更新:10月27日 10:00ビジネス:最新ニュース
国家戦略の視点でフェアユース導入議論を前回このコラム(「グーグル和解問題に見る米国のしたたかな国家戦略」)で、「グーグル・ブック検索」をめぐる和解案が数々の法的問題を含んでいるにもかかわらず、米国政府はそれらを修正して和解に導くよう裁判所に要請していることを紹介した。その背景には、かつてIT企業が経済のけん引役となった状況の再来をねらう、米国の「夢よ再び」戦略がある。では、以前の「夢」はどのようにしてかなったのか。それを検証した上で、そこからわが国は何を学ぶべきか、どういう問題を抱えているかを考えてみたい。 ■米国の「フェアユース」産業 米国コンピューター通信産業連盟(CCIA)は2007年9月、「米国経済におけるフェアユース〜フェアユース関連産業の経済的貢献」と題する報告書を発表した。 フェアユースとは、使用する目的が公正なものであれば著作物の複製をしてもよい、という、包括的な権利制限規定である。オリジナル作品の市場を奪わないなど、4つの要件を総合的に勘案し、フェアユースに当たると判定されれば著作権侵害にならない。 この報告書では、フェアユースの恩恵を受ける産業の具体例として、著作権のあるプログラムの私的複製を可能にするコンピューター関連機器のメーカー、学校などの教育機関、ソフト開発業者、インターネットサービスプロバイダーおよび検索エンジンなどを挙げている。フェアユースは著作権のある著作物が対象となるが、報告書はそもそも著作権の対象とならないデータを扱う保険業や証券業などもフェアユース産業に含めている。このため「06年の付加価値額は米国GDPの6分の1を占めた」などという表現は割り引いて考える必要があるが、経年比較によって、そのトレンドは把握できる。 また、フェアユース産業が過去20年間に飛躍的成長を遂げ、米国経済に大きなインパクトをもたらした、という記載もある。メディアとしてのインターネットの開発と普及が、グーグルやアマゾンといったニュービジネスを創造し、他の経済分野の需要を喚起したというのがその理由だ。フェアユース産業は経済成長率を上回る成長を遂げており、02年から06年までの間の米GDPの成長に対して、金額ベースで5兆70億ドル、割合で18.3%に上る貢献をしているという。06年には労働者の8人に1人に当たる1080万人を就業させたそうだ。 さらに報告書が伝える06年のフェアユース関連産業の従業員1人あたり生産性は12万8000ドルと、全産業平均の9万ドルを大きく上回る。輸出も02年から06年にかけて50%近く増加。特にインターネットやオンラインサービスを含む通商関連サービスの輸出は、02年から05年にかけて全産業の中でも最も高い年率65%の成長率を達成した、としている。 この報告書の対象産業は広範なので、これをIT産業ととらえればわが国との比較が可能となる。07年4月の経済財政諮問会議資料は、「米国では2000年以降、流通・運輸や金融等のIT利用サービス業が全体の労働生産性上昇に大きく貢献している一方、日本では寄与が小さい」「日本の労働生産性の米国とのギャップは90年代半ばにかけて縮小するも、90年代後半以降、米国の加速により米国の7割程度の水準にとどまる」などと指摘している。フェアユース産業を含むIT産業がけん引した米国と、それがなかった日本との差とも言えよう。 以前、本欄の「ブック検索騒動で日本の書籍デジタル化は加速するか」で紹介したように、ブック検索サービスは書物の歴史に「グーテンベルグ以上の大変化」をもたらす革命的なサービスである。だからこそ、米国政府もグーグルがこれを世界に広め、サブプライム問題で地盤沈下した経済復活の救世主となることを期待しているのである。 報告書はフェアユースがインターネット経済の土台になっている例として検索サービスを挙げ、裁判所もこれをフェアユースと認めてきた点を指摘している。検索エンジンは索引や検索結果の表示データを作成するために、ウェブページの全文を複製して、サーバーに一時保存(キャッシュ)する。著作権侵害のおそれが大きい複製だが、一部複製では検索サービスが成り立たないことや、検索サービスの社会的有用性に鑑み、フェアユースを認めてきたのである。この著作権法の例外規定がなければ、検索エンジンは著作権侵害の責任を問われ、価値あるサービス提供に支障をきたしたはずであるとしている。その典型的なケースがわが国の検索エンジンである。 ■日本の検索サービス―失われた15年 検索エンジンは、日本でも米国と同じ1994年に誕生した。著作権法にフェアユース規定のある米国では、ウェブページを許諾なしに複製しても、フェアユース規定によって抗弁可能、と考え、複製されたくない場合にはその旨を表示する技術的回避手段を用意するというオプトアウト方式で対応した。これに対して、フェアユースのないわが国の検索エンジンは、著作権侵害の恐れを回避するため、事前に検索するウェブサイトの了解を取る、オプトイン方式でサービスを開始した。 検索サービスは情報の網羅性、包括性が命であるだけに、両者の差は決定的といえる。案の定、わが国の検索サービス市場では現在、日本の著作権法が適用されない米国内にサーバーを置く米国勢が圧倒的シェアを誇っている。中国や韓国では国内勢が圧倒的シェアを占め、米国勢が苦戦を強いられているのと対照的である。下記の表を参照されたい。
遅まきながら事の重大さに気づいた政府は、09年の著作権法改正で個別権利制限規定を追加し、検索サービス事業者は日本国内にサーバーを置いてサービスを提供できるようになった。今回の改正で、検索サービス事業者が日本の著作権法が適用されない海外にサーバーを置くことにより、通信費等がかさむなどのハンデは解消する。しかし、ネット市場では先に市場を押さえたプレーヤーが一人勝ちする傾向が強い。国内勢全部合わせても10%に行くか行かないかというレベルから、シェアを取り戻すのは至難の業である。 当初、マスコミに「日の丸検索エンジン」と騒がれた経済産業省の情報大航海プロジェクトも、3年目の今年で最終年度を迎えるが、日本勢がシェアを巻き返しそうな勢いは感じられない。対照的に自国での圧倒的シェアで力をつけた中国、韓国の検索サービストップ企業は、日本市場への進出を足がかりにグローバル・プレーヤーに育ちつつある。失われた15年はあまりにも大きい。 次ページ>>対症療法の限界 ● 関連リンク● 記事一覧
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