更新:10月23日 10:30デジタル家電&エンタメ:最新ニュース
視聴率ほしい民放テレビ局がNHKに負けるジレンマ
今年度上半期のゴールデンタイムのテレビ視聴率はNHKが民放を押さえてトップに躍り出たそうだ。NHKと言えば民放からは「視聴率を気にしなくていいから」と揶揄(やゆ)され続けてきたわけだが、そのNHKが1位になるとはいったい何が起こっているのだろうか。(江口靖二のテレビの未来) 民放テレビ局にとって、視聴率は売り上げに直結するものであり、広告取引における基準値、通貨単位と言ってもよいものだ。広告放送を行っていないNHKは視聴率が業績に直結するわけではないが、そのNHKの視聴率が好調な数字を出し続けている。 今年はオリンピックがあり、また大河ドラマが好調であるというのは事実だろう。高齢化によって堅実で保守的なNHKの番組が受け入れられやすくなったという点もあるだろうが、一方、若年層には「上海タイフーン」のようなドラマも好評のようだ。 ■視聴率の低下と悪循環 テレビ全般の傾向として、HUT(Households Using Television)と呼ばれる総世帯視聴率は年々減少傾向にある。HUTは緩やかに低下しているのだが、これは視聴形態の変化に調査方法が追いついていないという裏事情もある。 HDDレコーダーによるタイムシフトやワンセグが加算されていないだけでなく、いわゆるテレビパソコンも調査対象にはなっていない。テレビ局にとって不利な状況になっている問題は、実は無視し難い。 テレビ局側にも認識はあるのに踏み込めないのは、パソコンでの視聴を「認める」とタイムシフトやインターネットとの「ながら視聴」を助長するという議論があるからだ。YouTubeに対するアレルギー的な嫌悪感も根底にあるようだ。 視聴率が上がらなければなんとかこれを上げようとするため、他局の高視聴率番組のマネをするという批判も多い。どこかで見たことがある、同じタレントばかりが出てくる等々、制作費の低下とともに悪循環に陥っている。 一方のNHKは受信料が主たる収益源であり、視聴率に左右されにくい番組を作ってきたのは事実だ。しかし、CMの売り上げにこそ直結してはいないが、NHKも視聴率を強く意識した番組作りをしている。視聴率が高いということは、それだけ多くの人に支持されている証拠という単純な理屈によるものだ。 今回のNHKの好調に対しても「NHK民放化反対」という警戒感ばかりが聞こえてくるのが、相変わらずの体質を象徴している。 ■中学生の羨望のまなざしは… 1998年頃だと記憶しているが、テレビの世界に身を置く私にとっては個人的に衝撃的な出来事があった。当時、私はCS放送のある番組を毎週銀座のソニービルのスタジオで収録していた。 ソニービルといえばご存じの通り、ソニーのショールームになっているわけだが、当時はビル内にスタジオがあって番組録画ができるようになっていた。スタジオはもちろん、サブと呼ばれる副調整室もガラス張りで、来訪者は放送機材に囲まれながら我々の収録風景を見ることができた。 ある日の収録時に修学旅行の中学生のグループがやって来た。サブの中にいる我々は、彼らが私たちに向けるであろう視線を感じ取ろうとするのであるが、これがそうではなかったのだ。彼らは我々には見向きもせず、関心はちょうど発売されたばかりのカメラがついた小型のノートPCに向かっていた。彼らはインターネットに接続されたノートPCを羨望のまなざしで見つめていたのである。 このことにどうしても合点がいかなかった私は、サブを抜け出て彼らに話しかけてみた。「ほら、そこでテレビの収録をしてるんだよ」。すると彼らは「ふーん」と一言だけ発して、すぐにまたPCに集中したのである。あれから10年、彼らも20代中ばになっているはずだ。 ■民放こそ視聴率に縛られない番組づくりを 番組の質の低下、インターネットの台頭、ゲーム機や携帯電話などがテレビの不調の理由として挙げられている。もちろんそれらも少なからざる原因であるに違いない。 しかし、先ほどの中学生たちはそんな理屈抜きに、テレビを格好いいものとして受け止めていないのである。メディアの王者として君臨してきたテレビは急速に格好いいものから転落している。あこがれの業界人しかりだ。 よく考えれば我々の世代でも、少年ドラマシリーズや人形劇などNHKの子供番組には夢中になったものだ。40年近くも前の話であるが、それらは視聴率を無視していたからできたもので、万人受けした番組では決してない。 どうもテレビ関係者と話していると視聴率不振の原因をネットやゲーム、不況などの外圧に押しつけるばかりで、世の中の状況を見誤っている気がしてならない。NHKがトップに立った今こそ、民放テレビ局がこれまでの視聴率を無視して番組作りやビジネスモデルを再考するときなのかもしれない。 ※このコラムへの読者の皆様のご意見を募集してます。こちらをクリックすると、今回のコラムに関するコメントを受け取るための専用ページが開きます。(NIKKEINET外部にある江口氏個人のブログサイトにリンクしています) [2008年10月23日] ● 関連記事● 関連リンク● 記事一覧
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