更新:12月18日 08:47ビジネス:最新ニュース
多重下請け、人材派遣構造が阻む業界のイノベーション・日本のIT産業の課題(2)
「多重下請け構造を解決したい」――。IT企業の経営トップがこう発言をするのを聞くことが最近多くなった。下請けいじめ云々ということではなく、日本のIT産業の問題点がここに凝縮されているからだろう。今回は前回に続いて「SE度調査2006」の結果を基に、業界の多重下請け構造がもたらす問題点を検証していきたい。(角埜恭央) ※このコラムのベースとなるSE度調査の2006年版の結果はIPAのホームページ(http://sec.ipa.go.jp/index.php)に資料があるので参照して頂きたい。今年も「SE度調査2007」を実施中で、調査票の締め切りを延長しているのでJISA会員を含むエンタープライズ系IT企業の皆様には回答へのご協力をお願いしたい。 ■多重下請けと人材派遣 一般的に企業システム向けのソフトウエア開発の営業利益率の業界平均は5%強と言われている。ソフトウエア開発企業を「設立の経緯」から分類すると、ハードウエア製造販売から始めたメーカー系、グループ企業のITを任されたユーザー系、そして独立系の3つに分けることが多い。独立系の営業利益率はバラツキがあり、20%という高利益率の企業もあればしばしば営業赤字に陥る企業もある。ユーザー系企業は利益率のバラツキが小さく、一定範囲に収まるよう親会社にコントロールされている可能性もある。 日本のソフトウエア産業には多重下請けと人材派遣の構造がある。17兆円産業といわれるが、実際には3重4重の下請け構造や人材派遣によって規模が水増しされている。つまり実際は10兆円程度の産業で、顧客企業は末端の下請け企業が1人月60万円でやっているサービスを1人月100万円で買っているという構図になる。 この100万円から技術者の月給を差し引いたマージンの部分を、開発に絡む様々な企業が分け合っている。多重下請けになることで、無駄な中間コストが多く、押しなべて利益率が低い状態になっている。ソフト開発は関わる人が多くなるほど、効率が悪くなるというのは有名な話だ。 こうした無駄を省き企業努力で高収益化を達成している企業が一部にはあるが、大多数の利益率が低いために顧客からは余分な利益を上乗せしているように思われてしまうところもある。 ■ITのプロではなく、人の管理が仕事 本来、プロフェッショナルの仕事は安易に外注されないものだ。たとえば国内でも一流の経営コンサルティング会社は外注することはほとんどなく、あったとしても余程の専門性をもつ信頼のおける個人でしかないだろう。ところが下請けになるITベンダーの場合は、個別面談も行われないままプロジェクトにアサインされ、時には元請企業の名刺をもらってメンバーとして参画する。これは米国やインドのITベンダーが請負った仕事を内部人材で完遂するのに比べて特異な現象である。 多重下請け構造がもたらす弊害は受託側の下請け企業が低収益にあえぐだけでなく、委託側の企業にもある。委託側の大手企業では30代前半ともなるとプロジェクト管理を任されることが多い。下請けの年長技術者を抱えて人の管理のプロになることを強いられる。 新しい技術の研修を受けても実践で試すことなく耳学問で終わってしまうケースもある。優秀なプロジェクトマネジャーほど次から次へと、様々な種類のプロジェクトを割り当てられる。得意分野や興味のある分野に集中して取り組むことができず、プログラムのコードを実際に書くことは下請けに任せきり。革新的なシステム設計ができるような「ITアーキテクト」の人材が育たない理由の一つはここにある。 ■1年目は400時間研修も、2年目はたったの30時間 下請けとして人材派遣に徹しているIT企業のエンジニアは、新人の年は400時間を超える詰め込み教育を受けて顧客先へ派遣される。しかし2年目以降になると研修時間は年間30時間とめっきり減り、新しい技術を習得することもなく会社の稼働率アップに貢献することになる。 どんな客先に派遣されるか、元請けのプロジェクト管理者がどんな人物かで彼や彼女の成長機会が規定される。顧客企業のトップと会う機会はほとんどなく、ビジネス戦略に自分の作っているITがどのように活かされているかなど考えてみたこともない。言われたことを淡々とこなしてプロジェクトの区切りで次の派遣先へ向かうのだ。 ■カスタム開発とパッケージソフト ここまで、業界構造の問題に焦点を当ててきたが、開発するシステムの中身についても見ていこう。 SE度調査の結果では、顧客別に一から作るカスタム開発の割合が6割以上であるIT企業が全体の3分の2を占めていた。これは日本に特徴的なことであり、できあいのパッケージソフトを企業システムに使う海外からみると奇異に映る。パッケージソフトは知識とノウハウの集積とでもいうべきイノベーションで、今やワープロソフトを一から作る人はいないが、日本では企業向けシステムを動かすビジネスアプリケーションを一から作る企業が多いということだ。
カスタム開発の割合は高い順からユーザー系、メーカー系、独立系という並びになる。パッケージソフトの活用割合はその逆だ。メーカー系はできる限りパッケージソフトを活用しようとしており、メーカーに依存した独立系もその活用を求められている。 一方、ユーザー系はカスタム開発率を高めて人材をコンスタントに送り込んでいるという構図である。カスタム開発は、開発期間の延長などの失敗がなければ先行投資が必要なく、かかった人の分だけコストにマージンをのせた費用を受け取れる確実にもうかるモデルである。実際にカスタム開発の割合が高い企業は利益率が高いという傾向も見られた。 一方の顧客企業に視点を移せば、特定のIT企業が開発したカスタム開発の情報システムにロックインされてしまう危険がある。パートナーであるIT企業がきちんとした文書を作成するなどまっとうに開発していればまだ良いが、そうでなければベンダーを切り替える際には相当なスイッチングコストを払うこともある。最後に割を食うのは顧客企業なのである。 ◇ ◇ ◇
以上のような状況をまとめると人材派遣型の下請け構造とカスタム開発の多さは、プロジェクトでの経験を企業に蓄積することを妨げる要因となっている。あまたのプロジェクトの経験値は、偏在もしくは拡散して、日本のIT企業の実力を低位に留まらせている結果になっている。 また、日本のビジネス向けパッケージソフトで、特に大手企業向けでは、海外勢に席巻されている状況を生んでいる。統合基幹業務ソフトの独SAPや米オラクルは言うに及ばず、日本が競争力を持つはずの製造業向け分野でも仏ダッソーなどにシェアを取られている。 情報処理推進機構(IPA)のソフトウエアエンジニアリングセンター(SEC)が中心となってソフトウエア工学に基づくプロセスイノベーションの研究と啓発を進めており、産学官協働で膨大な資料や報告書を作成するなどの成果をあげている(https://sec.ipa.go.jp/download/index.php)。しかし、今後はイノベーションを阻害する業界構造も併せて解決していかねばならないだろう。 [2007年12月18日] ● 関連記事● 記事一覧
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