更新:7月8日 09:00ビジネス:最新ニュース
ITの新たな形――クラウド・コンピューティング入門(上)
昨年あたりからクラウド・コンピューティングという言葉を聞くようになった。クラウドはすなわち「雲」で、IT業界ではネットワークやインターネットのことを言う。このクラウドがITシステムに必要なハードもアプリケーションもサービスも必要なだけ提供してくれるというのだ。2回に渡ってクラウドについて解説していこう。(岸本善一) クラウド・コンピューティングとは、ネットワークを通じてコンピューターの処理能力や記憶領域を利用する新しいITの利用形態である。その最大の利点は、利用者はクラウドの詳細を知る必要もなければ、その処理能力や記憶領域がなくなることも気にせずにそのサービスを受けられることにある。 もちろん実際のクラウドの中は様々なサーバーやその他のIT機器がネットワークで結ばれて複雑に実装されている。従来のITシステムであればユーザーがそういった部分の構成にも頭を悩ませ、設備投資をしてきたが、クラウドの提供企業がそうした作業を肩代わりしてくれる。しかもクラウドの提供企業側では大型の設備で効率化をしているので、自前でシステムを構築するよりも安価に済む場合が多い。 さてこのクラウドは、似通った他の技術やサービスとはどこが違うのだろうか。その比較を通じて、さらに理解を深めていこう。 ◆グリッド・コンピューティング グリッド・コンピューティングではプロトコル(通信方式)などの標準が存在し、複数のコンピューターを駆使して必要に応じてサーバーやストレージ(大容量記憶装置)などのリソースが提供される。グリッド・コンピューティングはクラウド・コンピューティングを実現する1つの技術として位置づけることができる。しかし、グリッド・コンピューティングだから、クラウドであるとは言えないだろう。 ◆SaaS (Software as a Service) SaaSはクラウド・コンピューティングによって提供される1つのサービス形態として捉えることができる。SaaSはソフトウエアを自社でサーバーにインストールして運用するのではなく、サービスプロバイダーからアプリケーションの提供を受けて、ネットワークを通じて利用するものである。 ◆シンクライアント シンクライアントは機能をパソコンなどのクライアント側に持たせるのではなく、サーバー側にデータや処理の機能を持たせる。クライアント側ではキーボードやマウスによる入力、ディスプレーでの表示といった機能しかない。日本ではセキュリティー面で注目されているようだが、消費リソースが少なくて済むこともある。シンクライアントに対するサーバー側がクラウド・コンピューティングと考えることができる。 ◆分散コンピューティング 分散コンピューティングは1つの大きなコンピューターでなく、複数のコンピューターをうまく組み合わせるコンピューティングの形態である。グリッド・コンピューティングは分散コンピューティングの1つの形態である。クラウド・コンピューティングは分散型でも集中型でも実装可能である。 ◆ユーティリティー・コンピューティング ユーティリティー(オンデマンド)・コンピューティングは電気やガスのように必要なだけのサービスを受け、それに応じて代価を払うというもので、設計・実装技術というよりは仕様である。 結局のところクラウド・コンピューティングには現在標準もなければ、定義もいろいろとわかれる。グーグルとIBMは今までになかったレベルの分散型コンピューティングをウェブ2.0やその他の分野に応用するために、クラウド・コンピューティングとして提唱している。非常に乱暴に言えば、サーバー側コンピューティングの総称であり仕様である。実装に関しては特に制限がない。 またクラウドは1つの大きなコンピューターとも考えられる。ヤフーリサーチ・チーフのPrabhakar Raghavan氏はこんなに大きなコンピューターを提供できる会社は現在、グーグル、IBM、マイクロソフト、ヤフー、アマゾンぐらいしかないと述べている。このコンピューターは1台で実現するIBMのプロジェクトの場合もあれば複数台で1台の役目を果たす分散型コンピューティングの場合もある。
■クラウド・コンピューティングの種類 標準もなく定義もまちまちであるが、クラウド・コンピューティングは3つの種類に大別できる。 ◆SaaS型 先にも説明したが、SaaSはウェブを介してアプリケーションを利用できるものである。アプリケーションへの利用が増えて、更なる処理能力や記憶領域が必要となると自動的にリソースが追加される。「Gmail」や「グーグル・ドキュメント」などが該当するだろう。 ◆PaaS (Platform as a Service)型 これは主にアプリケーションを自前で開発する企業向けに提供される。クラウド側で必要なハードやミドルウエア、サービスを提供し、それらをあるアーキテクチャーに基づいてシステム設計してある。そのシステム設計に沿った方法でアプリケーションを開発すれば、簡単にアプリケーションをクラウドにインストールできる。コンピューティングの容量が必要になれば、自動的に追加される。この例は「グーグルアップエンジン」などがある。 ◆IaaS(Infrastructure as a Service)型 PaaS型はある開発者にとっては便利であるが他の開発者にとっては制限がありすぎると感じるだろう。IaaS型は自由に開発したい企業向けのものである。クラウド側はプラットフォーム型と同様ハードやソフトやサービスを必要に応じて提供するが、システム設計は開発者自ら行う。この例は「Amazon EC2」が有名である。 ■思わぬ伏兵 さて、このクラウド・コンピューティングはよいことばかりのようだ。ところが思わぬ伏兵がいる。それは、莫大なコンピューティングのパワーを要することである。 これだけのコンピューティング・パワーを自前で安定供給できる会社はそう多くない。そのための設備全体を所有するかリースするかに関わらず、データセンターにサーバーやその他のIT機器を格納する必要がある。データセンターの運営経費は年ごとに伸びており、特に昨今は原油の値上がりから全てのエネルギーのコストが増大している。果たして、こうした傾向はデータセンターやそれが支えるクラウド・コンピューティングにどう影響しているのだろうか。それについて次回で取り上げる。 [2008年7月8日] ● 関連記事● 記事一覧
|
|