更新:7月3日 13:14デジタル家電&エンタメ:最新ニュース
有料ゲーム危機の時代 iPhoneアプリは「ゼロ化」の法則に立ち向かえるか
米Wired誌編集長のクリス・アンダーソン氏が近著「Free: The Future of a Radical Price(フリー:極端な価格の未来)」について語った6月15日の講演が話題を呼んでいる。アンダーソン氏はWeb2.0の重要なキーワードである「ロングテール」を提唱したことで知られるが、今回のキーワードは「ゼロ」である。(新清士のゲームスクランブル) ■デジタル化できるモノはすべて無料になる アンダーソン氏の講演内容を要約すると、(1)競争が激しい市場では価格は限界ぎりぎりまで落ちていく、(2)インターネットの世界では流通にかかるコストを限りなく「ゼロ」にできる、(3)そのため、価格の限界点は「ゼロ」になる――ということになる。 これにより、「デジタル化できるすべてのものは、無料の競合商品に直面することになるだろう。競争のなかでは、競合相手が行う前に無料にしなければならなくなる」とショッキングな未来像を述べている。 前回の本コラム「PSPに迫る勢い iPhoneが変えるゲーム市場のルール」では、「iPhone」の「App Store」でアプリやコンテンツの価格を高く維持し収益を上げることが、いかに難しいかを解説した。しかし、アンダーソン氏の考えに立てば、見方はまったく逆になる。App Storeのアプリはデジタルな商品にもかかわらず、「ゼロ」にまで落ちることなく平均価格1.39ドルを維持できているのだ。 インターネット上には無料で公開されているゲームがすでに膨大にある。それが実際にどのくらいあり、現在のコンシューマー向けゲームの売り上げにどの程度影響しているのかを示すデータはいまのところない。しかし、影響を与えていることは間違いない。
例えば、ユーザーが自由に投稿できるパソコン向けFlashゲームサイト「Kongregate」は2006年6月にスタートし、登録ゲームが1万3840本に達している。調査会社Competeによると、Kongregateの現在のユーザー数は76万人で、昨年5月時点の32万人から1年で倍増している。無料ゲームで遊んでいるユーザーがそれだけいるということだ。 こうしたサイトは広告モデルで運用されており、個々のゲームの開発者には基本的に収入は分配されない。人気が出てコンシューマー機やパソコン向けタイトルに移植されれば、開発者も収益を得られるだろうがその可能性は低い。それでも多数のゲームが無料でインターネット上に公開されるのは、もちろん、お金が目的の人ばかりではないからだ。 インターネット上に無料公開されるゲームは、今後さらに増えていくだろう。有料のゲームで利益を得る従来の市場はそれに伴って狭くなっていくと考えざるを得ない。 ■App Storeがゼロ化に対抗できる理由 では、なぜApp Storeがゼロ化を免れているかといえば、iPhoneがタッチパネル式の独自デバイスであることが大きい。通常のパソコンとはハード仕様が異なり、それが参入障壁になっていると考えることができる。 実際、App Storeで人気が出るのは「iPhone特有のハードやインターフェースを利用したゲーム」といわれる。他のハードとの差異化が、ゼロ化の流れに対抗する要素になっている。 これは、任天堂の「ニンテンドーDS」にもいえることで、DS独自の2画面やタッチデバイスといったハード仕様に合わせて開発したゲームは、他のハードに展開するのが難しい。ゲーム会社にとっては扱いにくい困ったハードだが、インターネット上の無料ゲームへの対抗手段にもなっている。 今後、携帯型ゲーム機(携帯電話も含む)には、様々な独自デバイスが搭載されていくことになるだろう。そうしたデバイス間であえて互換性を持たせない戦略を採るケースも増加すると予想される。そうしなければ、インターネットからのゼロ化の津波に飲み込まれてしまうからだ。パソコン上で無料で体験できるようなアプリにお金を払ってもらうのは難しい。 App Storeは、ゼロ化の圧力に対抗するためのさらなる手段を導入した。6月に公開した「iPhone」の最新版OSで使えるようになった「In-App Purchase」(アプリ内課金)である。