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更新:2007年3月16日 13:10デジタル家電&エンタメ:連載・コラム

新清士のゲームスクランブル

PS3の「Home」とセカンドライフはなぜ違うか・GDC07報告

 世界最大のゲーム開発者向けイベント「ゲーム開発者会議(GDC)07」が3月5日から9日まで米サンフランシスコで開催された。もともと20年前に小さなコミュニティーから出発したGDCは、北米を中心とした開発者の生の声が聞けるという意味で重要な場だ。5月のゲーム国際見本市「E3」が縮小する影響もあり、規模も急速に拡大している。今回から数回に渡ってGDC07の内容を報告しながら、世界のゲーム産業がどこへ向かおうとしているのかを読みとっていく。

■パッケージからサービスへ

 GDCの事務局による公式発表はまだだが、参加者数は昨年の1万2500人から数千人単位で伸びたのは間違いない。行われた講演数は400を超え、講演者数は昨年の約2倍となった。

 一方で、大規模化しすぎたカンファレンスイベントとしての問題点も顕著になり、いろいろな意味で節目となった。GDCは大きな変化を迎え、良くも悪くもその性質を変えている。ただし、世界的なゲームのトレンドがどこに向かうのかを読みとる場所としての重要性は相変わらずだ。

 今年のGDCを通して決定的な流れとして見えてきたのが、ゲーム産業全体の「サービス業」への転換である。「Xbox360」「Wii」「プレイステーション3(PS3)」とインターネット接続することを前提にしたコンシューマー機が出揃い、その戦略がはっきりしてきた。

 すでに、パソコン向けのオンラインゲームでは、ソフトパッケージの販売からサービス提供によるビジネスへの流れは顕著になっていた。それがすべてのゲームにとってのビジネスモデルになり始めているところが今までと違う。

 それぞれのプラットフォームは似ているようでありながらも、違った独特のサービス展開を開始しつつある。それがパッケージ販売モデルの成熟がもたらした閉塞感を吹き飛ばし、一気に多様な広がりを見せつつある。

 CDやDVD、カセットのパッケージ販売ではなくサービスになった瞬間に、様々なコンテンツをどう構成し提供するかという選択肢は飛躍的に増加する。だが、いまはどのモデルがデファクトスタンダードになるのかまったく読めない。

 しかも今年のGDCの講演では、まだ開発されていない別のモデルがいくつも存在する可能性が次々と提示された。どれがユーザーに最終的に受け入れられ、中心になっていくのか読みとることは現状では不可能に近い。

■PS3の3次元コミュニティー「Home」

GDCで講演するハリソン氏

 そうした様々な可能性の一つとして注目を集めたのが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のフィル・ハリソン氏(SCEワールドワイドスタジオ プレジデント)の基調講演で紹介された「Home」である。PS3は、Xbox360やWiiと比べて、ユーザー間のコミュニティー形成を促すための仕組みが決定的に不足していた。それを解決する案の提示が、他のプラットフォームを追撃をするためには必須だった。

 それがようやく具体的な発表までこぎ着けたと言える。しかも、他のプラットフォームと決定的に違うのが、3次元のアバター(仮想世界での化身)を使って、自分の世界を構築できることだ。

 アバターは他のユーザーとのコミュニケーションのインターフェースになる。ユーザーは、仮想空間の自分の家に家具など好みのものを飾り、その仮想世界を通じてゲーム環境に日常的にアクセスする。

 実際の内容やシステムは、他のハードとそれほど大きく違うわけではない。しかし、このインターフェース部分の相違によってサービス提供の仕方も変わり、結果的にユーザーが得られる体験もまったく違ってくる。ここ数年は会場から比較的冷ややかな反応が多かったSCEのGDC基調講演だが、PS3らしい何かの方向性を初めて提示できたという点で、聴衆からも北米メディアからも極めて高い評価を獲得することに成功した。

 ただ、現状のグラフィックスのテイストは北米志向が強い。自分自身を専用カメラでテレビに映してゲームを操作できる「EyeToy」と同じように、欧米では評価を集めるが日本ではまるでヒットしないという二の舞になるリスクはある。

 日本人にも受けるグラフィック要素を盛り込んだものが9月の東京ゲームショウの頃までには提示されるであろうが、Homeの日本での成功はPS3の今後を左右する鍵にもなってくるだろう。実もふたもないが、いわゆる「萌え」キャラもありにするくらいの覚悟がないと、新しいサービスとしての日本での起爆剤となりうるかは疑問が残る。

 PS3の戦略は、よりグローバルレベルで品質を管理する必要がある。HomeについてもSCEが統合的に動けるかが成功の鍵を握るだろう。

■大御所が指摘したセカンドライフとHomeの違い

 今年のGDCの重要な論点の一つは、ポスト「セカンドライフ」だった。リアル志向の3Dアバターと3D環境を提供するHomeは、多くの人にとってPS3的なポスト「セカンドライフ」の回答として映ったのではないかと思う。しかし、インターネットとサービスのハイブリッドの関係はそれほど簡単ではない。

