由度が高まり、開発効率もよくなるかというとそうではない。むしろ、逆である。 現在のゲーム開発はゲーム自体を作る前段階の部分、つまり三次元を表示したり、物理計算を行ったり、アニメーションをさせたりといった、ゲーム自体のおもしろさに関係ない土台作業の要求領域がどんどん広がっている。 ゲームブリオは三次元を表示する土台部分を引き受けてくれるミドルウエアソフトだ。このエンジンが、「プレイステーション3(PS3)」や「Xbox360」「Wii」、そしてパソコンのそれぞれのハードウエア固有の面倒な要素を吸収してくれる。パソコン上で開発したゲームのプログラムを手直しなしに、どのハードでも同じように動かすことができる。 特に、癖が強いPS3に向けてマルチプラットホーム用の開発を進めようとすると、難易度の高い専門知識を持ったエース級のプログラマーがどうしても必要になる。そんな人材は世界中で不足しており、当然、どこの企業でも人数は限られている。また、ゲームの競争力にあまり寄与しない部分の開発に優秀な人材を使う意味があるのかという疑問も当然出てくる。 ハードウエアの高度化は開発技術の複雑化も同時に引き起こしており、1社が単独ですべての技術開発を行い続けることは、ますます難しくなってきているのだ。 そのため欧米企業は、特に2000年代に入りゲームの大規模化にあわせて、技術のモジュール(部品)化を進めてきた。専門技術のソフトウエアモジュールを、適宜購入して組み合わせる方式に切り替えている。こうした状況を受けてミドルウエアのベンチャー企業が次々と誕生してきた。ゲームエンジンや物理計算、人工知能(AI)、テクスチャー(質感表現)の自動生成ソフトといった分野だ。 ミドルウエア企業は、様々な企業をクライアントに持つことで情報を集め、専門性を高め製品の成熟度を増していく。多くのミドルウエア製品ではソースコードも提供されており、マネをしようと思えばできないことはない。しかし、現実には専門企業で開発したほうがコストを引き下げるメリットが大きく、モジュールを開発するという事業形態が確立した。米エマージェントゲームテクノロジーズの開発するゲームブリオもそういう中から登場してきた技術だ。 ■共同開発スタイルで進められた「オブリビオン」 ゲームブリオを採用した成功例としてよく知られるのが、06年3月に米で、日本でも07年7月に発売されて大ヒットしたRPG「The Elder Scrolls IV:オブリビオン」(テイクツー、Xbox360)だ。一人で大規模オンラインRPGを遊んでいるような気分になるぐらいの広大な空間が表現されている点が、日本でも話題を呼んだ。 暗いところから明るいところに出た瞬間にまぶしく感じるような「ハイダイナミックレンジ」という表現など、次世代らしいグラフィックスがいち早く搭載されたゲームでもある。こうしたグラフィックス部分は、ゲームブリオの開発チームとオブリビオンの開発チームが共同で取り組んだようだ。
このゲームでは他にも様々なモジュールが使われている。物理エンジンは米Havok、山に多数生えている木々を自動生成する技術は米SpeedTreeというように専門企業のミドルウエアを使い、さらにその上に様々な独自技術を盛り込んでいる。 欧米のゲームソフト企業は、既存のミドルウエアだけでは足りない機能が必要となった際に、ミドルウエアの開発元と共同開発をしてソリューションを探っていく文化がある。それにより追加された機能は、ミドルウエア製品のバージョンアップ時に反映され、他の企業にも広がっていく。 オブリビオンはXbox360版の発売1年後の07年3月にPS3版を米でリリースしているのだが、ゲームブリオのPS3対応のアップデートも同時に行われた。オブリビオンの移植作業を通じてPS3版への対応が行われたものと思われる。 こうした複数のミドルウエアを組み合わせ、また新しい技術を共同開発しながら、開発を進めることは、欧米ではそれほど珍しいケースではない。 しかし、日本の企業の場合は、使用料金を払っているのになぜミドルウエア企業の製品力を高め収益に貢献するような協力をしなければならないのかという考え方が強い。なかなか、海外のミドルウエア企業と共同開発に近い形で作業が進まないことが多い。 日本のゲーム会社はこれまでは開発から販売までのすべての機能を社内でまかなう「垂直型」を維持できていたため、かえって他社との共同開発を含めたモジュール型の開発モデルに対応しにくくなっている。 一度特定分野のミドルウエアを使い始めると、その分野の開発力が社内から永遠に失われてしまうのではという恐怖感も強いようだ。技術力に差が生まれつつある現在でも、モジュール型開発に移行するのが得なのか損なのかの判断ができていない。モジュール型に移行するにしても、それを社内で完結する形が今のトレンドだ。物理演算などの米ミドルウエア企業が成長しデファクトが決まりつつある分野では、日本のゲーム会社が内部で独自技術で作っても追いつける可能性はない。 モジュール型開発モデルが主流になると、垂直型モデルを維持しようとする企業は非常に苦しい立場に置かれる。市場のルールが変わるからだ。それぞれのモジュール技術の専門性が進行するなかで、イノベーションの速度に追いつけなくなるのだ。 ゲームブリオは韓国ですでに50タイトルに導入され、中国でも15タイトルでの採用例がある。ゲームエンジンのなかでは、1タイトルにつき保守費用込みで最大約20万ドルとかなり安いことが関係していると思われるが、ゲーム業界では後発の新興企業ならではの有利さもある。元々社内に技術がないためにしがらみがなく、購入することで一気に技術力を引き上げることが可能だ。 ■盛り上がらない開発者向け日本語フォーラム
日本のゲーム会社の場合、開発に関する技術情報の流通という面でもネックがある。多くの英語圏のミドルウエア企業は、契約している企業に対してサポートのためのフォーラムをインターネット上に用意する。個々のクライアントはそこを通じて問い合わせを行い、そこで回答ももらう。それにより情報がフォーラムの中に蓄積されていく。 問題に直面したクライアントはまず、自分と同じ問題に直面した他のユーザーがいないのかを検索する。それで発見できれば、問題解決のヒントを得たり直接的な回答を見つけられたりし、時間を短縮できる。検索して発見できなければ、新しい問題に直面した可能性がある。それらをやりとりすることで、結果的に自らの問題解決のためにかかる時間を短縮し、コストを減少させるメリットがあることを知っている。 ところが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)といったハードウエアベンダーが提供するミドルウエアも含めて、日本企業向けに日本語のフォーラムを用意してミドルウエアの利用を活性化しようとする努力が成功した例を知らない。何らかの問題に直面した場合には、サポートの担当者に直接問い合わせる。完成されたパッケージと、1社単位でのきめ細やかなサポートへの期待が強い。 日本企業は企業情報を少しでも外に出すことを嫌う慣習的な壁がある。対面でのビジネスを基本として、ネット上で情報を共有しあうことに抵抗感を感じる日本の文化自体が背景にあるとも考えられる。 ゲームブリオが海外と同じように今の日本で成功できるかどうかはわからないが、日本特有のゲーム開発の企業文化が、結局は最大の壁になると思われる。技術的に優れているかどうかや価格の安さがポイントなのではなく、日本語での丁寧なサポートが評価を決めると思われるからだ。だからこそ、海外から新しいミドルウエア技術がなかなか入ってこない悪循環になっている。 [2008年6月6日] ● 関連リンク● 記事一覧
|
|