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更新:9月22日 12:49ビジネス:最新ニュース

「クリエイティブ・コモンズ」とデジタル著作権のこれから・ネット時評

 前回は、クリエイティブ・コモンズ(以下「CC」)の「これまで」についてご紹介した(記事参照)。今回は、2008年7月末に開催されたアイサミット2008の紹介を織り交ぜつつ、CCの「これから」について考えていることをご紹介しよう。(野口祐子 森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士、NPO法人 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン常務理事)

 アイサミット2008では、これまであまりCCに馴染みのなかった皆さんにもその取り組みや現状を分かっていただけるように、という観点から、特に日本人の参加者の皆さんに向けていくつかの「アカデミー」講座を開いてその基本をご紹介しつつ、テーマごとにパネルディスカッションを構成して最先端の識者の皆さんに議論をしていただいた。予算の関係上、英語と日本語の同時通訳を入れることができたのは基調講演やアカデミー講座などに限られ、あとは英語と日本語でそれぞれセッションが進められる形になってしまった点は残念であったが、以下では、特に日本の皆様に向けて準備した日本語セッションを中心にご紹介したい。

 日本語セッションは、情報セキュリティ大学院大学の林紘一郎氏やニワンゴの木野瀬友人氏らを招いての「参加型技術を支える技術の現状と展望」、NTTの仲西正氏や日本オープン・コースウェア事務局長の福原美三氏らを招いての「教育モデルの拡張と変革」、北海道大学の田村善之氏やジャーナリストの津田大介氏らを招いての「自由文化と著作権政策」、ソニーやニフティをはじめとするビジネス関係者を招いての「オープンビジネスの可能性」の4つのテーマで開催した。なお、当日の様子は、メディアでも報道されている(CNET Japanの記事INTERNET Watchの記事All-in-One INTERNET magazine 2.0の記事)。

 セッション全体での議論を通して見えてきたのは、CCを媒介として生じつつある「メジャーとアマチュアの協働」「日本型コモンズの展開」「著作権政策プロセスの変容」という3つの現象だ。これらを軸に、日本におけるCCの最先端の状況を紹介していきたい。

メジャーとアマチュアの協働

 CCライセンスの主な活用領域は、従来、著名アーティストらによる(いわば産業としての)コンテンツの領域か、アマチュアによる作品の公開かの2領域に分かれている感があり、この両者がクロスする機会は少なかったと言える。しかし近年では、CGM(消費者参加型メディア)の動きの中で、「メジャー」と「アマチュア」の相互作用の中で価値を生み出そうとする取り組みが生まれ始めている。

 Xartsの和田昌之氏らによって紹介された「クリエイターコラボ」では、ロックバンド「X-JAPAN」のTOSHI氏の楽曲のプロモーションビデオをインターネット上で公募し、投稿されたビデオをCCライセンスによって公開する取り組みを行なっている。また、バグ・コーポレーションの山口哲一氏からは、同社の所属アーティスト「Sweet Vacation」が、CCライセンスなども用いたキャンペーンなどを行いながら、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のマイスペースやYahoo! Musicなどインターネット独自のメディアを活用して展開し、活動開始から約1年というスピードで今年8月にメジャーデビューに至った事例が紹介された。

 そもそも、コンテンツは、コンテンツを作り出す表現者の表現活動のみで完結するものではなく、それがユーザーに親しまれ、表現者とユーザーが相互作用をすることによって、真価を発揮するものともいえる。これまで主にアナログ環境の技術的要因によって前提とされてきた「表現→利用」という一方的な関係から、CCを媒介として生まれつつある「表現→利用→表現→利用……」という円環的な関係へ進化することは、コンテンツの価値を生み出すモデルをより豊かにしていると言えるのではないだろうか。

日本型コモンズの展開

 CCライセンスと同様、柔軟な著作権保護の手段によって自由利用可能な著作物を増加させ、それによって新しい表現活動を拡大しようとする日本独自の取り組みも生まれてきている。

 ニコニコ動画を運営するニワンゴの木野瀬氏から紹介された「ニコニ・コモンズ」は、「ライセンス」よりも比較的緩やかな「ガイドライン」による著作権取り扱い規定により、クリエイターやユーザーが自らの著作物を自由利用の領域に提供することで、二次創作等の活動を促進していこうというものである。また、「初音ミク」をはじめとする音声合成ソフトシリーズを展開するクリプトン・フューチャー・メディアによるコンテンツ投稿サイト「ピアプロ」や、後述する文化庁の自由利用のための新ライセンス構想など、「日本型」コモンズ領域の展開は各所において活発化しつつある。

 そもそも「コモンズ=共有地」のガバナンス、そして創造的活動のコミュニティのあり方は、適用される分野やその時々の状況、そして技術的環境によって大きく左右され得るものであり、そのニーズの多様性がこのような様々な提案を生んでいるといえるのだろう。

 このような制度間競争は、よりよいライセンスづくりという意味では望ましい面もある。しかし、同時に、多様なライセンス間の相互運用性の問題、つまり例えばCCライセンスが適用された著作物を、ニコニ・コモンズでライセンスされた著作物と組み合わせることは可能かどうかなど、今後法的・技術的に検討すべき点も多い。せっかく沢山のコンテンツがオープンなライセンスで公開されていても、そのコンテンツがお互いに組み合わせられなければ、結局はコンテンツはタコツボ化してしまうだけで、豊かな生態系を築くに至らないのではないか、という心配があるわけである。この問題は、オープンソース・ソフトウェアの分野でも常に深刻な問題の一つとして指摘される点であり、今後も多様化するライセンスの制度間でのパイプ作りは重要な課題となるだろう。

著作権政策プロセスの変容

 CCライセンスが著作権法を基盤として設計されている以上、政府による著作権政策は、重要な役割を果たす。文化審議会著作権分科会の委員も務めるジャーナリストの津田氏から紹介されたように、現在の日本の著作権法改正のプロセスは事業者やクリエイター、ユーザーなどに対して徐々に開かれたものになりつつある一方、実際の影響力としては流通事業者をはじめとする組織力の強い団体の意見がより強く反映されてきた傾向は否めない。

 このような中で、北海道大学の田村氏は、「自分の作品における著作権のあり方」を意思表示できるCCライセンスが、クリエイターやユーザーらのいわば「市民の声」の具体的な表明の手段となり、その結果、これらの声を著作権法の立法過程において反映することが従来に比べて容易になるとすれば、政策形成過程でも一定の重要性を持つことになるだろうと指摘した。

 実際に文化庁では、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの澤伸恭氏より紹介があったが、これまで運用されてきた文化庁自由利用マークを改良して、地方自治体等の多様なニーズに対応した新しいコモンズの領域を生み出すための新しいライセンス作りの研究を進めている。また、今年6月に内閣知的財産戦略本部から公開された知的財産推進計画2008の中でも、CCライセンスを含む「コモンズの取り組みを促進する」という文言が明記されている。インターネット上の豊かな表現活動、そしてそれに基づく文化や経済を発展させていくために、CCライセンスが著作権政策に果たし得る役割は大きいだろう。

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