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更新:5月1日 11:26デジタル家電&エンタメ:最新ニュース

ソーシャルメディアに接近する携帯ゲーム機

 早ければ年内にも発売が見込まれる「プレイステーション・ポータブル(PSP)2」をはじめとする新型ゲーム機は、従来の「パッケージ型」から外部に開かれた「オープン型」へと変化を余儀なくされている。その圧力をもたらしているのは「ソーシャルメディア」の急成長だ。(新清士のゲームスクランブル)

 前回のコラム「発表カウントダウン『PSP2』 勝利のカギはオープン度」では、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の携帯型ゲーム機「PSP」の後継となる「PSP2」の発表の見通しや注目ポイントについて解説した。

 そのPSP2に限らず、今後数年間に登場する携帯ゲーム機やソフトウエアの新機能は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に代表されるソーシャルメディアの機能を、現状のビジネスモデルを壊すことなくいかに取り込むかが成功の鍵になるだろう。その理由は、圧倒的な利用者人数の差にある。ゲーム機とソーシャルメディアは、利用者数でみればケタが違っている。

■ゲーム機を凌駕するソーシャルメディアの数々

 PSPは全世界で4000万台を超え、「ニンテンドーDS」は1億台を超えたと見られている。ところが、ソーシャルメディアは、SNSの米Facebookで3億アカウント、日本のミクシィで1600万アカウント。写真共有サイトの米Flickerは月間で4000万ユニークユーザーがアクセスし、20億枚以上の写真が登録されている。日本の「pixiv(ピクシブ)」は80万人だ。

 動画サイトの「YouTube(ユーチューブ)」は、1日の動画再生回数が数億回に達し、数十万の新しい動画が毎日アップロードされている。とにかくケタが大きい。しかも、これらのサービスは、すべてこの5年以内に登場し、急成長したものだ。

 ソーシャルメディアは、ユーザーのパソコン上に情報をためておくのではなく、サービス提供企業のサーバー内にアップロードし、他のユーザーにも簡単に公開できる。大半のサービスは無料で、それが成長の土台となった。さらに、基本的なデータフォーマットをつくってしまえば、他のサービスとの相互乗り入れが簡単に実現する。これによりサービスの幅を大きく広げている。

 機能の充実に伴い、人と人とをつなぐソーシャルメディアはそのつながりを利用した新しい遊びを生み出している。ソーシャルメディア自体がエンターテインメント性を持つようになったのである。

「mixi」の開発者向けウェブページ

 Facebookは、一般のユーザーや企業がアプリケーションを自由に開発できる技術情報を公開し、アプリケーションプラットホームとしても成長した。ミクシィは23日の「mixiアプリ カンファレンス 2009」で、同じような仕組みの「mixiアプリ」とゲームの展開を発表したが、それは必然的な流れだったといえる。データサイズがあまり大きくないゲームであれば、サーバー側にデータを置いて、必要に応じてダウンロードする形を取っても十分に成立するからだ。

 敷居の低さと、大半が無料でありながらエンターテインメント性が高い点が、爆発的な普及を引き起こしているソーシャルメディア。その圧倒的な数の前には、大ヒットしても数百万本といった単位にしか到達しないゲームはどうしてもかすんで見えてしまう。ソーシャルメディアがゲーム市場への浸食を本格的に始めようとしているのだ。

■「可処分時間の時代」のエンターテインメント

 ゲーム機がソーシャルメディアの機能を取り込まざるを得ないのは、エンターテインメントが「可処分所得の時代」から「可処分時間の時代」へと変わってきたからでもある。

 1990年代までのブロードバンド普及以前の時代は、自分が望むエンターテインメントを楽しむために必要なコストをどう捻出するかという可処分所得の配分が問題だった。しかし、今は子供でさえ忙しい可処分時間の時代に変わっている。インターネット環境であればいつでもすぐに利用できるソーシャルメディアは隙間時間を消費できるメディアであり、既存のゲームなどのエンターテインメントメディアの相対的価値を劇的に引き下げた。その供給力は圧倒的であり、エンターテインメントの価格下落圧力をいまも強めている。

