更新:4月10日 10:20ビジネス:最新ニュース
「SaaS」普及3つの条件・日本はまた外資に席巻されるのか【コラム】
SaaS(Software as a Services)の時代が到来しつつある。SaaSはネットワークを経由して業務システムの機能を提供しようとするものである。業務アプリケーションやシステム本体はサービス提供者側で管理され、利用者はウェブブラウザーなどを通じて必要なメニューを選択して利用する。個別にシステムを構築しないことから、規模が大きくなるほど、低廉に提供できる。 明日からでも使える利便性 SaaSは機能的には、ASP(ソフトの期間貸し)として昔から提供されてきた共同利用型オンラインリアルタイムシステムと違わない。ただし、提供者側の仕組みが異なるうえに、かなり様々な形態なものが出てきている。 各利用企業ごとにパッケージソフトを入れたサーバーを預かって運用するイメージに近いものや複数のアプリケーションをパッケージとしてそのメニューから選んでウェブブラウザーから利用するもの、SaaSインフラと称するアプリケーション共同利用のためのシステムインフラを複数の企業で共有させるがアプリケーションについては個別の異なる提供者からのものを組み合せて提供するもの、メーンフレーム利用の共同オンラインを名称だけSaaSと変えたもの等々さまざまだ。 いずれにしても、極端な場合なら明日からでも使えるという利便性がある。かつユーザー企業側での面倒な維持更新や運用、障害対応などの負荷が軽減できる。費用面でもあまり欲張らなければ既成の機能を低コストに使える。機密情報の保持やウイルス対策なども、自社で行うより手間がかからず容易に実施できる。 SaaSはまだ中堅・中小企業(SMB)に向けたものが多いが、今後さらに進化してコスト対効果が高まれば大手企業でも利用が飛躍的に伸びる可能性がある。ASPの特性として言われてきたメリットはそう変わってはいないが、可用性が大きく伸びた原因は3つあると思う。 整う周辺環境 1つはサーバー自体が安くなり、1つのサーバーに複数のシステムを同居させることのできる仮想化技術も飛躍的に進歩したことである。昔メーンフレームを使って共同利用型オンラインサービスを提供していた時に一番悩んだのが、ユーザー数の伸びに応じて、いつ高価格のメーンフレームを増設すればよいか見極めることだった。 1台数十億円もするハードを増設すれば、その時点から何年かは収益性が悪化する。現在ではサーバー価格は極めて安くなり、さらに仮想化しての利用が可能だから小刻みな増設ができる。それだけサービス事業として収益モデルを組み立てやすくなったと言えよう。とはいうものの投資先行型のモデルには違いがなく、利幅が少なくとも確実な収益が見込める人材派遣型ビジネスモデルに慣れた従来型情報サービス業界はなかなか進出できないかもしれない。 2つ目は、ネットワークの高速化と低廉化だ。メガビット級の回線が月々数千円で利用できるようになり、ユーザーインターフェースの優れたアプリケーションをサーバー側から逐一配信して提供することができるようになった。一部の機能を使うために追加ソフトが必要になった場合でも、即座にダウンロードできる。 そして3つ目は業務アプリケーションの進化だ。利用企業の業務の抽象化やプロセス改善が進んできた結果、複雑な処理を要するような業務も標準的なパッケージソフトで対応できるようになってきた。またソフトウエア技術の進展で、利用企業の嗜好を生かす機能を組み合わせて使うことができるソフトウエア構造を作れるようになったことも、利用者が増えている要因だろう。 急成長する米社
このような状況の中で、最近注目されているのが、カリフォルニアで急成長しているネットスイート社である。ネットスイートはこれからはSaaS時代が来ると感じたオラクルのラリー・エリソン会長兼CEOが、かつてオラクルにいた仲間(Evan Goldberg氏:現ネットスイート最高技術責任者)の会社に自分の資金を出資して育成してきたベンチャーである。統合基幹業務ソフト(ERP)・顧客管理(CRM)・電子商取引の3つを包含する統合型のオンデマンドアプリケーションを提供し、中堅・中小企業をターゲットとした低価格のソリューションを提供している。 2006年の売上高は7000万ドルに達する見込みで、これをベースに2007年の中ほどには株式公開(IPO)に向け準備中らしい。上場時の市場価値は約10億ドル(1200億円)に達するものと推測されている。現在日本で上場している情報サービス・ソフトウエア企業で、時価評価が1200億円と言えば、10番目くらいにランク付けられる。1998年にスタートした企業が、ここまで急成長する力がまだアメリカにはあるということが、脅威である。余談であるが、このIPOでラリー・エリソンはまたしても巨額のキャピタルゲインを取得する模様だ。 SaaSを活用するとアプリケーションの導入が迅速かつ容易に可能となると述べたが、良い実例がある。最近話題を呼んでいる、3次元仮想世界の「Second Life」を運営するリンデンラボは、ソリューションプロバイダーを活用している。ネットスイートの会計システムを導入、ペーパーレスでの会計支払い手続きの導入など会計関連処理の再構築を60日以内で完了したという。さらに今後ネットスイートのCRM機能の導入も進める。 日本では2006年6月末からネットスイートのCRMの日本語版「NetSuite CRM/CRM+ for Japan」の販売が開始された。CRMは月額1万1000―1万5000円程度で利用できるという。 このネットスイートに対抗しているのが同じオラクル出身者で、かつてシーベル社が創設された時の投資者マーク・ベニオフ氏が率いるセールスフォース・ドットコムである。パッケージ構築・販売のビジネスモデルに固執するトム・シーベルと袂を分かち、シーベルとは異なるビジネスモデル、すなわちオンデマンド型のCRMを提供している。 この世界ではすでに8年もサービスを提供しており、2007年1月末現在で全世界2万9800社、64万6000にのぼるユーザーが利用している。その利用料金は1ユーザーあたり月7500円で利用できる低廉なものとなっている。最近ではSMBに限らず大手企業の採用も増えている。 セールスフォースは従来のASP的なソフト提供以外の面も注目されている。すでに多くのユーザー企業を持っていることを生かして、SaaSのインフラ企業へ変身することである。セールスフォースは自社インフラのインターフェースを公開し、独立ソフトウエア企業がパッケージをSaaSとして展開できるようにした。セールスフォースの3万社、60万人以上のユーザー基盤を生かし、自社のみでは時間のかかる各種業務処理サービスの充実を、仲間を集めることで速める作戦だ。 グーグルも参入 上記の2社のほかに、グーグルは昨年米国会計処理サービス大手のインテュイットに資本参加した。ネット企業の代表格であり、SaaSインフラ提供サービスの最前線にいる企業だから、今後の展開は容易に予想できる。 翻って日本の現状を眺めると、いささか淋しいものがある。大手企業向けの業務パッケージ分野では独SAPとオラクルに席巻され、SMB分野でかろうじていくつかの企業ががんばっている。これさえも、グローバルな競争力を持つ企業が本格的にSaaSないしはSaaSインフラを提供し始めたとき、どこまで独自性を保ちながら存在価値を維持できるであろうか。 すでに数年前から、顧客企業別に作りこむ業務ソフトの収益性が低下していることが目に見えていながら、大手のシステムサービス企業は汎用性の高いパッケージソフト提供やSaaSに転換できないでいる。中堅ソフトウエア・パッケージ企業も同様である。ここ2―3年は人手不足になるほどの好況ではあるが、それに酔って方向性を見失ってはいけない。気がついたら「ERPと同じ道」では極めてまずいだろう。 [2007年4月10日] ● 関連リンク● 記事一覧
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