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更新:2月2日 11:37デジタル家電&エンタメ:最新ニュース

「PS3」のパワーを堪能できる人、できない人【コラム】

 今更ながらだが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の新型ゲーム機「プレイステーション3(PS3)」のパワーがはじめて理解できた。PS3の生みの親、久多良木健会長兼CEOが目指した理想像がやっとわかった気がする。なぜ今まで分からなかったかといえば、PS3が「使う人」を選ぶからなのである。(新清士のゲームスクランブル)

 それは、PS3購入にあわせて薄型テレビに買い換えたという知人Nさんが住む東京・練馬のマンションを訪ねた時の体験だ。リビングには約40万円のフルハイビジョン対応50インチ液晶テレビが置かれ、15万円はする5.1チャンネルのホームシアタースピーカーセットが取り囲む。

 試しにPS3用のレースゲーム「リッジレーサー7」をプレイしてみると、私が自宅で遊んでいたゲームとは別のソフトではないのか、と思うほど違うのだ(ちなみに筆者の自宅のは26インチ液晶テレビでフルハイビジョンには非対応)。

東京ゲームショウ2006で公開された「リッジレーサー7」

 とにかく画面への没入感が違う。ゲーム画面に自分が飲み込まれるようだ。他にも、様々なゲームでも試してみたが、その違いは明白だった。画面サイズの広がりに音の環境が整うと、ゲームの体験の質まで変えてしまう。そして、これが一個人のリビングに存在していることが、さらなる驚きだった。これは明らかにゲームセンターの業務用マシンを超えるレベルの環境を実現している。

 ブルーレイ・ディスクのすごさも、DVD版とブルーレイ・ディスク版の「イノセンス」を比べながら見て、初めて納得できた。明らかに別物である。画面の情報量がまるで違う。DVD版で圧縮されて潰れていた部分がクリアになり、こちらは映画館と同じレベルと言っていい。

 開発や量産の遅れ、高価格に対する批判がありながらも久多良木氏がPS3で実現することを目指していた一つの理想郷は、これだったのかと合点した。確かに一度体験してしまうと、後には戻れないと感じる。しかし、この良さはなかなか伝わりにくい性質のものではないかとも同時に感じた。

 これまで私自身、店頭のデモンストレーションを何度も見てきたが、ブルーレイ・ディスクの良さもゲーム自体のすごみもピンと来たことがなかった。Nさん宅を訪ねた後、店頭で同じような体験を味わえるところはないかと何軒も回ってみたが、やはりだめだった。

 画面サイズが大きくなければそのすごみは伝わりにくく、オーディオ環境が整っていないとやはり伝わらない。家電ショップのデモスペースにあるモニターはそれほど大きくなく、大画面テレビを用意した店でも、音声は他のAV製品や周囲の騒音で消し飛んでしまう。

 Nさん宅での体験で、オーディオ環境がPS3の性能を楽しむためにいかに重要であるか痛感したのだが、たとえ40−50インチクラスの大画面テレビを購入しても、同時に本格的なホームシアター環境まで揃えている人は少ないだろう。5.1チャンネルのサラウンドシステムを買おうと思えば最低でも3万−6万円はかかり、10万円台が当たり前という世界。率直にいってかなり高く、リーズナブルな価格帯の商品は存在しない。

 そういう視点でみると、久多良木氏がPS3は安いと言っていた根拠もわからなくはないと思った。モニターやオーディオ環境に数十万円払うと考えれば、PS3は相対的にかなり安い買い物になる。

 今までのゲーム機はAV端子という単純なフォーマットで共通しており、その点では同じ土俵で比較することができた。しかし、新世代のコンシューマー機は、急速に普及する高精細な薄型テレビをにらんで、新しいフォーマットが競争の一つのポイントになっている。裏返せば、ユーザーのテレビ、スピーカーの環境によって、ゲームから得られる経験の内容にかなり差がついてしまうともいえる。

 PS3をAV端子でテレビに出力して遊んでいる人、フルハイビジョンに対応したHDMIケーブルで出力している人、さらにホームシアター環境まで整っている人との間には、体験できる質にかなりの「格差」があると想像できる。

 薄型テレビが売れているといっても、世の中の大多数はまだブラウン管テレビだろう。だから、最大公約数的なAV端子での出力を基本に置いている「Wii」の方がわかりやすく、多くのユーザーにアピールしている理由もよくわかる。

 話を戻すと、PS3のパワーを十分に堪能しようと思ったら、本体だけでなくモニターや音環境の充実も覚悟しなくてはならない。つまり、相当な出費が必要になる。「プレイステーション2(PS2)」の時代は、DVDを楽しむのに余計な出費はかからず、AV端子で十分だった。PS3は違うのだ。

 これは、ブロードバンド環境がまだ普及途上だった時代にアピールに苦しんだ過去のハードのアナロジーでもある。90年代中頃から、オンラインゲームの時代が来ると言われ続けながら、いつまで経っても本格的な時代はやってこなかった。

「ドリームキャスト」もネット対応していたが……

 ネットを売りにしたハードは、旧バンダイの「ピピン@アットマーク」(96年)から、旧セガの「ドリームキャスト」(98年)、PS2(2000年)と続いたが、普及しなかった。日本で一般家庭にADSL回線が爆発的に普及し始めた2002年を待つしかなく、結局その時代の環境にマッチしたPCゲームがオンラインゲームを牽引する格好になった。

 ソニーはフルハイビジョンを強調してマーケティングを展開しているが、一般家庭への普及にはタイムラグが起きる。いずれは薄型テレビの価格帯ももっとリーズナブルになり、現在のブラウン管テレビと完全に置き換わるかもしれない。また、消費者がオーディオ環境の重要性を認識するようになり、リーズナブルな価格帯のホームシアターセットが提供されるようになれば、爆発的な普及期がくるかもしれない。

 しかし、問題はその時が「いつ」なのかということだ。3年後なのか、5年後なのか。もしかしたら、次のハードの更新時に初めて環境が整うぐらいの時間が必要かもしれない。

 結局、PS3はその魅力を理解してもらうために、様々な説明が必要な難しいハードなのだと感じている。それが厳しいローンチの結果に反映されているように思う。

[2007年2月2日]

-筆者紹介-

新 清士(しん きよし)

ゲームジャーナリスト。立命館大学映像学部講師

略歴

 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心にリサーチするジャーナリストに。ゲーム開発者を対象とした国際NPO、国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表。コンピュータエンタテインメント協会(CESA)理事。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米「ゲームディベロッパーズマガジン」(09年11月号)で「重要な成果を上げたゲーム開発者50人」に選出される。著書に『「侍」はこうして作られた』(新紀元社)
<関連リンク>

国際ゲーム開発者協会日本
E-mail:sakugetu@gmail.com

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