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更新:6月29日 10:00ビジネス:最新ニュース

郵政問題をいまさら政争の具にする愚

 一応、日本郵政の社長人事問題が決着したそうだ。大臣の更迭にまで及んだ今回の結末は西川善文社長の減俸だという。まさに政治決着。大臣を辞めさせたのだから、社長が何もなしでは済まされないという、純和風な落としどころに見える。なぜ西川社長が減俸になるのかさっぱり理解できない。(夏野剛のネオ・ジャパネスク論)

■「かんぽの宿」は問題だったのか?

 郵政会社の人事問題はもともと、これほど大きな政治問題ではないはずであった。財界の重鎮で構成された人事指名委員会が設けられており、そこで続投となったのだから、その後に総務相が介入する余地はない。しかし「かんぽの宿」を巡る問題をきっかけに、郵政会社の一挙手一投足に政治的ケチがつき始めた。いまだに民営化に反対する勢力がいろいろ問題視しているものと思われる。

 かんぽの宿問題が、本当に問題であったかどうかは、はなはだ疑問である。民間の常識でいえば、いくらお金をかけて作ったものでも今現在の収益力がない、大きな赤字の事業であれば、価値はほとんどないのが原則である。それをビジネスをよく知らない人々、特に政治家の方々が、プロセスが不透明だとかなんとか騒いでいらっしゃる。

 結構なことだが、だいたいそんな赤字垂れ流しの、将来性のないものを作ったのは誰なのか。もし放置しておいたらこれから先も赤字を垂れ流し続けて大変になることが目に見えているのにどうするのか、ケチだけつけて解決策がない。

 しかもそのかんぽの宿問題を取り上げて、総務相が社長に辞任を迫るとは何ごとか。その総務省(旧郵政省)のマネジメントがなってなかったから、郵政民営化が国会で決議されたはずである。民営化プロセスのために招聘(しょうへい)した財界の大物を今度は引きずり下ろそうとするなんて、まさに政治。しかし、西川さんは政治家ではない。政治的駆け引きは政治家同士でやってほしいものだ。

■「古巣に便宜」などあり得ない話

 とかく変革をしようとするリーダーは攻撃を浴びる。西川さんは最後のバンカーの異名を取ったほどやり手の銀行マンであり、経営者であった。私も何度かご一緒したことがあるが、きわめて合理的な、そして信念のある経営者だ。三井住友フィナンシャルグループのトップまで上り詰め、いまさら郵政問題で利権誘導などするメリットはまったくない。

参院総務委に出席した西川社長(右)と鳩山総務相(当時)=6月9日〔共同〕

 しかも郵政会社の社長の給料はきわめて安い。民間では考えられないほど安い。確定申告はいらないレベルだとも聞く。もちろん国会議員よりも安い。そんな安い給料でもこんな難職を引き受けたのは、まさに男気の通った西川さんらしい決断だった。

 やれ外資系銀行と昵懇(じっこん)だとか、古巣に肩入れしているなどと騒がれているが、経営者たるもの、企業を一度離れてしまうと、いわゆる「古巣」に便宜を図ることはない。なぜならそんなことをするメリット、合理性がないからだ。いかに社長であろうと、合理性のないことを社内で通すのは難しい。

 しかも、まさにそういう合理性が失われている郵政会社という組織を改革しようとする者が、自ら非合理なことをできるわけがない。天下り官僚であれば、次の職場を世話してもらうためにも古巣に便宜を図ろうとするだろうが、民間ではそんなことはあり得ない。

■郵便局のサービスはよくなった

 一方で政治家にとっては、郵政会社の経営者をこのタイミングでたたくのは、選挙対策になるという見方もある。事情を知らない一般の人々から見れば、こわもての経営者、しかも元銀行のトップで、マスコミがいろいろうわさしている人物に、怪しいレッテルを張るのは至極簡単だ。

 きっと庶民の分からないようないろいろな悪巧みがあるのではないか、きっと政界のようなどろどろとした世界があるのではないか、きれいごとで社長職を引き受けたはずがないなど、勘ぐればきりがない。でもよく考えてみてほしい。 

 経営者といえども一人の人間。小泉純一郎元首相がライフワークにしていた郵政民営化の責任者に請われ、だからこそ安い給料にもかかわらず引き受けたのである。私利が目的なら、最初から魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界のような旧郵政公社の総裁なんて引き受けなかっただろう。もっとワリのいい話はいくらでもある。

 民営化の流れになってから、郵便局のサービスは本当によくなった。昔は郵便局の窓口で大変不快な思いをしたものだ。お客さんが並んでいるのに、ゆったりとお札勘定をしている人、命令調でお客さんの振替用紙の記入ミスを指摘する人など当たり前にいた。

 今では、郵便局で、いらっしゃいませ、と言われ、頭を下げられる。再配達や集荷の方々も大変腰が低い。なにより、みんな優しい。変なことを頼んだって、にらまれることもない。民営化ってこういうことなんだなぁ、と実感するところはいくらでもある。もちろん、すべてが社長の指導力とはいわないが、それにしてもここまで変えるのは大変だっただろうとは容易に想像がつく。

■民営化をやめるつもりか

 と思っていたら、今度は民主党が、政権交代の際には西川さんに辞めてもらうと言い出した。しかも党首は更迭された大臣の兄弟。いい加減にしてほしい。その後、一体誰が郵政会社の社長を引き受けるというのか。それともそもそも民営化をやめるのか。

 安月給で、政治家に目をつけられ、かつ従業員の中にも根強く民営化反対を唱える人がいる、そんなポジション。まさに針のムシロ。もし西川さんが退任することになったら、少なくとも西川さんクラスの財界人がこの仕事を受けることはないだろう。あまりにばかばかしすぎる。

 みなさん、冷静に見よう。郵政民営化をいまさら政争の具にしてはいけない。その社長人事がどれほどの政治課題か。いままで散々議論され、解散総選挙までやって決めたこと。しかも剛腕経営者でないと完全民営化までもっていけないからこそ、西川さんを招聘したのだ。世の中を効率化し、社会を発展させるような動きを止めるようなことは絶対にしてはいけない。

[2009年6月29日]

-筆者紹介-

夏野 剛(なつの たけし)

慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授、ドワンゴ取締役

略歴

 1988年早稲田大学政治経済学部卒、東京ガス入社。95年ペンシルバニア大学経営大学院卒。96年ハイパーネット取締役副社長。97年NTTドコモ。榎啓一氏、松永真理氏らと「iモード」を立ち上げた。2005年ドコモ執行役員マルチメディアサービス部長。08年にドコモを退社。
 現在は慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授のほか、ドワンゴ、セガサミーホールディングス、SBIホールディングス、ぴあ、トランスコスモス、NTTレゾナントの取締役を兼任。ドワンゴでは動画共有サービス「ニコニコ動画」の黒字化・国際化・一般化を進めると宣言。特別招聘教授を務める慶応大学政策メディア研究科では「IT革命」をテーマに講義する。

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