更新:8月26日 11:16ビジネス:最新ニュース
「エコポイント」の情報システムがわずか3週間で完成した理由
省エネ家電への買い替えを促す「エコポイント」制度が5月にスタートし、7月1日から付与されたポイントの交換申請を受け付けている。省エネ性能が一定以上のエアコン、冷蔵庫、地上デジタル放送対応テレビが対象なのはご存じのとおりだが、このエコポイントに関わるシステムが業界でちょっとした話題になっている。 エコポイント制度は関係省庁と電通、凸版印刷、JPメディアダイレクト、JP物流パートナーズ、ベルシステム24、トランスコスモスの6社が形成したグリーン家電普及推進コンソーシアムが事務局となり運営を担当している。 エコポイントの申請件数は2000万件にもなると予測され、事務手続きを円滑に処理するにはシステムに頼らざるを得ない。一方で、時限的な制度であり、システム開発にお金をかけられないという制約がある。さらに大きな問題は、それをわずか3週間で構築しなければならないことだった。
申請期間は2010年4月までとなっており、申請機能のシステム稼働期間は10カ月間にすぎない。ポイントの交換管理は12年3月末までの2年9カ月間だが、それでも短期間で使命を終えるシステムであることに変わりはない。 そもそもエコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業の実施に係る団体(政府が造成する基金を設置・管理する法人「基金設置法人」と、基金設置法人からの委託によりエコポイントに関するシステムの運用等を行う事務局)の公募が行われたのは5月中旬。その公募結果が公表されたのは6月1日だ。それからわずか1カ月間、7月1日にはインターネットを使ったエコポイント受付システムを稼働させなくてはならなかった。 こうした問題を解決するために、エコポイント事務局と関係省庁が選択したのが、米セールスフォース・ドットコムの基盤サービス「Force.com」だった。セールスフォースはこのForce.comを「クラウドコンピューティングプラットフォーム」と表現している。利用者はサーバーなどのインフラを持つことなく、この基盤上で独自のシステムを構築できる。7月1日に開催された「IT Japan 2009」の講演やその後の各種講演において、セールスフォース・ドットコム日本法人社長の宇陀栄次氏がその経緯を語っている。 「役所の方が電話をかけてこられたのは5月28日ころだった。複数のITベンダーに相談したところ、システム構築に数百億円から1000億円もかかるという。来年4月末までと期間が限定されているシステムにそんな大金はかけられない。それで環境省や経済産業省は頭を抱えてしまった。(役所から宇陀氏への)話では『仕様書はこれから作ります、発注予算は決まっていません、申請件数はだいたい2000万件と予測、でもシステムは7月1日に動かしたい』という、むちゃくちゃな話でした」 噂話では、日本で有数のシステム開発会社やコンピューターベンダーにも声がかかったが、受注の検討を断ったとか、サジを投げたとかいわれていた。さすがに納期が合わなかったのであろう。
宇陀氏はしかし、話を聞くうちに同社のForce.comを使えば、意外と簡単に受付システムを作ることができるのでは、と思ったそうだ。受付システムはエコポイントの登録を受け付けるほか、交換申請用の申請書を作成する。利用者はウェブサイトのフォームに氏名や住所などの個人情報と、購入した商品の情報、獲得したエコポイントを登録する。 次にエコポイントで交換を希望する商品のコードを入力すると、「エコポイント登録・交換申請書」が表示される。それを印刷し、保証書のコピーや領収書と一緒にエコポイント事務局に郵送すると、商品が届く仕組みだ。 宇陀氏は打診から数日のうちに 仕事を受けると返事をしたそうである。要求定義は走りながら考えるやり方で、優秀なエンジニアを投入して、正味3週間でプロトタイプを作り、7月1日に間に合わせたのである。
エコポイントの総予算は約3000億円である。環境省、経済産業省、総務省は事務局のシステム関連費用を含む申請処理等業務費として、3年間で57億4000万円を見込んでいる。 超短納期で、一時的な利用、さらには要求仕様があまりにも決まっていない、という特徴を持つシステム。仕様は走りながら、セールスフォースのForce.comに備わっている機能をうまく使う方向に収めていったようだ。 2000万件以上のデータの管理やアクセス集中時の負荷についても、Force.comのもつ巨大なシステム処理能力(クラウド)をもってすればピークアウトしない。またForce.comには、その基盤上で動作するサイトや機能をすばやく実装するための仕組みが備わっている。これらをうまく組み合わせると、3週間のシステム構築も可能になるという。 クラウド・コンピューティングに関する議論が賑やかだ。単なるバズワードとして喧伝する向きもあるが、今回のような具体的にして実効性のある話題は好ましい。たまたまうまく「はまった」アプリが出てきただけなどと言ってはいられない。 宇陀氏も「本来はどういうシステムを作るのか、なにをしたいのかを明確にしないでシステム開発に着手することは間違っている。要求定義が明確になれば、作るか、パッケージを買うか、サービスを利用するかのどれか1つではなく、良さを組み合わせることができ、選択と組み合わせの幅が広がる」と語っている。 クラウドの具体的内容は未定義のままだが、そうしている間にも今回のような事実が押し寄せてくる。うまく使えば、これまでの常識がひっくり返る。利用者側もよく学習し、自社のサービスを確立しながら対応しなければならない。果たしてそれがうまくできるのか。変革の時代を乗り切るには、活用するしかないだろう。 [2009年8月26日] ● 関連リンク● 記事一覧
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