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更新:2006年8月17日 12:25デジタル家電&エンタメ:連載・コラム

江口靖二のテレビの未来

テレビ業界を震撼させた新たな司法判断「まねきTV」仮処分却下

 日本で先日、テレビを巡る新たな判断を東京地裁が示した。「まねきTV」 というサービスに対し、NHKと民放5社が著作権法違反を理由にサービス停止の仮処分を申し立て、東京地裁はそれを却下したのである。かつてアメリカでソニーが訴えられたベータマックス訴訟という争いがあり、その判決は録画機器に関する著作権と新技術、私的複製に関する一つの指針となった。今回の東京地裁の決定は、ベータマックス訴訟同様、テレビの今後に大きな影響を与える発端となるかもしれない。

 この「まねきTV」のサービスは、利用者が自分で購入したソニー製品である「ロケーションフリー」をまねきTV側に送り、専用ソフトを組み込んだ自分のパソコンなどでインターネットを通じてテレビ番組を受信するものである。まねきTVは入会金と月額利用料で利用者のロケーションフリーを預かり、サービスを提供する。今回もなぜかベータマックス訴訟の時のようにソニーが登場する。具体的なサービスイメージとしては、海外在住の日本人が日本のテレビを見るためにこのサービスを利用しているといったケースがわかりやすい。

 ロケーションフリーについては本コラムでも昨年9月21日 に詳しく取り上げており、こういった業者の存在も紹介している。ロケーションフリーは国外に居住する日本人には非常にメジャーな存在であり、国内でも出張族などには人気が高い。

■今回の司法判断が今後業界に与える影響

 ベータマックス訴訟は、ハリウッドの映画会社が「ビデオデッキは著作権侵害に加担している」としてソニーを訴えた裁判で、ソニー側が1984年に逆転勝訴した。このときもしもソニーが負けていたら、ビデオデッキは市場から消え、ハードディスクレコーダーもiPodも登場しなかったのかも知れない。

 今回の東京地裁の判断はまだ仮処分申請の段階であり、この問題を巡る法的手続きは今後さらに続くと見られる。ただ、仮にまねきTVのようなサービスが放送局の著作隣接権(送信可能化権)を侵害しないという司法の判断が定まれば、どのような可能性や影響が考えられるだろうか。

 テレビ番組をネット経由で見るサービスに関して、以前にも「録画ネット」というサービスに対して放送局側から同様の仮処分申し立てがあり、このときは放送局側の主張が認められている。本コラムは法的解釈が趣旨ではないが、2つのケースの争点が録画代行と送信可能化権という違いがあるにせよ、結果における両者の違いの一つにはハウジングかホスティングかという点にあると思われる(注:各社のサービス形態は仮処分申し立て時点のもの)。

 つまり、機器の所有権が利用者にあれば類似したサービスが可能になるということが考えられる。今回の「まねきTV」では録画が争点になっていないので判断のしようがないが、自分が所有権を有する大容量録画機器をハウジングして、自宅で、出張先で、ケータイで自由に見られるサービスが登場する可能性はある。類似の機器としてはロケーションフリー以外にもSlingbox どこでもTV for Skype などがあり、今後も様々なサービスが現れそうな様相である。

 今回の司法の判断については、テレビ業界以外からは画期的という受け止め方をする声が多く、ハウジング機能、転送機能、録画機能をベースにしたネットワーク型のサービスが今後加速的に出現する可能性がある。かつて発表されたもののサービスインできていない「Yahoo! BB ネットワーク HD」のようなものの動きも注目される。

■メディア側はすでに議論の視点がずれている

 先日聞いた面白い話がある。新聞業界では電子新聞、宅配制度の行方などの議論が今も続けられている。ある新聞社の人がその話題を20代前半の人に向けたところ、全く話が噛み合わず議論にならなかった。それもそのはずで、彼の家はすでに自宅で新聞をとっていないのはもちろん、固定電話すらひいていないというのだ。新聞はある世代以下にとってはそれほど遠い存在になっているのである。

 テレビ業界諸氏を安心させるために付け加えれば、彼の家にはテレビはあるそうだ。ただし、パソコンにテレビがついているのであって、キーワードに従って自動録画されたもの以外は見ないという。見ているときも「mixi」あたりを使いながらの視聴だという。

 テレビは公共の財産である電波によってより多くの人に情報を伝達するために与えられた公衆の資産である。そこに情報を乗せた以上は、多くの人に情報を伝えるための道具であるVTRの存在も認めるべきである、とソニーはベータマックス訴訟時に主張をしたそうだ。

 今日では必ずしも電波を用いなくても同様の伝達は可能となってきたが、テレビ局の使命は変わらないはずだ。VTRの出現によってハリウッドは衰退したであろうか?それをビジネスに変え利益を最大化してきたはずである。そのためには受け入れるべき技術や変革は受け入れるべきなのである。

 動画投稿サイトになぜあれだけの数のテレビ番組がアップロードされるのか。最初から分かり切った違法、適法の議論をするよりも、なぜテレビ番組がアップロードされ、なぜそれを多くの人が見るのかを考えるべきである。これはもはや時代や視聴者のニーズに応えられないテレビ局の怠慢の領域に達している。

-筆者紹介-

江口 靖二

デジタルメディアコンサルタント

略歴

 1986年慶應義塾大学商学部卒、慶應義塾大学新聞研究所修了、日本ケーブルテレビジョン(JCTV)入社。技術局、制作局、マルチメディア室、経営企画室を経て開発営業部長。CS、BS、地上波の番組制作、運用を経験。00年AOLジャパン入社、コンテンツ部プログラミングマネジャー。02年プラットイーズ設立に参画し放送通信領域のコンサルティングに従事。08年独立。現在デジタルサイネージコンソーシアム常務理事、慶應義塾大学DMC機構研究員、シェフィーロ取締役などを兼務。

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