 それはHomeが発表された同じ7日夕方に行われたオンラインゲーム開発者のパネルディスカッションで、Homeに対してさっそく疑問が提示されたことからもわかる。それは、現在の大規模オンラインRPGの先祖にあたる「ウルティマオンライン」の開発にも関わったベテラン開発者で、今も業界に強い発言力を持つラフ・コスター氏だった。

 パネルの中でコスター氏は、「Homeはセカンドライフではない」と言い切った。その理由を3点挙げた。

 1つ目は、現時点での発表によるとHome内で使う家具などのアイテムはSCE側から提供され、そのなかから選択するしかないということ。一種のアイテム課金方式であり、ユーザー自身が自分自身でアイテムを作成する「ユーザー・クリエイト・コンテンツ」が認められていない。

 2つ目は、ユーザーが「RMT(リアル・マネー・トレード)」を通じてゲーム内で経済活動を行うことが認められていないという点。アメリカでもRMTの是非は大きな論点になっており、このコメントが出た際は、会場からもパネラーからも「果たしてそれを積極的に指摘してよいのか」といった驚きの反応があった(コスター氏は厳密なコントロール下に置いた場合には認められるべきという条件付き容認派と考えていい)。

 3つ目が、Home自体が、エンターテインメントの中心的な環境として機能する場ではないという指摘である。確かに、Homeは各種のコミュニケーションツールを備え実績ポイントなどを3D空間で表現できるものではある。ミニゲーム的な要素も環境のなかに組み込まれてはいる。しかし、それ自体が本格的なゲームコンテンツになりうるかというと、現時点で発表された限りでは難しいだろう。

 もちろん、SCEは今後そういった方向に拡張していく選択肢も検討していることは間違いないと思うが、どこに力点をおいてサービスを認めるかという点でセカンドライフとはスタンスが違っている。

 今年のもう一つの目玉だった任天堂の宮本茂氏の基調講演で、宮本氏は20年越しのアイデアをWiiのアバター作成ツールである「Mii」にまとめ上げたと述べた。しかし、MiiもHomeと同じように、セカンドライフ的サービスとは微妙に異なる。Miiの場合は、ユーザー・クリエイト・コンテンツとしての要素を確実に持っているが、任天堂が用意した幅の中でしかその可能性は選択できない。

■明らかになってきたセカンドライフの問題点

 さらに面白いのが、セカンドライフについてもその成功が論じられる一方で、はっきりした問題点もかなり指摘されていた点である。

 GDCの5日目、やはり古株のゲーム開発者でありコンサルタントとしてその発言が注目されるアーネスト・アダムズ氏が次のように指摘した。セカンドライフは、普通のオンラインゲームに比べて現実世界のアナロジーである要素を多数持っており、一般の人も理解しやすい。そのためメジャーなマスコミに大きく報道され、成功の一因となった。しかし同時に、キラーコンテンツとなったのが「性的なコンテンツ」であることも見逃してはならない――と。

 実はこの点は日本の報道でもほとんど触れられておらず、セカンドライフがかなり誤解されて伝わっている部分といえる。セカンドライフは、アメリカの性的なコンテンツを集める場として機能したために大きく成功したという一面は確実にある(なぜ、そう機能したのかはいずれ詳しく論じる)。

 つまり、一見同じように映るサービスであっても、そのビジネスモデルやサービス形態、またユーザーがそれをどのように受け入れたのかという視点で見ると、それぞれのサービスは似て非なるものであり、どの形が最終的に生き残るのかはまだ明快ではない。実際のサービス展開では、他の産業と同じく国や地域による嗜好性の違いも影響していくだろう。

 はっきりと指摘できるのは、新たなサービスが次々展開されていくことで、ゲーム産業全体のビジネスチャンスの幅が大きく広がっていこうとしているという事実だ。閉塞感が高まっていたこれまでのパッケージビジネスよりも、収益面で高いポテンシャルを持つことを誰もが気づき始めている。今後、売り上げだけを見れば産業規模が一度縮小するとしても、利益面でははっきりと改善する可能性が高い。ゲーム産業の価値観が新しい地平に向けて、大きくスライドを始めようとしている。

[2007年3月16日]

-筆者紹介-

新 清士(しん きよし)

ゲームジャーナリスト。立命館大学映像学部講師

略歴

 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心にリサーチするジャーナリストに。ゲーム開発者を対象とした国際NPO、国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表。コンピュータエンタテインメント協会(CESA)理事。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米「ゲームディベロッパーズマガジン」(09年11月号)で「重要な成果を上げたゲーム開発者50人」に選出される。著書に『「侍」はこうして作られた』(新紀元社)
<関連リンク>

国際ゲーム開発者協会日本
E-mail:sakugetu@gmail.com

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