これはApp Storeで販売したアプリをメジャーアップデートした際に追加課金したり、アイテム課金をしたりするための仕組みだ。App Storeで決済するので、少額課金がしやすい。 ■アンダーソン氏が提唱する5つのルール アンダーソン氏は、ゼロ化への対抗策として5つのルールを提案している。 1.最善のモデルは有料コンテンツと無料コンテンツをミックスすること この5つの条件を満たし示唆に富むケースとして、韓国ネクソンの大規模ロールプレイングゲーム「メイプルストーリー」のアイテム課金モデルを紹介している。 メイプルストーリーは、05年時点で北米で350万人もの登録ユーザーを集めている。ユーザーのプレー料金は基本的には無料で、ゲーム内の様々なアイテムを有料で提供している。プリペイドカードをコンビニで販売して決済を簡単にしたことで、10代に人気が出た。北米でゲーム内のアイテム課金を本格的に成功させた初のケースといわれている。 アンダーソン氏はユーザー行動の観察から、ユーザーは「心理的に自由(フリー)」になるために、次のようなことにお金を払うと述べている。 1.時間を節約するために、お金を払う これらから得られる教訓は比較的はっきりしている。仮に小さなゲームアプリであれ、ユーザーのニッチな要望を満たすような要素を組み合わせて入れ込んでおくべき、ということである。 また、プラットフォーム化を目指せる余地を戦略的に持たせるべきでもある。何をもってプラットフォームというかは定義が難しいが、今までのようにハードウエアベンダーだけがプラットフォームホルダーなのではない。ソフト単体でも十分にプラットフォームになる。 多様な動機を持ったユーザーが、特定のアプリを通じてコミュニケーションし、コミュニティーを形成していく仕掛けはすべてプラットフォームといえる。上記の3〜5は、まさに他のユーザーを意識することで行われる行動である。 プラットフォームになる条件は明白だ。人数を集め、多くの人が継続的に使い続けてくれるかどうかにかかっている。ゲーム的なおもしろさは、自分と他人との相対的な比較によって生まれることが多く、それが人を熱中させる。そのためには参加してくれる人が多ければ多いほどいい。 韓国のアイテム課金ゲームの場合でも、実際にお金を支払うユーザーは全体の10%以下で、5%程度まで下がる場合もある。しかし、5%が払うそのニッチ性こそが、ゼロ化の流れが及ばない領域であると考えることができる。 ■プラットフォーム化を狙うiPhoneアプリの登場 そうした戦略を取ろうとしているベンチャーがすでに現れている。 例えば、米スタンフォード大学のゲエ・ワン博士が設立した米SonicMuleだ。昨年、iPhoneアプリの「Ocarina」が日本でも話題になった。オカリナの音をネット上にアップロードしたり、世界のどこかで吹かれた演奏データを世界地図上に表示したりできる音楽アプリだ。
これをよりソーシャルにしてiPhoneの最新版OS向けに開発したのが、「Leaf Trombone: World Stage」だ。トロンボーンを題材にした音楽ゲームだが、ソーシャルネットワークの仕組みを強く意識している。世界のどこかの誰かと一緒にセッションしたり、人の演奏を評価したりするシステムが組み込まれている。 現在、Leaf Trombone: World Stageは115円で販売されている。今後、同社の他のアプリと連動させることで、ソーシャルメディアとしての性質を高め、全体で収益を上げていく計画と考えられる。 iPhone向けゲームのアイテム課金で成功したケースはまだないが、プラットフォーム化を狙うゲームはすぐに出てくるだろう。パソコンのオンラインゲームで成功したアイテム課金モデルには参考にできる点がたくさんある。そこに、iPhoneならではの「何か」をどう組み合わせるかで、ゼロ化に立ち向かうのである。 ・Wired誌主催カンファレンス クリス・アンダーソン氏の講演のストリーミング ・Kongregate ・「メイプルストーリー」(日本) ・Leaf Trombone World Stage [2009年7月3日] ● 関連リンク● 記事一覧
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