更新:2009年7月7日 10:25ビジネス:連載・コラム
勝間和代のITマーケットウォッチネット広告の停滞は課金ビジネスで救えるか
今回は、ネット広告の成長が停滞するなか、課金ビジネスはコンテンツプロバイダーの今後の成長を助ける柱となりうるのかを考察する。(勝間和代のITマーケットウォッチ) 新聞広告や雑誌広告、テレビ広告が減少するなかで、ネット広告市場は年率で2ケタ成長を続け、ラジオ広告の市場規模を上回った、しかし、今年に入ってからは経済危機の影響もあり、成長がすっかり鈍化してきている。 ネット広告先進国の米国では2008年第3四半期から、成長率がほぼゼロに近づきつつあり、同じような状況が日本でも近いうちに起こりうるだろう。 ネット広告の成長が停滞してきた背景には、以下のような理由があると考える。 ・広告ビジネス全体の縮小傾向が続いていること 例えば、多くの企業は不況に伴い、「広告費の前年比30%カット」といった予算配分指示を出している。広告ビジネス全体がしぼんでくると、たとえ全メディアの支出におけるネット広告のシェアが上がったとしても、以前ほどの絶対的な伸びは望めなくなる。 加えて、国内市場が少子高齢化により縮小傾向にあるという問題がある。これまでは金融や自動車などの業種がネット広告を積極的に打ってきたが、内需が縮小すれば、こうした広告効果が認められる業種自体の数が頭打ちになる。あるいはそうした業種におけるクライアント数も、少なくなっていく。 さらに、ネットのヘビーユーザーは、例えば無料ゲームに熱中する中学・高校生といった層である。ページビュー(PV)が多いから広告媒体として魅力的かというと、必ずしも、そうとは言い切れないことがわかってきてしまったのである。 ネット広告もこれまでの試行錯誤期を経て、だんだんと費用対効果が明確になってきた。この市場が落ち着きを見せ始めたタイミングに、今回の経済危機が重なり、ダブルでブレーキになってしまったのだ。 そこで現在は、これまで広告収入に頼っていたコンテンツプロバイダーも新しい収入源として課金サービスに目を向けるという流れになっている。 課金サービスの最近の動向では、注目すべき点が3つある。 無料サービスの有料化 追加サービスで有料化 プラットフォームサービスで有料化 ただ、私はコンテンツプロバイダーのネット上での課金ビジネスが成り立つには、いくつか要件が必要だと考える。 なぜならインターネット上では、供給者の制限がほとんどなく参入障壁が低い。そのため、他にも選択肢があるコモディティー的なコンテンツの場合は、時間の経過とともに極限まで価格が低下してしまうからである。すなわちコストに見合うだけで、付加価値はゼロというところまで下がるのである。 実際、ネット広告のPVあたりの単価が下がってきているのも、多くのコンテンツがコモディティーであり、価格競争が極限まで行きついてしまう傾向にあるためである。私はこれを、かねてから「インターネットは貧乏神」と表現している。 それでは、コンテンツプロバイダーがコモディティー化に逆らって、課金ビジネスを成り立たせるための要件は何か。それは、下記の3つの方向性があると考える。 (1)供給価値のスペシャリティー化 供給するものが代替がきくもの、すなわちコモディティーだから、極限まで値段が下がってしまう。したがって、他のコンテンツとは比較できない価値、言い換えればブランドバリューがあれば、課金レベルを維持できることになる。例えば、固定ファンがいるタレントブログなどが、いい例だろう。 スペシャリティーになる一番いい方法は、ニッチにフォーカスすることである。ニッチな市場では、無料広告モデルも成り立ちにくい。競合企業が参入する余地がないほど狭い領域で、「ファースト・ムーバー・アドバンテージ」をとることが重要である。 (2)物理的なレイヤーとの垂直統合モデル インターネット内ですべてのサービスを完結せず、何か物理的な意味があるサービスを追加する。前述した、ほぼ日刊イトイ新聞のほぼ日手帳、mixi年賀状はその例である。mixi内でマイミクに年賀状メールを出すことに課金するのは難しいが、これをリアルな年賀状にすることで、課金が可能になる。 また、iTunesやApp Storeもネットサービスというよりは、iPhoneやiPodという端末の物理的特性と連動したサービスであり、端末特性に依存しつつそれを参入障壁にしている。 (3)顧客セグメントの厳選 インターネットや携帯電話ユーザーの大多数は、「お金はないが、時間がある人」だが、「お金よりも時間が惜しいセグメント」は一定数存在している。そのセグメントがほしがるサービスであれば、有料課金も可能になる。 例えば、iPhoneはユーザーの年齢が高く、いわゆる「アラフォー」と呼ばれる40歳前後がボリュームゾーンである。だからこそ、時間をお金で買うことが正当化される。iTunesも同じように、コストパフォーマンスが悪くても利便性を優先する顧客を囲い込んでいる。携帯のアバタービジネスも、高級アイスクリームのようなちょっとした贅沢品が買えるセグメントに訴求しやすい。 したがって、課金サービスでの成功は確かに難しいが、 (1)〜(3)の要件を満たすものほど、確率が高くなると考えられる。この仮説を確かめるため、自分自身でも今年6月に携帯とPCでそれぞれ1つずつ実証を開始した。 1つは、多くの携帯コンテンツが若年層向けであるのに対し、30代以上のビジネスパーソンを対象にした携帯コンテンツの提供である。「勝間和代 脳力up」という名称で、公式携帯サイト(http://katsuma-puzzle.jp)を始めている。論理的思考力・水平思考力を日常的にパズルを解くことで育成しようとする試みである。 これを、上記3つの要件に合わせると、次のようになる。 (1)他のコンテンツではなかなか手に入りにくい、良質なビジネス思考に関するコンテンツを提供する
もう1つは、「人生戦略手帳」である(http://www.katsumaweb.com/modules/diary/index.php?content_id=1)。これは、リファイル式の手帳であるが、メーンのコンテンツは手帳を続けてもらうための日々のサポートメールである。 同じく、これを上記3つの要件に合わせると、以下のようになると考える。 (1)手帳の使い方に止まらず、励ましや自己啓発、仕事のヒントなど、どうやって人生戦略を設計し実行すべきかをサポートメールとして毎日配信する この2つの課金ビジネスの試みが本当に成功するかどうかは、あと1〜2年の経過が必要だろう。とはいえ、当初からものすごくうまくいくようなホームランを狙うのではなく、実際の経過をみながら、継続的な改善をしつこく続けるヒット・エンド・ランのような形の方が、成功確率や再現性は高いだろう。 これは、初期のインターネットビジネスや広告モデルが教えてくれた方法であり、リードタイムを短く、ビジネスモデルを柔軟に変えられることが、ネットビジネスのずば抜けた特徴である。 実は、課金ビジネスを成り立たせる最大の要因は、これまで述べてきたような静的な要件そのものではなく、それを「継続的な改善を厭わずに、すばやく行う」という動的なプロセスにあるのである。そして、そのフィードバックの力が優れたモデルのみが、広告から課金へと収入の中心が移っていくなかで、生き残ることができるのだろう。 [2009年7月7日] ● 関連記事● 関連リンク● 記事一覧
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