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更新:1月1日 09:00ビジネス:最新ニュース

日本経済復活のためにすべきことは何か 宋文洲

 日本経済が「失われた10年」といわれ苦しんでいた2000年前後に、日本にベンチャーブームが起きました。インターネットの幕開けもあって日本は長い不況から立ち直るきっかけをこの時つかみました。

 ベンチャーやITだけではありません。中国を生産拠点として活用した低価格商品の開発、人材派遣による人件費削減、消費者金融による中小企業や個人への融資など。今思えば景気が回復するためのニュービジネスが盛んでした。

 日経平均株価はまだ冴えませんでしたが、ベンチャー企業の株価が急速に上昇し、日本経済はやっと大手企業依存のパターンから脱出しようとしているように見えました。

 04年前後、新日本製鉄などの大手企業は中国特需をきっかけに急速な業績回復の兆しを見せました。新興企業に遅れながら大手企業も収益力を取り戻し、日経平均はみるみる上昇していきました。

六本木ヒルズの前で、堀江貴文氏の逮捕を伝える号外を手に取る人たち=2006年1月23日夜、東京・六本木

 大手企業が自信を取り戻した途端、ベンチャーブームに水を差す出来事がありました。06年初め、ライブドア社長だった堀江貴文氏が逮捕される直前をピークに日本のベンチャー企業は凋落する一方となりました。新興3市場の株価をみればわかるように日本の雰囲気はこの時から変調し始めました。

 ベンチャーブームが冷えた後は消費者金融業界で魔女狩りが始まりました。その後に建築業界で魔女狩りがあり、人材派遣業界にも広がっていきました。「正義」と制裁は次々に展開され、日本経済の底力を少しずつ、しかし確実に切り落としていきました。

 これらの「切り落とし」は誰かが陰謀をもって仕掛けたものではなく、日本社会で自然に形成されたブームであり空気であり洪水です。その時々は異なる思惑と異なる勢力が原因になっています。

 ベンチャーへの逆風は主役だった保守勢力とベンチャー経営者の派手さを嫌う大衆が手を組みました。消費者金融や人材派遣への嵐は左翼勢力と低所得層が合流したと思います。建築業界に対する過剰規制は明らかに官僚が極端化した一般世論になびいた結果です。

 こうして日本経済の底力が徐々に弱められたところに世界不況の嵐が襲ってきたのです。政治家は信念も知識も決断力もないせいで嵐への対応が遅れてしまいました。その結果、本来サブプライムローンもレバレッジも関係のない日本がチャンスをつかむどころか、最も深刻な被害を受けた国のひとつになってしまいました。

 皆さんは気付いたかどうか分かりませんが、最近世論からは急速に格差の議論が消えたと思いませんか。この格差の議論も作られたブームです。私はいつも言ってきました。日本は最も格差の少ない国の一つです。危機感がなかったからそんな言葉の遊びをしていたのです。

 今、大手メーカーによって派遣社員がどんどん切り捨てられています。派遣業を批判してきた人々はこの事態をどうみているでしょうか。メーカーに派遣社員を正社員にするよう期待することが現実的でしょうか。それともほかに派遣を使ってくれる会社を見つけるよう、派遣会社に期待することが現実的でしょうか。

 批判のようなことを言ってきましたが、それが目的ではありません。失敗を認識したら、失敗してきた道から原点に戻ればいいのです。不況から逃げ出す早道はここ数年の「正義」と「正論」を疑ってみることです。

 日本では本当にもうベンチャー精神はいらないのでしょうか。違います。バブル経済崩壊後、日本に一貫して欠如してきたのはベンチャー精神です。不況の最大の原因は硬直的な経済構造です。その硬直を根本から治すことができるのは新しい環境に適したニュービジネスです。ニュービジネスは決まってチャレンジ精神が旺盛なベンチャー企業家によって発掘されるものです。

 消費者金融は本当に社会に貢献していないのでしょうか。違います。ただ数日の数十万円の資金ショートで倒産に追い込まれる中小企業があります。こういう時になればどこの銀行も貸してくれません。しかし、利息は高いのですが、貸してくれるところがあります。それが消費者金融です。存続の危機に追い込まれたことのない人には分からないでしょうが、利息が高くても有難い融資があります。

 人材派遣業がなければ日本の雇用情勢は本当によくなるでしょうか。違います。人材派遣がなければもっと悪くなるでしょう。もともと人材派遣業が成長した理由は企業に人員調整のニーズがあったからです。日本企業は「終身雇用」という建前にこだわるため調整の役割を全部派遣社員にしわ寄せしました。その結果、派遣社員の社会的地位と労働条件が悪くなるのです。正社員の特権化をやめ、差別のない労働条件契約を結べば日本社会の人材効率がもっと高くなり、人材市場の活気も取り戻されると思います。

 また、改革の大きな障壁は公務員です。最も保守的な人々はさらに保守的になるために役所に入り、総じてリスクと変化を嫌うのです。そのような公務員が多いこと自体が経済社会にとって損失です。さらに彼らが実績作りのための仕事を求めてあれこれ余計なことをするので社会がますます硬直していくのです。今回の経済危機で市場経済の限界が見えてきましたが、それが公務員の数を増やす根拠にはなりません。

 最後にもう1つ日本が抱えている問題を挙げましょう。日本人がいつになっても豊かさを実感できない分野があります。それは狭い住居です。

 「ウサギ小屋」問題は今もそのまま残っています。「日本は狭いから」とか、「日本人は狭い住居が好きだから」とかの欺瞞はもう聞き飽きました。「国民住居倍増」といった壮大な計画は政府が打ち出すべきです。それに関連する法律や施策も整備すれば日本は必ず活気に満ちた国になります。

 しかし、今の政治家は世襲議員が多いのです。改革者と思われた小泉純一郎元首相が若い息子に選挙区という縄張りを渡すのだからこの問題の深さが伺えます。世襲議員達は狭いところに住んだことがないですし、自分の保有する資産価値を守るためにも不動産改革に消極的です。そんな硬直した政治を改革するのは最も重要な景気対策になるかもしれません。

 景気対策が最重要課題として浮上する今年、これまでの経済政策に関する甘い議論は一掃する必要があると思います。世界経済がどうであろうが、日本経済に内在するタフさを呼び起こすことが景気回復のキーファクターなのです。

[2009年1月1日]

-筆者紹介-

宋 文洲(そう ぶんしゅう)

ソフトブレーン マネージメントアドバイザー

略歴

 1963年中国山東省生まれ。85年に北海道大学大学院に国費留学。天安門事件で帰国を断念し、札幌の会社に就職するが、すぐに倒産。学生時代に開発した土木解析ソフトの販売を始め、92年28歳の時にソフトブレーンを創業。98年に営業など非製造部門の効率改善のためのソフト開発とコンサルティング事業を始めた。00年12月に東証マザーズに上場。成人後に来日した外国人が創業した企業が上場するのは、初のケースとなった。05年6月東証1部上場。06年9月会長を退任し現職に。著書には「やっぱり変だよ日本の営業」「ここが変だよ日本の管理職」などがある。

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