更新:10月20日 10:30ビジネス:最新ニュース
グーグル和解問題に見る米国のしたたかな国家戦略ネットで膨大な数の書籍を検索・閲覧できるようにする「グーグル・ブック検索」に対する、著作権物の権利者からの和解への参加、拒否、異議申し立ては9月8日に締め切られたが、全世界から400以上の意見が提出された。両当事者は1カ月間でこれらの意見すべてを咀嚼(そしゃく)するのは難しいので、10月7日に予定されていた公正公聴会を延期するよう申し出た。ニューヨーク州南部地区連邦地裁のチン判事は、これを受け入れ、10月7日は公聴会ではなく、今後のスケジュールについて打ち合わせることになった。(城所岩生) 10月7日の会合では、11月9日までに修正和解案を提出すること、12月終わりから1月はじめの間に公正公聴会を開催することなどが決まった。 ■世界から寄せられた意見 全世界から集まった意見の内訳は表1の通りで、権利者以外からは賛成意見の方が多かったが、権利者からは反対意見が圧倒的に多かった。米国外からも多くの意見が寄せられ、国別に見ると表2のように欧州諸国が多く、日本からは7件提出されている。 筆者は、以前このコラムで2回にわたり「異議申し立て」を勧めた(「グーグル・ブック検索和解『異議申し立て』のすすめ」、「グーグル・ブック検索和解『異議申し立て』再考」)。そして自らも権利者の一人として、顧問を勤める牧野総合法律事務所(東京都新宿区)の牧野二郎弁護士と共同で異議を申し立てた。それが日本から提出された7件のうちのひとつだ。
出典:米国図書館協会ワシントン事務所(American Library Association Washignton Office)のウェブサイト(http://wo.ala.org/gbs/the-google-books-settlement-who-is-filing-and-what-are-they-saying/)より ※このサイトは裁判所に提出された意見をとりまとめているため、和解への参加拒否(オプトアウト)については把握していない(参加拒否は裁判所ではなく、和解当事者に対して行えばよい)
出典:ニューヨーク・ロースクールがグーグルブック検索和解について議論するために関連情報をデータベース化したウェブサイト(http://thepublicindex.org/documents/responses)より集計 表1の出典となった調査ではさらに、主要な意見提出者の賛成もしくは反対の理由も紹介している。賛成理由では「利用者寄り」であるというのが最も多く(27件中22件)、反対理由では「権利者寄りでない」というのが最も多かった(45件中23件)。米国外の権利者(クラス構成員)からの反対意見が多いのは、米国以外ではなじみの薄い集団訴訟の制度とベルヌ条約の合わせ技で和解の効力が及ぶことが今春、晴天の霹靂のように突如判明したことから当然とも言える。しかし、集団訴訟は日常茶飯事で、1年前の和解案発表時から自分たちに影響が及ぶことがわかっていたはずの米国内の権利者からも多くの反対が寄せられたのは予想外だった。 ■司法省、修正の上和解成立を促す それよりも意外だったのは、裁判所の求めに応じて、9月18日に提出された米政府(司法省)の意見である。多くの、特に米国外からの反対意見にもかかわらず、米国外の権利者の利益も視野に入れて和解成立の方向に導くよう裁判所に要請している。その政府意見の概要を紹介する。32ページにわたる意見は、まず、前書きの部分で以下のように述べている。 -------------------------- 次いで「しかしながら、和解案の広範さは重大な法的問題を提起する」とした上で、訴訟法および独占禁止法に違反する可能性を指摘している。前書きの最後には、以下のような指摘がある。 -------------------------- 政府も認識しているとおり、本件を裁くニューヨーク南部地区連邦地裁のチン判事はイエスかノーかを答えるだけでもよいのである。その場合、これだけ大きな法的問題を含んでいる和解案に対して、そのままの形でのイエスはありえないので、回答はノーとならざるをえない。そこで、政府は和解案に修正を加えて、和解成立の道を探るよう判事に要請しているのである。 続いて、「重大な法的問題」としたうちの1つ、外国の著作権者にもっとも関係が深い訴訟法上の問題に対する意見を述べている。 -------------------------- そして「現在の和解案はこの要件を満たしていないと政府は判断する」と指摘し、グーグルが著作権者の許諾を得ずにスキャンした過去の行為についての補償になるだけでなく、版権レジストリを通じて訴訟に参加していないメンバーの作品を使用する将来の行為まで許諾してしまう問題、および訴訟に参加していないクラスメンバーの利益を代表していない問題について、和解案を修正する必要があるとした。不参加のクラスメンバーの代表は孤児作品の著作者と米国外の権利保持者である。このうち米国外の権利者について以下のように述べている。 -------------------------- 米国はもともと登録によって著作権が発生する方式主義を採用していた。1886年に成立した著作権に関する基本条約であるベルヌ条約では、著作権は創作時に発生し、登録などの方式(手続き)を必要としない無方式主義が採られている。このため、米国は1989年にベルヌ条約に加盟する際に権利発生要件としての登録制度は廃止した。しかし、任意登録を認めるとともに登録に訴訟法上のメリットを与えるなど、登録のインセンティブを残している点で、他のベルヌ条約加盟国とは異なる。 米国外からの意見は表2のとおり、欧州諸国が多い。このうち政府として意見を提出したのはドイツとフランスのみだった。内弁慶の日本政府が意見を提出する可能性はそれほど高くないと思ってはいたが、司法省の意見書の中で、海外からの意見については民間ではなく政府の意見しか引用していない点からも、米国政府にインパクトを与えるには政府レベルのアクションが必要だったことが裏付けられる。政府が意見を提出したフランスの6件を上回る、7件の意見が民間から提出されていることから、この問題に対する日本国民の関心の高さもうかがえる。日本政府が今後の対応を考える際にぜひ考慮してもらいたい点だ。 次いでもうひとつの「重大な法的問題」、独禁法上の問題を指摘した後、付加的考察を加え、以下の文章で結んでいる。 -------------------------- グーグルの企業ミッションは地球上のあらゆる情報をアクセス可能にすることにある。この壮大なミッションは貫徹すべきだとのエールを送っているわけである。 結論として「裁判所は現在の形での和解案は却下し、両当事者が和解案の訴訟法、著作権法、独禁法の問題を解決する方向で修正する交渉を継続させるべきである」と結んでいる。 ■「夢よ再び」ねらう米国政府 10月7日の会合で、両当事者は11月9日までに修正した和解案を提出することを約束した。わずか1カ月でこうした難問に答える和解案を提出できるかは予断を許さない。にもかかわらず、米政府がここまで和解成立に前向きな理由は何だろうか。 その解は米国のしたたかな国家戦略である。 90年代にITは米国経済のけん引役となった。IT革命によって生産性は劇的に向上し、ついには景気循環を乗り越えるまでに至るという「ニューエコノミー論」まで語られるようになった。 サブプライム問題以降、地盤沈下を続ける米国経済。「夢よ再び」で、今回もグーグルなどのIT企業に経済復活の救世主になってほしい、という米国政府の願望が、この意見書からは透けて見える。 いよいよ、この件は高度に政治的な問題となってきた。では、わが国は今何をしなければいけないのか。それについて次回考えてみたい。キーワードは「フェアユース」である。
[2009年10月20日] ● 関連リンク● 記事一覧
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