 「iPhone」の先進性は、前回のコラムでも書いたとおり、これらのソーシャルメディアを取り込むことに積極的であった点だ。携帯サービスとして使いやすいものを取り込む一方、有料でソフトを販売するゲーム機の側面も持つ。サービスとして区分されていたパソコンと携帯電話、ゲーム機の境界線を曖昧にしたデバイスといえる。

 日本と同じ現象が欧米でも起きると仮定すれば、携帯電話向けのSNSは今後数年で急激に定着し、その影響は既存のゲーム機向けパッケージソフトの売り上げにも影響を与えるだろう。

■SNSと連携するオンラインゲーム

 ゲーム会社のなかには、ソーシャルメディアの機能をいち早く取り込みはじめたところもある。特にオンラインゲーム分野でその傾向は顕著だ。

 昨年の「東京ゲームショウ」で、大規模オンライン・ロールプレイング・ゲーム「ロード・オブ・ザ・リングス・オンライン アングマールの影」の開発会社、米turbineのCEO兼社長であるジム・クローリー氏は、「SNSのテクノロジーへの投資が、そのゲームの将来の強さを決めていく」を指摘していた。

 このゲームは、公式ページにそれぞれのユーザーのための独自のSNSをもっている(北米のみ)。しかし、それで完結させるのではなく、Facebookにも公式ページを設け、約1万4000人の登録ユーザーを持つコミュニティーを形成している。

Facebookの「ロード・オブ・ザ・リングス・オンライン」の公式コミュニティー

 当然、これらのSNSを利用しているユーザーは高いロイヤリティーを持ち、口コミでゲームの人気を広め、収益に貢献してくれる。つまり、オンラインゲーム単独で完結する時代は終わりつつあり、ゲームとその外部に強いコミュニティーを育て、ビジネスに連結する構造を作っているのだ。

 企業内にSNSを抱えた場合、コミュニティーが荒れるなどの管理リスクが増すという問題がある。Facebookなどのサービスの活用はそのリスクを外部化する意味合いもある。日本では、ミクシィの内部でユーザーコミュニティーと公式サイトのコミュニティーを積極的に連動させるといった動きはあまり出ていないが、今後活発化してくるのではないだろうか。

■ゲーム機で完結する時代の終わり

 ゲームがゲーム機単独で完結する時代は、そろそろ終わろうとしている。インターネット上には、すでにゲーム機があろうがなかろうが、熱心なユーザーが様々なSNSを通じてコミュニティーを形成している。それをあくまでゲーム機の外側に置くのか、それともゲーム機の中に取り込んでいくのかが問われはじめているのだ。

 「プレイステーション3(PS3)」向けの「Home」は、そうしたSNSをゲーム機のなかに組み入れようとするサービスだと考えられる。しかし、何よりもPS3上でしか使用できない点が普及の最大の弱点になっており、現状のままでは苦戦が続くだろう。

 PSP2がFacebookやミクシィに積極的に対応すると仮に発表したとしても、もはや驚くべきことではない。ゲーム機かソーシャルメディアか、どちらか1つの選択ではない。ゲームとソーシャルメディアを連動させながら、多くのユーザーに新しい遊びを生み出すデバイスとなることが求められる時代になろうとしている。

[2009年5月1日]

-筆者紹介-

新 清士(しん きよし)

ゲームジャーナリスト。立命館大学映像学部講師

略歴

 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心にリサーチするジャーナリストに。ゲーム開発者を対象とした国際NPO、国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表。コンピュータエンタテインメント協会(CESA)理事。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米「ゲームディベロッパーズマガジン」(09年11月号)で「重要な成果を上げたゲーム開発者50人」に選出される。著書に『「侍」はこうして作られた』(新紀元社)
<関連リンク>

国際ゲーム開発者協会日本
E-mail:sakugetu@gmail.com

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